心清堂の店主と店員
【心清堂】
「来るんですかね……」
「さぁ……」
「さぁって……」
糸田の問い掛けに曖昧に答えた村上に呆れたようにため息を漏らした。すると
「間違いなく来ると思うで？」
二人の会話に割って入るように答える声が突然聞こえた。
「相変わらずいきなりの登場ですねぇ」
梶さんと声の相手の名前を言ってゆっくり振り返ってみれば、入口に一番近い席の椅子の背もたれに腕を乗せて一人の男の姿がこちらに笑みを浮かべて座っていた。
「あの男絶対来ると思うで」
「根拠はあるんですか？」
「根拠とかそんなもんないわ、ただ僕の勘ってやつ」
梶が質問に笑みを浮かべ、椅子に腰掛けたまま自分の頭に指差して軽く二回つついて答えた。
「相変わらずですねぇ」
「まぁなぁ……あっそういえば一人見当たらへんな」
梶が立ち上がりながら周りを見渡して言っていれば、
「あー後藤君の事ですか？後藤君はちょっと別件で」
「また無茶な頼み事したんやろ？」
「さぁ、それはどうでしょう」
「ほんまあいつとそっくりになってきたなぁ」
おかしそうに笑いながら呟くと椅子から立ち上がって
「まぁやからあいつは、お前を後継ぎとして選んだんやと思うけど……」
「それで本当の用はなんですか？」
「あー忘れとった……あの昨日来たお客さんの事なんやけど」
「あっもしかしてなんか分かりました？」
「昨日来たお客さんと仲良かった親友の名前やけどな、調べたら案外すぐ分かったで」
「おぉ、いつも通り仕事が早いですねぇ」
「それはどうも……それでこれが頼まれたもん」
そして梶は、村井に何かを手渡した。
「ありがとうございます」
「なんですか？それ」
「すぐに分かるよ」
糸田の問いにまた曖昧に答えると梶から受け取ったそれを懐に入れた。あとで必要になってくるからねと付け加えた。
「じゃあ戻るわ」
ひとまず頼まれたもん渡したで、と村井に言い残すと歩き出し横を通り過ぎた瞬間にスッと姿を消した。
