悲しみの真実
翌朝
カーテンの隙間から差し込んできた太陽の光でゆっくり目を覚まして、重い頭を起こした。
俺いつの間に……
(この店は、特別な人にしか来れないんですよ……例えで言えばあなたみたいな自分の事を憎んでいたりとか……)
「………………………………」
(本当は、いつまでも自分の事を憎んでいくのは、みっともないと思っているんじゃないですか?)
(自分を傷付いても誰も喜びませんよ?当然亡くなったあなたの親友も……)
(心に潜めている後悔を取り除きたいと思った事ありませんか?)
頭の中で村井と言う青年に言われた言葉が張り付いたように思い出す。
そしてあの店を出る直前に言われた言葉が一番印象に残っていた。
(もし自分をあの頃に戻したいと少しでもあるんだったらまた来て下さい、そうしたらまた扉は開かれますので……)
「あの頃の自分……」
(後輩としてです。伊野部さんにはあの憧れていた時に戻って欲しいんです)
病室で伊川に言われた言葉が胸に突き刺さった。
病室であいつも言うてたな……
視線を自分の右手首に移してゆっくり左手で包帯で隠れていないむき出しになっている昔の切り傷をスッとなぞった。
古傷をなぞった後に力強い右手を握り締めて
「変わらなあかんな」
それだけ呟いて立ち上がり、スーツのままだった格好から私服に急いで着替え、ある場所に向かった。
そうあの昨日の店に……
今のままではあかんような気がして……
店に向かう途中
「……先輩?」
「あー……伊川か?」
「どうしたんですか?先輩の方から電話してくるなんて」
後輩でもある伊川にひとまず電話をかけていた。
「いや、ちょっとな」
「まさかまた……」
「ちゃうわ」
「じゃあいったい……」
「昨日言ってたお前の言葉やっと意味が分かったような気がしたわ」
「えっ?」
「お前が憧れていた時の俺に戻ってみせるからな」
「先輩!?それって」
「……昨日は、ほんますまんかったな、怒鳴ったりして……でもあの時」
「謝らないで下さいよ、謝られたら先輩の威厳がなくなってしまいますよ?先輩は、堂々としてるんが先輩らしいんですから……」
電話口の向こうで伊川が嬉しそうにしながら声を高くして言っているのが分かった。
「威厳ね……分かったわ、じゃあまた時間が出来たらどっか飲みに行こうな?」
「……はい!」
「仕事休みにいきなり電話してもうてすまんかった」
「ぜんぜん良いですって」
また電話するわ、そう言い残して電話を切った。
電話を切るとまっすぐ歩き慣れた道を見つめて歩き進めた。