魔王、穴を掘る
街1つ滅ぼしてから二ヶ月が過ぎた。
魔王になった5人は楽しそうに学校に行っており、英雄ちゃんは教育者に授業を受けている。
そして俺は暇をしていた。
そんな俺に連絡が来たのが1時間程前のこと。
『キラト様、世界中の温泉の湧く地点を見つけ終わりました。好きな所からお彫りください』
こんな連絡が来た。
掘ってくれればいいのに、掘るように連絡が来たんだよね。
俺って魔王なのに穴掘るの?って思ってたら、スコップ持ってるせいで穴掘り魔王だと思われてたらしい。
ジオロは俺と知識共有してるはずなのに、悪ふざけが酷い。
「まぁ、温泉湧く所を世界中で見つけたって言われても、近場しか掘らねぇよ。」
「温泉私も掘る!」
俺は、メイがキラキラした目で「穴掘りしたい」と訴えかけてきたのを断われず頷いた。
そして現在、城からもすぐ近くの大草原に来ている。
ここの後は森の方も魔物たちの為に掘ってやるつもりだ。
「ジオロ、魔法で掘っちゃダメなのか?」
「魔法で掘るのはゴブリンたちでも難しいそうですので、スコップが良いのでは? 良いスコップあるじゃないですか。」
「そうですね、はい。」
絶対、ゴブリン達は働きたくなかっただけだと思う。
それに、俺は土魔法が使えないし。
まぁ、穴掘れば温泉完成なんだよね。
なんか、温泉の湧く地点に穴あけてあって、そこから湯が出ると全体行き渡る仕組みの温泉場が完成しているのだ。
アイツら絶対働かない俺を働かせたくてこれやったわ。
「えっさっさー」
「楽しいか?」
「楽しい!」
「そうかそうか。」
穴掘りを始めて1分。
俺はもう飽きてきた。
だって、このスコップ別にただのスコップだし。
耐久性と威力が高い事とレア度以外に凄さがない。
見た目もスコップだしさ。
「ふぅ、休憩っ! お父さん頑張れー」
「お父さん頑張るよー」
メイに応援されながら穴を掘る。
死ぬほどつまらない。
メイも飽きて鼻歌歌ってるよ。
「ジオロ〜。ジオロ?」
「あのおじさん帰ったよ~」
「ふざけてやがるな。」
「頑張れ頑張れ!」
ジオロに手伝ってもらおうと思ったが、逃げられてた。
始まって5分でもう温泉とかどうでも良くなってきた。
「やっぱ温泉いいや。風呂あるし」
「メイ温泉入りたいっ!」
「分かったよ」
「やったっ! お父さん、メイね、クロお姉ちゃんと遊んで待ってるから送って!」
メイの肩に触れ、メイをクロの元へ送る。
初めはクロがメイに嫉妬していたが、今では仲良しである。
「はぁ、一人で、穴掘りかぁ」
正直、面倒。
「スコップ役立たねぇ。もっと便利になれよ。」
〈マスター、人類側が作戦会議開いてますが、放置で良いですか? それとも何か対策を考えたほうが良いでしょうか?〉
「全知か。なんか、久しぶりだな。どんな会議の内容かだけ教えて」
〈了解しました〉
全知の情報はかなり便利で、富雄を送る必要無かった。
まぁ、戻ってこいって言ったら楽しいからこのまましばらく暮らすとか言われたからいいけど。
「スコップ役立たねぇ」
5分経過
「やっぱ普通のスコップだなぁ」
5分経過
「掘った土が金にでもなればいいのに」
5分経過
「ホントこのスコップクソだわ」
5分経過
「もう捨てよっかなこのスコップ」
『お久しぶり〜! 閻魔の娘でーす! 地母神さんからの言伝言います。そのスコップ私に返さずに捨てたり譲渡したら一生恨むだそうです。』
ブチッ
「穴掘ってて、久しぶりに来た連絡が神からの恨み買いますよってなんなん。」
閻魔の娘にはいつか一発パンチしてやりたい。
人の話を聞かずに一方的に話しやがって。
「てか、どんなけ掘ればいいんだよ。全然出ねぇじゃん」
〈マスター、まだ50メートル程しか掘ってませんよ。なので、後だいたい1950m掘らなければ温泉は出ませんよ〉
「2000も掘んの? なんか500mくらい掘れば出るって聞いたことあるんだけど」
〈マスター。この世界、地球の5倍の大きさなので、掘るのも約5倍ですよ。ここは5倍も掘らなくていいですがね。〉
あー、確かにそうでしたね。
そう言えば、この世界って地球の5倍デカいんだった。
「あー、マジ地面硬いわ」
全然掘り進まないんだが。
こりゃ世界のどこ探しても温泉内理由が良く分かる。
だって、掘れねぇもん。
「俺が掘れなかったら誰も惚れねぇだろ」
『あぁ、何だ? 俺を100メートル掘る奴が居るとは笑えるなぁ』
硬い土をそれでもザクザク掘っていると、謎の声がその場に響く。
上から声をかけられたのかと思ったが、人はいない。
「誰だ?」
『お前が掘ってる星だよ。温泉欲しいんだろ? そこらへんの魔力弱めて柔らかくしてやるからさっさと掘れ』
すると、突然土が柔らかくなりザックザック掘れるようになった。
謎の声、ナイス。
『少し力を強化して温泉を吹き出してやるからもう戻れ』
「謎の声ナイスー」
俺は直ぐにその場から地上へと戻る。
すると、お湯が吹き出た。
「さんきゅー」
『別に構わん。俺に住む奴らは俺の子だからな。召喚されようが、何しようが変わることはない。じゃあな。』
謎の声はそう告げると一切話さなくなった。
「何者だ? 全知なら知ってんじゃねぇの?」
〈イェス、マイロード。今のが超魔星、この星の核なる種です。数億年に一度しか起きないので、こうして会話できたのは奇跡ですね。寿命は永遠で真の不死ですから、マスターが改変で永遠に生き続ければまた会えるかもしれませんね。〉
「へぇ、今のがね〜。」
そんな凄い奴と俺は話してたのか。
というか、この惑星が硬い理由ってその超魔星とか言う奴の魔力のせいなのか。
「さて、入ろ」
〈マスター、メイ様を呼ばなくてよろしいのですか?〉
「忘れてた。」
俺は直ぐにメイの元へ行き、クロも連れてきた。
「どうだ?」
「お父さん凄い!」
「主! 呼んでくれてありがと!」
二人は楽しそうに身体洗って風呂に飛び込んだ。
というか、アイツ寝たなら魔物達の所って掘れなくね?
まぁ、なんとかなるか。
「メイ、髪洗うからおいで〜」
「はーい!」
「ご主人、私も!」
二人がタッタッタッと走ってこちらに来る。
滑らないか心配だったが、大丈夫だった。
「メイ、目閉じろよ」
「はーい!」
「クロもなー」
「あいあいさー!」
二人の髪を洗い終えると、自分達で身体を洗い始めた。
その間に俺も髪と角を洗う。
「先入ってていいぞ」
「やった! クロお姉ちゃん行こ!」
「いま行く!」
二人はまた走って風呂へと向かう。
俺は体を洗い始め、あることに気がついた。
「そういえば、ここって男風呂か? 女風呂だっけ?」
〈女風呂です。〉
「それってヤバくないか?」
〈ここは、城から数分の場所です。来るのは魔王に従うものだけですよ。なので、気にしなくても良いかと。〉
全知を信じて気にしないことにする。
だって、まだ作ったばかりだし人が来るわけ無いしな。
「ふぅ、入るか」
全身綺麗になった所でいざ、風呂へ。
「お父さん! こっちこっち!」
「クロは?」
「ご主人〜クロぽかぽかですぅ」
クロはのぼせて横になれる場所で横になっていた。
「一応は女なんだからタオルで隠せよな〜」
クロの持っていたタオルを絞り、身体の上にかける。
神獣でものぼせるらしいな。
「メイも無理して長く入るなよ?」
「はーい!」
露天風呂に浸かっているとある事に気がついた。
異様に身体の調子が良くなっていくのだ。
「魔力値が一桁増えたぞ。全知何が起きてる?」
〈超魔星の魔力とマスターの魔力の適合率が高かったのでしょう。〉
「へぇ、超魔星ね」
それから風呂に浸かったが、そんな簡単には増えなかった。
桁ひとつ増えたから良いけどな。
「全知、この温泉の効力は?」
〈状態異常緩和・長期入浴で状態異常改善・魔力回復速度上昇・体力強化・自動治癒力強化・魔力最大値上昇・清潔化ですね。〉
「スゲーな。」
これなら頑張ったかいがあったな。
こんなけほって状態異常改善だけだったらキレるわ。
俺、スキル持ってるし。
「はぁ」
「気持ちぃ」
「ぽかぽかですぅ」
俺とメイは引き続き風呂に浸かり、クロはのぼせて水を飲みながらぽかぽかですぅとか言ってる。
「出るか」
「身体ぽかぽか!」
「ぽかぽかですぅ」
俺の穴掘りはこうして終わった。
「お父さん、スコップは?」
「・・・・・・」
何処だろうか。
「教えて、全知さーん!」
「全知さん?」
〈未だに温泉を掘ったあの場所に突き刺してあります。〉
最悪だ。
絶対熱いじゃん。
潜って取りに行くとか嫌なんだが。
「スコップ取ってくるから、メイはクロと帰りなさい。クロ、いつまでものぼせてないで頼むぞ。」
「はーい!」
「ご主人、任せてください!」
そして、俺は覚悟を決め、流れに逆らって風呂に飛び込んだ。
無事にスコップは回収できました。