悲しき心持ちし者と青年2
「………………………………」
「あまり良くないですよ、自分の事を自分で傷付けるのは……」
「なんやねんお前……」
「あっひとまずカウンターの方にお座り下さい」
お前には関係ないやろ、村井に向かって言おうとしたとき
俺の言葉を受け流すように近くのカウンターに案内してきた。
「………………………………」
その流れに流されるように手首を押さえながらカウンター席に腰掛けた。
「あっ、メニューはこちらにおまかせ下さい、この店ではその人に会ったメニューをお出しするのが形になってますんで」
いつの間にかカウンター席の反対側に回った村上が笑みを浮かべたまま
「お冷やです。これで少し落ち着いて下さい、水はおかわり自由なんで……」
別に変なものとか入れてないですよ、本当に普通の水ですから安心して飲んでください。
少し疑っていたことが読まれたのか笑みを浮かべてどうぞと差し出された。
俺は、出された水を無言で飲み干した。
「……あなたの心は、悲しみで満たされていますね」
「えっ?」
水を飲み干したのを確認してから村井がこちらの顔をじっと見つめて呟いた。
「大事な人がいなくなってしまったんですね……」
「お前……何が言いたい?」
「親友を亡くされましたよね?それも最近に」
ずっと浮かべていた笑みを消えて真剣な表情でいきなり告げられた。
「お前なんでそれをお前が知ってんねん!?」
村井の発言に机をバンッと叩いて逆上した。
「図星みたいですね」
それに全く動じる様子もなく、また笑みを浮かべた。
「もう付き合っていけへん……もう帰らせて貰うわ」
なんとか怒りを抑えようと荒く自分の頭を掻きながら立ち上がり店から立ち去ろうと村井に背を向けた瞬間
「心に潜めている後悔を早く取り除きたいと思った事ありませんか?伊野部さん」
「……………………………………」
突然の問い掛けに動きが止まって扉の前にドアノブに手を掛けた状態で立ち止まってしまった。
「自分を傷付いても誰も喜びませんよ?当然亡くなったあなたの親友も……」
「そんな事お前に」
ドアノブから手を離し、小さく呟きながら村井の方に向き直すと大股で歩み寄り、そのままの動きで村井の胸倉に掴み掛かった。
「お前に言われる筋合いなんかない!!」
「本当にそう思われてます?」
「はぁ?」
「本当は、いつまでも自分の事を憎んでいくのは、みっともないと思っているんじゃないですか?」
「………………………………」
「あれっ?急に静かになりましたね」
「………………………………」
俺は、睨み付けながらゆっくり胸倉から手を離した。
「……まぁひとまずお席にどうぞ」
乱れた服を直しながら、静かに告げた。
「……何を企んでんねん?」
沈黙を続けていたがゆっくり不信感を抱きながら問い掛けるため口を開いた。
「別に企んでなんかいませんよ、僕はただあなたの事を救いたいだけです」
「俺の事を?」
「はい」
俺の問い掛けに村井は、笑みを浮かべたまま頷いた。
「……………………………………」
「……でも今日は、もう家に戻られた方が良いかもしれないですね、今日だけでも色々とありましたし、整理をする時間があった方が宜しいですから……」
「……………………………………」
「もし自分をあの頃に戻したいと少しでもあるんだったらまた来て下さい、そうしたらまた扉は開かれますので……」
笑みを少し深めると
「今日は、色々なご無礼失礼しました」
軽く謝罪をすると
「……帰ってええんやな?」
「はい、またのご来店お待ちしております」
「……じゃあ」
村井に背を向けて一言だけ言い残すと俺は、今度こそそのまま店を出ていった。
その様子を村上は、無言で眺めていた。