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第17話:いざ、ナダイナ公国

 ぱちん、と何かが弾ける音で戌亥沢は目を覚ました。どうやら焚き火に()べていた燃料が弾けた音らしかった。

 時刻不詳に目覚めるという不運を寝起きの思考が回らない頭で罵りつつ、彼はしばらくの間ぼんやりと夢と現実の境界を彷徨った。

 比較的ショートスリーパーな戌亥沢の平均的な睡眠時間は六時間前後である。が、偶然とはいえ目覚めてしまった以上は、睡眠時間から現在時刻を逆算することは出来ない。

 故に今が朝なのか──夜中なのかは判別が難しい。

 戌亥沢は眠たげな眼でゆっくりと周囲の状況を見渡す。

 そして、地面に打ち込んだ楔と樹木をロープで結び、葉の茂った枝を幌の代わりにした簡易なテントの屋根の下で自分が横たわっている事を再認識した彼は、改めて自身の置かれている状況が夢でないことを知って溜め息を吐いた。

 目覚めたらいつものベッドの上で、何気なく朝食を済ませ、何事もなく制服に着替える──そうだったら良かったのに、と気を落とす。

 それからややあって上体を起こした戌亥沢であったが、正直なところ身体の疲れは全くと言っても差し支えない程に解消されていなかった。なんなら、他の誰かに起こされるまでは二度寝でもしようかと思える程度には。

 しかし、

「お。目ぇ覚めたか、おはよ。戌亥沢」

「……おはよう、ゆっきー」

 テントの外で体操(ラジオ体操?準備体操?)を行なっていた刃連町に覚醒を気取られ、戌亥沢の二度寝計画は座礁する。流石は部活生──寮生といったところか。

 早起きが身に付いているらしかった。

「今は二十二時とちょっとくらいだぜ。……まあ、日本時間で言えば……朝の六時ってとこだろうな」

「そっか……早起きなんだな」

 戌亥沢らが(少なくとも戌亥沢が)眠りに着いた時刻は15時を少し過ぎた頃の時間であったので、そこから逆算するに7時間の睡眠は確保できた計算となる。

 睡眠時間が短めな戌亥沢にとっては久々の熟睡とも呼べる休息であったが、それでも疲れが残っている辺り昨日のハードさがよく分かる。

「はは、まあな。けどアラーム代わりの校歌がないだけ余分に寝ちまったぜ」

 言って笑いつつ、刃連町はちらりとキャンプファイアの火にかけた鍋に目を遣る。ふつふつと滾る湯の中には人数分の干し肉が煮えていた。

「それ、朝飯な。……みんな起きてからでも良いけど」

「……どうせならみんなで食べようぜ」

 そんな会話を交わしつつ戌亥沢は空を見上げる。頭上には太陽こそ見えなかったけれど、空の色は確実に──着実に暗い紺色からスカイブルーへと変化しつつあった。

 それは、ルトリフアにも朝が来るという何よりの証左であり。朝が来て、夜を迎えるという基本のサイクルがきちんと整っているという証拠に思えた。

 しかし昼夜サイクルが如何に整っていようと当面は避けられぬであろう問題点も無論存在する。『本来ならば休止している時間』に身体が順応──活動してくれるかどうかだ。

 いきなり活動サイクルをひっくり返すのだから、しばらくは辛い日々となること請負である。

 ただ、まぁ。

 生き残る為には否応なしに適応していく他あるまい。

 斯くしてそろそろ太陽が拝めようという頃合いに犬鳴が目覚め、外内が起床し、一番合戦も覚醒し、小瀧原も夢から覚め、投刀塚もぐずぐずと起きて来た。

 そして。

「じゃ、行こっか。えーっと、『ナダイナ公国』に向かって出発!!」

 たっぷりと食事やら身支度やら野暮用に時間を割いた『チーム:ドッグ』は小瀧原の元気な号令一下で旅を再開するのであった。

 戌亥沢を先頭に行軍を開始した彼らだったが、やはりその足取りはやや遅く。目に見えて疲労が蓄積しているのであった。

「……地面で寝たから、身体が痛い……」

「……うん。寝心地悪すぎだよな」

 寝心地の悪さと筋肉痛も相俟ってか、殊更投刀塚のコンディションとテンションは低かった。腕枕の一つでもしてあげていれば或いは軽減出来ていたかもしれないが……流石に幼馴染とはいえ憚られるシチュエーションだろう。

「昨日は戌亥沢くんをベッドにし損ねてしまった。明日からは頼むぞ」

「頑なに俺をベッドにしようとするのはやめてくれ」

「恥ずかしいのか? ふふ。今さら何を恥じらう」

「変な関係をでっちあげるのもやめろ」

 一転、寝覚めの際に極めて低い声で「あ?」と威圧してきた犬鳴はテンションが上がっていた。寝起きの彼女の機嫌の悪さは低血圧に由来するのかもしれないが……それにしても振り幅が大きすぎる。

「かれこれ一時間くらいは歩いた……よな?」

「ん……まあ……それくらい」

「……昨日はテントの設営、ありがとな」

「いいよ、俺に出来ること……あれくらいだし……」

 と、元ボーイスカウト所属であるとさりげなくカミングアウトした一番合戦の苦労を戌亥沢は労う。正味な話、彼がいなければ自分らは行き倒れよろしく地面に雑魚寝していたであろう事を考えると一番合戦の功績──存在は大きい。

 そうやって雑談やこれからの進路、敵への対処法やらを話し合っている内に、気がつけば陰鬱な森林地帯は穏やかな平原へと模様替えを果たしていて。

「っしゃ……見えたぞ! でけぇ!!」

 目測にして1キロメートル以遠の視界内に『チーム:ドッグ』は最初の目標地点を捉えた。

 巨大な城壁がそそり立ち、長大な監視塔が楼閣の様に突き出したそれは、イルロラの言葉を信じるのであればナダイナ公国に間違いなかった。

 興奮冷めやらぬといった具合の刃連町は顔中に喜色を浮かばせ、我先にと城壁へ向かい駆け出す。

 そんな彼を宥めようと走り出した戌亥沢と、後列をのんびりと歩いて二人を追従しようとした5人との間に。

「?!??」

 まるで戌亥沢と刃連町を仲間から分断するかの様に。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()

次回、ボス戦。

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