第16話:しばしの休息
14時27分52秒。離散していた『チーム:ドッグ』は既に合流地点へと誰一人として欠けることなく集合していた。そして結果発表ないし、成果の発表もおざなりに始まった事はというと、やや話の本筋からは逸れる不毛な審問会議であった。
「いぬいぬ……ロリコンだったんだ……」
「断じて違う」
「いぬい、こども好きだもんね……仕方ないと思うよ……?」
「こどもは好きだけど──ああっ、違う!! ペットとか妹弟みたいに好きってこと!」
「お前ってやつは……しばらく目ぇ光らせとくからな」
「ゆっきーまで俺を疑うのか!?」
『寝床探し』の最中に交わされた会話から彼女は戊亥沢を少女性愛者と判断し得る言葉をピックアップし、他のメンバーに共有してしまったのはある意味順当ともいえる。
箴言というか警告というか。
ヤツはロリコンだから気をつけろ、と婉曲的とはいえ伝えてしまったのだから、その後の顛末は言うまでもなかろう。
小瀧原に詰られ、刀投塚に庇われ、刃連町に責められ、外内に呆れられ、犬鳴に笑われ。
「……そう言えばさぁ、イルロラのあばら骨。齧ろうとしてたよな……?」
滅多に発言しない一番合戦にとどめを刺され、戊亥沢はかつてない窮地に陥っていた。どうしてそんな下らない会話を覚えてんだよ。
「ち、違う。他意はないんだ……骨フェチなんだよ──イヌだけに?」
「は、はははははは!!」
戊亥沢のスタンダップコメディーに唯一犬鳴だけが笑ってくれた。誰も笑わなければ救いようがなかったが、ひとまずは彼女の破顔に救われた戊亥沢であった。
しかし、今はそんな救いに報われる状況でもない。
いや。救われるというならば、それは戊亥沢らの探索の成果の大きさか。
話は本筋に──本流に戻る。
「──ふぅん、支援者Iね……」
結局寝床を見つけるというメインミッションに失敗してしまった戊亥沢率いる、『チーム:ドッグ』は当てもなく暗闇の中を歩き回る事となってしまったのだけれども。
その行脚の最中に戊亥沢は手に入れた物資の出自をチーム間に説明しておいた。その怪しくさえもある不自然な生活必需品の数々に刃連町はなんだか訝しむ様な声音で尋ねる。
「その支援者Iっていうのはイルロラなんだろ?」
「うーん……多分な。次に女神像を見かけたら聞いてみようと思ってる」
「ま、これだけいいモン貰えたら普通にありがたいよな」
やはり当事者ないし、客観的に見ても有難いラインナップであることには違いないようだった。本来はお湯で戻して食すのであろう干し肉を、がりがりと食べつつ刃連町は破顔する。
全員が大なり小なり──無論、戊亥沢も含めイルロラに僅かながら不満を持っていたというのに──。
胃袋を掴むということは、手っ取り早く主従関係を築くのに最適の方法らしかった。野良猫にご飯を食べさせてあげるようなものだろう。
「お、ここいいんじゃないかな?」
ふと。
足を止めたのは──穴場に目を止めたのは小瀧原。
「ふむ、いいな。下手に入り組んだ場所よりかは開けた場所の方が防御に適しているかもしれない」
そこには。そこだけに木々や雑草の生い茂っていない、なだらかな二坪ほどの平地がぽつんと森の中に存在していた。
なるほど、確かに死角の多い森の中に於いては却って視界が確保できている方が安全な気がする。相手が──敵が人間であったならば愚策であろうが、少なくとも昼に対峙した蟷螂らが相手であれば戦いやすかろう。
直線的に襲いかかってくる事が前提だが。
「んじゃ、今日はここでキャンプって事で……いいよね?」
外内の念押しじみた確認の言葉に、不安げに辺りを見回す少年少女らはややあって頷く。
やはり夜の森で眠るという恐怖心や不安感は簡単には拭えないようだったけれど。
「なんでもいいからメシ! メシにしようぜ!?」
そんな刃連町の言葉に不安は──雰囲気は存分に和らいだのであった。そうだ。
『チーム:ドッグ』は様々な危難やアクシデントに見舞われながらも、幸先の良いスタートを切っているはずなのだ。
当面の──ナダイナ公国とやらに辿り着くまでの物資だって手に入れたし、イミカ石だって僅かながらもストックしているのだから。
きっとやり遂げられる。
「じゃあ……俺は、テント張っとくから……」
と、元ボーイスカウト所属の一番合戦。
火を起こし始めた小瀧原、犬鳴。
空の2リットルペットボトル(捨てる予定だったスポーツ飲料の残骸らしい)に水を汲んで帰ってきた刃連町、投刀塚。
特にやることも無く歩哨を買って出た外内。
そして本当にやることも無く火起こしに半ば無理やり加わった戌亥沢ら七人の生徒が、しばしの間自分らの使命や状況も忘れてキャンプの準備を楽しんだ事は言うまでもなかろう。
それは、勉学に追われ久しく忘れていた感情なのだった。
CAPCOMのキラータイトルに殺されていました。ぼちぼち再開していきます