第12話:やがて堕ちる太陽
コラボ限定キャラクターを排出中です。二度と手に入らない可能性があります。
イルロラは決して非人道的な神ではない。
ややマッチポンプ的ではあるものの、生命を削ってまで35人もの人間に武器と防具を与えてくれたし、何かと説明だって親切に行ってくれた。
しかし、それでも。
彼女はやはり神様なのである。
投刀塚の死をイミカ石一個という破格の価格で帳消しにしてくれたのだって、別に彼女を失った『チーム:ドッグ』を憐れんだからではなく。
蘇生を頼まれたから。
それが可能だから。
やれるからやった、ただそれだけの理由なのだろう。
雲の上の存在と平々凡々な一人間である我々『ヒト』とでは凡そ、似ても似つかない程の死生観を持っているのだろう。
つまり少女イルロラは『心』を理解することが出来ない。
だからだろうか。投刀塚が嗚咽を漏らして戊亥沢と抱き締め合う姿を見たイルロラは、悲しげな顔を見せるでもなく頬を赤らめてもじもじと身体を揺らすのであった。
うら若き男女の抱き締め合う姿に照れているのならば、とんだ初心な神もいたものだ。
「えっ、ええ、えっとぉ……イミカ石のその他のサービスを伝えたいんで、ちょっと聞いていただいてもよろしいでしょうか?」
目の前のラブロマンスライクな光景に恥ずかしさのあまり耐えられなくなったらしいイルロラが手を叩いて乾いた音を響かせる。
そうやって婉曲的に戊亥沢と投刀塚を引き剥がしにかかる。やはり、何故二人が抱き締め合っているかを──7人が悲しそうに俯いているのかを少女は理解していなかった。
いっそ全員で投刀塚にハグしてみようか、とも戊亥沢は考えたけれども。無駄に話の展開を遅らせる必要はないだろうと考え直し『チーム:ドッグ』は疎らな列を成す。
「はい、どうも……。それでは、イミカ石のサービスを──現在提供可能なサービスを列挙させていただきます。まずはサービスその2、ルトリフアの通貨『翠貨』との交換です」
「suica?」
驚いた様に尋ね返したのは、電車通学生の小瀧原。まさか自分の持つICカードがこの世界の通貨に成り得るとは思わなかったのだろう。電子決済が流通しているとなるとルトリフアは、技術的な分野なら我々の世界とそこまで変わりないのかもしれなかった。
が、イルロラは笑う。笑った上で否定する。
「いいえ。あのペンギンが描かれたカードではありません。これが『翠貨』です」
と、少女はスカートのポケットをまさぐっていた手を少年少女らの前に差し出す。その手には翡翠色に美しく煌めく、板状の小さな延べ棒が載せられていた。
なんというか戊亥沢の知る限りでは、それは天保一分銀に最も形も大きさも近しかった。銀色が翡翠色に変わったくらいの差異しかない。
「地球のお金はゴチャゴチャとやかましいですが、翠貨での商品・サービスのやり取りは至ってスマートですよ──まあ、使ってみればすぐに分かるでしょう。
サービスその2はイミカ石1個と翠貨7個の交換です」
「その『スイカ』7個って、例えばどれくらいのお買い物に使えるの? こっちの物価が分からないんだけど……」
「うーーーん……わたし自身があまりお買い物をしないので少し曖昧ですが……食料品だけを買うのであれば、一ヶ月以上はお腹を空かせずに済みます。勿論、一人当たりですが」
「7人で一ヶ月分の食料を分けたら……約四日分か。結構多いかもね」
と、質問者小瀧原は満足げに頷く。物価が曖昧な点に関しては町を見つけて、実際に商品のやり取りをしてから適性なレートを確認していくことになるだろう。
無論、商品が流通していることと『スイカ』での取引が可能であるという事が大前提なのだが。
「サービスその3は皆さんの大好きな『防具ガチャ』です! こちらはかなり骨が折れるサービスなので、イミカ石3個での取引となります。悪しからず」
「それって……やっぱり、その、ランダムなの……?」
続けて質問を投げかける小瀧原(どうやら質問に徹するつもりらしい)は、無礼な視線を戊亥沢へと一瞬だけ送った上で尋ねる。確かにレザー装備はいくらなんでも格好悪いが……やや礼節に失している。
他人の装備を引き合いに出せるほどの良質な装備を身につけている訳ではないが、それでもメイド服に身を包んだ外内よりかはよほど男らしい装備だと胸が張れる。
「おい。ボクをそんな目で見るな、戊亥沢」
「いや……うん。防具がランダムって良いことばっかりじゃないよな」
野球部二人しかり、外内しかり。
「はい、その通りです。かっこ悪い装備から、垂涎もののカッコイイ装備・お洒落で可愛い装備までなんでも排出されちゃいます。具体的にはN装備、R装備、SR装備、SSR装備が排出されますね」
「N装備? あっ、戊亥沢くんが着てるやつだね」
「……まんまN装備で悪かったな」
どうやら小瀧原の価値観ではかっこ悪い・お洒落ではない装備はN装備らしい。案外レザー──革製品は丈夫で長持ちする製品が多いので、耐久力や重量の観点から見れば少なくともR装備並のレアリティはありそうなものなのだが……。
「はい。戊亥沢さんの装備はN装備です」
「Nってノーマルの頭文字じゃないのかよ!!」
もはや戊亥沢の存在価値すら疑われ始めかねないイルロラの言葉──暴言に、彼は語気を荒める。ないよりマシな装備に身を包んだ無能力者って。
どこに需要があるんだよ。
「まあ……暫くは防具ガチャも手軽に回せないでしょうし、あくまでサービスの一つとして覚えていただければ幸いです。さあ、お次はサービスその4──『スキンの変更』です」
戊亥沢の言葉──文句を遮るようにイルロラは人差し指を立てる。そうして無言の圧力に沈黙せざるを得なくなった戊亥沢は憮然とした態度でそっぽを向くのであった。
「『スキンの変更』はイミカ石2個のサービスとなっております。文字通り、あなた方の姿を別のものへと変化させることができます。例えば美少女になりたいだとか、イケメンになりたいだとか──鳥になりたいだとか。種別種族性別を一切無視してあなた方を別の存在へと変化させられます」
「別の存在に?」
「ええ。しかも例えスキンを変更したとしても、いつでも無料で元に戻して差し上げられます」
もちろん再びスキンを変更するにはイミカ石2個を頂きますが、とイルロラ。スキンの変更という整形手術業界も真っ青な言葉の登場に──そして、その可能性に多感な少年少女らが唾を呑んだのは言うまでもなかろう。
実用性という無粋な問題は置いておくとしても、充分に一考に値するシステムであることは言うまでもない。
「そしてサービス5……と、言いたいところですが一気にお伝えしても仕方ないですよね。また次の機会にお話させていただきます」
イルロラは胸元から取り出した金色の懐中時計らしきもの(形はロケットそっくりである)を眺め、そう切り出す。
そう切り上げる。
「『チーム:ピジョン』がお呼びの様子ですので、わたしはこの辺りでお暇させていただきます。……ここから更に東へ進むと『ナダイナ公国』に到着します。そこにも女神像はあるので──皆さん無事に到着して下さいねっ」
そうやって女神像の中へと青白い光を残して消え去っていった少女の後ろ姿を見送った『チーム:ドッグ』は、
「東……ね。行こうぜ、みんな」
刃連町の号令と共にぼちぼちと歩き始めるのであった。
しかし残念ながら彼らは。
東の空が僅かながらも暗み始めている事に気付けなかったのである。何の用意もなしに夜を迎えようとせん彼らが朝日を拝む事ができるかどうかは、神のみぞ知る。
今回のお話はメタルギアシリーズに関するお話です。
メタルギアといえば『かくれんぼ』を軸にした隠密行動と大胆な戦闘──静と動を恐ろしいほど巧みな手腕で取り入れたステルスゲームの最高峰だと僕は考えています。
そしてなによりも特筆したいのは、その世界観とストーリーの密度。伏線や素晴らしいオチの締め方でしょう。特に何もかもが面白く、キャラクターも魅力的なMGS3は不朽の名作と言っても過言ではありません。無線イベントを全て拾い、ヨーロピアンエクストリームもクリアする程やりこみました。
しかしここではっきりと意見を述べさせていただけるのであれば、最近のMGSの凋落ぶりには落胆せざるを得ません。小島監督なしではやはりメタルギアの世界に命を吹き込むことはできないのでしょうか。
金の卵を産むガチョウを見ているような気がしてなりません。
kojima is god!!