第十三話 第一防衛システム
「くす、くす、クケケケケケケケ、ケ、ケ」
不気味な笑い声をあげる妖精は、ふらふらと左右に揺れながらもその身体を宙に浮かべさせたままだ。ミリアは両の手のひらに雷を纏わせ、先程のフォリンと同様に――ミリアの方が強大な一撃ではあるが――それを放った。見事に命中した妖精は、既に停止していた妖精達よりもその形を崩し、ようやくその機能を停止する。反応も無く、ただそこに転がる妖精。その身体を、ミリアは力任せに踏み付けた。ガシャリ、と。今はもう造ることの叶わない物質が砕ける音がする。
怒りを隠さないミリアの横を、フォリンが駆け抜けていく。フォリンは固い石畳に膝をつくと、力無く横たわるマルクを抱き起こした。
「マルクさん、マルクさん!」
「だい、じょう……ぶ。このくらい……」
結界はマルクの胸元を中心に破られていた。あの妖精は、どこを攻撃すれば効率的に人を傷つけられるか理解していたのだろう。出血こそなかったが、呼吸をするだけでマルクの眉間には皺が寄っていた。肋骨に皹が入っているか、折れてしまったか。後者でないことを祈りつつ、フォリンは彼を助け起こした。
「っく、う……」
「歩け……ます?」
「あぁ……なん、とか」
なんとか立ち上がったマルクの肩を、フォリンが支える。そんな二人の元に、上空の様子をうかがいながらミリアが歩み寄ってきた。
「まずいわ。あの門の妖精は壊したけど……他の門の妖精も哨戒を始めたみたい」
天を指差すミリア。その指先にあったのは先程と変わらぬ幾何学模様と、数を増した妖精の光。ここからその姿は確認できないが、正常な姿を保っているとは考え辛かった。
「あんなに……」
「全部が全部、あんなのになってたらこっちの身が保たないわ。……詰みよ」
苦々しげに呟くミリアの横顔は、フォリンがこれまで見たこともない程に真剣だった。彼女を見るだけで、状況の深刻さが嫌という程に伝わってくる。いくらミリアが優秀な法撃師であろうと、持ちうる法力には限度がある。心休まらないこの状況では、法力は減るばかりで回復もままならない。降伏を受け入れてくれる可能性が無いあたり、ヒト同士の争いよりも質が悪かった。
そんな時、彼らの耳に聞き慣れない音が届いた。甲高い、金属を打ち鳴らしたかのような音。それに続いて、若いというよりも幼いといった雰囲気の声が続く。
「ディアデム第一防衛システム、防護結界構築機構"アイギス"、システムエラーの発生を確認。エラーコードEQ67809103」
幼い声色には似合わない、極めて事務的な単語が並べ立てられる。ディアデム。防衛システム。アイギス。システムエラー。そして、エラーコード。それらは全て現代において死語となり、じきに使う人間も死に絶えてしまうことが確定している言葉だった。
「自己診断システム起動。エラーコードEQ67809103は深刻なシステムエラーです。システムの修復が必要です。ディアデム第一防衛システムはシステムの修復を行うため、全てのプロセスを強制的に終了し、再起動を行います」
淡々と並べられる言葉。聞き取れはするが、理解するには難解なそれは、三人にとって異国の言語のようなものだった。その上、言葉が並べられる速度はただただ一方的に意見を述べる時のそれそのもので。相手の反応を求めていないことは明白だった。
そしてその幼い声は誰の反応も無いままに、ほんの少しだけ間を開けて"宣言"する。
「これより、システムの修復を開始します」




