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第11話:スワンプマン 前編

金がものを言うのは、どうやらデジタルの世界でも同じらしい。

 死者の完全蘇生。未だかつてそれを成し得た人物や組織は公には存在しないと言われる神性の所業。

 死者をリビングデッドの様な状態にして蘇らせる者──行為をネクロマンサーと呼ぶ者もいるが、ネクロマンシーとはあくまで一時的な蘇生ないし降霊術の一種であり、一旦蘇らせる事は出来れど生命が完全に元どおりになる訳ではない。

 しかし少女イルロラは言う。大仰な風でもなく、(うそぶ)く素振りもなく、平然とした態度で言ってのける。

「死者の蘇生でしたらイミカ石一個との交換で充分です。……あっ、勿論値切りは断じて受け付けませんよ?」

 と。

 その附註(ふちゅう)の意味を戊亥沢は既に理解している。恐らくは蘇生の異能を使うに際して、多少の魔力を必要とするのだろう。

 イルロラの魔力──生命はもはや払底寸前であり、そんな状態での異能の行使は本人以上に戊亥沢らの方が心配になるというものだ。

 仲間一人のためにメガザルを使う様な無駄遣い感が否めない。

 戊亥沢はイルロラに尋ねた。

「生き返らせる……って言っても、投刀塚の死体が必要になるんじゃないのか?」

「いいえ。必要ありません……もう既にご存知かとは思いますが、死亡した方の死骸は魂ともに冥界へ送られますので」

 冥界へ送られる? つまり、死亡した生物が消えてしまうのは──投刀塚が消えてしまったのは、あの世に送られたからとでも言うのだろうか。

 火葬や告別式を経て死者と別れを告げる習慣を持つ戊亥沢らにとって、そのシステムはあまりに残酷である。

 まるで遺影だけを見せられて終わる葬式のような、そんな寂しさ。

「わたしの魔力で冥界にいる投刀塚さんの魂をルトリフアへと再度召喚すれば蘇生完了です。傷も無く、完璧な状態でお届けします」

 そんな荷物の配達をするような口調で言われても困惑する他ないが……しかし、少女の弁には整合性があるのも事実であり。それも僅かな対価で死者を蘇らせてくれるというのだ。

 ならば、乗らない手はないだろう。

「みんな、良いよな?」

 戊亥沢は万感の意を込めてチームメイトの顔をぐるりと見渡す──その表情は一様に決意に満ちたものであり、全員が静かに頷いた。誰一人として肯かないものはいなかった。

「分かった。……イルロラ、投刀塚を蘇らせてくれ」

 注文を受けた神は不敵に笑む。任せろ、と言わんばかりの笑みを浮かべる少女の小さな両手が戊亥沢の目の前に差し出された。

 その、水を汲むような形をした手の中に戊亥沢はポケットから取り出した『ちっこい欠片』を一つ一つ──五つ載せる。それを目視で確認したイルロラはなんだか営業スマイルっぽい笑顔を見せて頷いた。

「はい、ご利用ありがとうございました! それじゃあ……投刀塚 那束さんを蘇生しますね」

 手に載っていた五つの欠片が不意に溶ける。まるで熱した鉄板に置いた砂糖の様に──或いは氷のように、完全に原型を失う事なく蕩けていき。

 その形が随分と小さくなった頃に、石は青白い発光を残してイルロラの手の平へと沈んでいくのであった。

「神殺しの責務を担いし少女。(おくりな)『投刀塚 那束』に告ぐ! (なれ)の使命は未だ果たされず、故に其の命は失われるに(あた)わず! 我が召喚の祝詞(のりと)を道標として暗澹(あんたん)たる死の淵より蘇り、現世へと再び舞い戻り給え! 召喚魔術:デッドアセスメント!!」

「……!?」

「!?!」

 驚いたのは合計7人。先ず初めに驚いたのは誰であろう──そう。

「……え、えっと……何言ってるの?」

 投刀塚 那束である。

 イルロラが召喚の口上を始めた辺りから(オクリナが云々言い始めた辺り)その隣に急に現れたのだが、神はその事に気づかず唖然とした『チーム:ドッグ』の前で口上を終えるのであった。

 つまりあの長台詞はただの演出というか、飾りだということが露呈してしまったわけだけれども。

 しかし。結果はきちんと伴っていた。

 悲惨な死別を経た筈の投刀塚が、何事もなさげな様子で現れたという事実に彼女を除く『チーム:ドッグ』の6人が激しい衝撃に見舞われたのは言うまでもないだろう。

 少なくとも戊亥沢は。言葉を失った。

「……ここどこだっけ……みんな何して──わぶっ!」

 その細く華奢で、今にも折れてしまいそうな身体を戊亥沢は強く抱きしめた。

 見れる。

 触れる。

 そして、何よりも。生命の温かみがその腕の中には確かに存在した。

 ゾンビの様な呻き声を上げて何やら抗議する投刀塚の暴れっぷりなどまるで意識に入れず、戊亥沢は暫くの間その身を抱き締め続けた。

 そうして、離れ際に一言。彼は言った。

「……おかえり。投刀塚。もう心配させんじゃねーぞ」

「????」

 戊亥沢の離れたタイミングで、邪魔すまいと待機していた5人が一斉に投刀塚の(もと)へと押しかける。感動のあまり感極まり号泣しながら走り寄ってきた刃連町なんかは、その鬼気迫る表情も相俟って軽くホラーだったが。

しかし、全員が投刀塚の復活を喜んでいるのは間違いない。

「……ふふ。喜んで頂ければ神様冥利に尽きます」

珍しく挿絵を入れようと思ったのですが、まだ挿絵が未完成なのでスワンプマン 後編にて掲示することになると思われます。

しばし待たれい。

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