第13話:ナイトフォール
その性能はいつまで持て囃されますか?
「……参考にならないと思うけど、今の時刻は13時27分だよ」
「13時? ……嘘だろ……」
今まで触る必要がなかったというか。取り立てて必要な場面が見当たらず、ずっとポケットにしまい込まれていた携帯型デバイス──スマートフォンの画面を見て、小瀧原は刃連町に現在時刻を告げた。
13時と言えば──厳密には13時27分といえば昼食が終わり、5時限目の授業が既に開始している時間帯である。
なのに。それにも関わらず。
「もう日ィ暮れ始めてるよな!?」
空が赤みを帯び始めているという事実はどうしたものだろうか。
戊亥沢らはルトリフアと地球との間に時間のズレが生じていることをイルロラから聞いていない。どう考えても必知事項である事を彼女が教えてくれなかったのは、それが瑣末な問題だからか単に言い忘れただけなのか。
しかし我々がどれだけ焦ろうと──慌てようと、陽は刻一刻と沈んで行くのである。地球の日暮れと何ら変わりなく、太陽は西へと沈み、木々や山々に影を落としていく。
「まずいな……ってか、やっべぇぞ」
そう緊張した面持ちで呟いたのは戊亥沢。まさか無意識の内にクラスメイトの口癖が出るとは思っていなかったけれど、そんな事に割く意識もないほどに全員が危機感に思考を釘付けにされていた。
夜の森に男女7人だなんて、考えただけで危ないだろう──いや、変な意味ではなくて。純粋に生命の危機なのだ。
視界がただでさえ不明瞭な鬱蒼とした森の中で夜を過ごすという事がいかに危険な事なのかは、よもや説明するまでもなかろう。木の陰、闇の中、枝の上、適当な場所に潜まれるだけで致命打を受けかねない。
災厄の事態を迎えたならばイルロラに蘇生を頼むことも出来るのだろうが──最悪の事態は誰かが死んでしまうことではない。
全滅してしまうことである。
正味な話、イルロラの奇蹟に一度与ってしまった戊亥沢の生死感はがらりと変わってしまった。死人を安価かつ簡単に蘇らせられるだなんて、まるでそれは。
──トライアルアンドエラーのようではないか。
だから現実的な話、一人二人の死は実はそこまで問題ではないのである。問題はパーティーメンバー全員の死だ。
一人でも生きていれば二人、三人……と(あくまで上首尾に事が運ばれることが前提だが)蘇生を繰り返して、いつかは元の人数に戻ることが出来るだろう。
しかし全滅してしまえば、それはもうゲームオーバーも良いところの──さしずめ、コンティニュー不可の強制タイトル画面といったところか。
つまり文字通りの終わりなのである。
「……ナダイナ公国ってところは、まだなのかな……?」
間断なく落ち続ける陽の光で物理的に顔を陰らせる投刀塚が、やや疲れた様に言う。
一度死を経験したからだろうか、辺りの様子を頻繁に窺いながら戊亥沢にぴったりとくっつく彼女は明らかに夜を恐れているようで。尋常ではない程に怯えていた。
震えていた。
「……大丈夫、きっとすぐに着くって。ナダイナってトコに着いたらさ、シャワー浴びて美味い飯食って、町を散歩して──ぐっすり寝ようぜ?」
その震えを──怯えを取り去るような優しい声で、戊亥沢は前向きな言葉を投げ掛ける。実際そこには自身の望みも綯交ぜになっていたけれども、その言葉は少女の希望となったようだった。
「そ、そうだよね……? すぐに……着く」
「ダメだ。多分今日はキャンプになると思う」
不意に頭上から降り注いだ外内の言葉が投刀塚の発言を遮る。
声につられて天を──正確には戊亥沢らの頭上の枝に登っていた外内を仰ぎ見ると、目元から双眼鏡らしきものを外す彼の姿が見られた。
……異能の本来の使途ではないのだろうが、やはり外内の能力はズバ抜けて汎用性が高いと認識せざるを得ない。双眼鏡までもパントマイムで使用出来てしまうなんて。
「んんー。まあ……国──ナダイナ公国っていうのは見えたよ。だけど、めっっっちゃ遠いっぽい」
言いつつ悔しげに枝から降りてくる(まさかのファストロープを使用した風な降り方である。マジですげえ)外内を見遣った6人は、落胆したかの様に肩を落とす。
「そっか……めっっっちゃ遠いんだね……。今夜はシャワーもご飯も無しなんだね…………」
がくり、と遂に投刀塚は細い脚を折る。力尽きた様にその場に座り込む。
続いて刃連町も諦めたかの様にその場に蹲り、
「もうダメだ……腹ペコで死んだ……」
空腹を訴え、失意の底に沈んだ。
そうか。街に着くことが出来ない以上は、食料は現地調達に頼る他あるまい。しかしこんな異世界の植物・動物を胃の腑に納める度胸が齢18歳の少年少女らにあるはずも無く。
従って今夜は──時間的にはランチは諦めざるを得ない。
「俺……腹ペコに超よえーんだわ……マジで毎食、ご飯三杯は食わねーと持たねぇもん……」
と、いかにも寮生らしい言葉を口走る刃連町に感化されたのだろうか。
「そういえば……確かにお腹が空いたな」
「うぐぐ……なんか食べたい……」
「僕はまだ大丈夫だけど……」
暫く無言だった犬鳴、小瀧原は空腹を訴える。一番合戦はまだ大した空腹を感じていない様だが……恐らくはそれも時間の問題だろう。
人間の三大欲求は食欲、性欲、睡眠欲である。その中でも特に優先される欲求は食欲。何故この欲求は何事よりも優先されるのだろうか──答えは至って簡単。
食べなければ死ぬからである。
死にはしない程度の絶食、欠食であろうと積み重ねれば栄養不足といった危険な障害を負いかねない。身体が欲しているものを無視するという事は、とても危険な行為なのである。
だから。
飢え死にはまだ現実的ではないとしても、ルトリフアに来てこの方何も飲んでいない『チーム:ドッグ』は脱水症状にも襲われかねないのだ。
本当に、あの神様はどれだけ残酷なのだろうか。
「よーし。それじゃあ、目下の急務を確認しよっか。まずは……?」
と、まだまだ元気な様子の外内が尋ね、
「食い物!!!!」
刃連町が叫ぶ様に答える。
「うんうん。空腹だと寝れないもんね。じゃあ、その1『食べ物の確保』……その2は?」
「飲み水の確保。……このまま寝たら、多分朝がヤバイ」
この質問には戊亥沢が答える。その答えに外内はやはり大きく──大いに頷く。
「そうだね、水も要る。っていうか料理には水が要る……その2は『水の確保』……あとは?」
「……火、じゃないかな。暗い森で寝るなんて……怖くてムリ……」
「流石だね、投刀塚さん。っていうか水を沸騰させるには火が──」
そんな調子で作られたto doリストに名を連ねたのは最終的に『水の確保』『食べ物の確保』『寝床の確保』であった。最早残された猶予はあまり無いだろうが──生命を繋ぎ止める為にも、絶対にやっておかなくてはならない事であるのは疑いようも無く。
「じゃ、1時間以内にここに集合してね。それから……絶対にペアとはぐれないこと。オーケー?」
水の確保を小瀧原と刃連町が。
食料の確保を一番合戦と投刀塚と外内が。
寝床の確保を戊亥沢と犬鳴が務める事となったのであった。
今回のお話はバイオハザードについてです。
バイオハザードといえばCAPCOMの顔と言っても差し支えない程のビッグタイトルであり何と、かのモンスターハンターの1.7倍もの売り上げを誇る作品なんだそうです(とはいえバイオハザードの方がリリースは遅い)。
僕は断然バイオはPS3以前が好きで、特にアウトブレイクシリーズとバイオハザード2は素晴らしいナンバリングだと考えています。勿論4、5、6、7、RE1・2も楽しいのですが、やはり懐古厨に言わせてみれば旧作を超える傑作は中々ありません。
──シリーズモノというものは扱いがとても難しい、という話を聞いたことがあります。
一作目で生まれた批判点を改善し、より楽しくなったシリーズの『2』は概して評価が高くなりがちですが以降が開発を難しくしていくのです。
『2』で自信を得た開発チームは『3』を作ります。しかし同じシステムでは飽きられてしまうため、別の新たなシステムを取り入れます──が、この新システムは旧作好きのプレイヤーからすれば、賛否両論点となってしまいます。
ユーザーの欲するものを提供できるか否かがゲーム会社の社命を握っているのは、昔から全く変わりませんね。
エロバレー、オメーの事だ。