堕ちる英雄
「後一時間くらいだね」
『ええ。』
あの森から旅立ち4日が過ぎた。
既に前方には街が見えてきている。
私の召喚された海洋国【クラーケン】です。
名前の通り、伝説の生物クラーケンが守護する街です。
「戻ったら初めに国を見よう」
『もし、カエデの望まない風景が広がってたらどうするの? 本当に魔王につく気?』
「私はこの世界に無理矢理召喚されて、今まで世界平和を目指してきた。その世界平和が魔王側でないと果たせないなら魔王側につくよ。」
『そう。私の事も連れて行ってね。相棒なんだから。』
道を歩きながら今後の目標を決めつつ、2択に絞っておいた。
魔王達の言動や、奴隷や村民の誘拐等を考えると、やはりこちらが悪のような気がする。
でも、彼等が無差別に殺していないのも事実。
「見れば分かる事ですね」
私はこの時、「きっと私の国は良い国だ」と思っていた。
それから一時間後。
「英雄の帰還だ!」
そんな声と共に門が開く。
そこには栄えた良い街が広がっている。
やはり、私の国は良い所だ。
「私は少し街を見て回りたいのだが。」
「英雄様にお会いしたい人が山ほど居ますのでそのやうな時間は・・・・」
そう言えば、初めて召喚された時もそうだった。
街に行こうとすると、絶対に付き添いがいて、一定の範囲から出てはいけないと言われていた。
今まで暮らしてきた場所だからこそ信じたい。
でも、信じるために自分の目で確認したい。
「英雄カエデ様、こちらへ」
「わかった。」
今はこのままで居よう。
時が来たら抜け出せばいいのだから。
この日から一週間暮らし、タイミングを決めた。
夜の10時から朝7時までは、すべての監視が無くなるのだ。
「さて、行きますか。」
夜になり、目指すは昔「これより先は立入禁止だ」と言われた区画。
正義か悪かの真実はあの場所にあると思う。
「暗視を使っててもこの辺は暗いな。」
暗闇を静かに進み、気配を悟られないようにする。
今のところは誰にもつけられていないはずだ。
「ここから先ですね」
『覚悟はできてるのね。』
「できてる。」
『そう。』
マリアナの悲しげな言葉に肯定し道を進む。
しかし、進んでも進んでも何もない。
そして、ようやく見つけた場所には人のような異形の生物が山のように積まれていた。
しかと、全員生きているが、身体が動かせずもがいてるのだ。
「え」
周囲には子供が座っており、泣いている。
そして、一人の少年の言葉てこの異形の生物が何か理解した。
「お父さんっ、なんで! お金のためでも、これはないよっ! 殺してやる、絶対に殺してやる。アイツだけはっ」
少年の心に復讐の色が浮かんだ。
「復讐は何も生まない。だから「何も知らないくせに勝手なこと言うな! なんだよお前は・・・・どうせ、ここを初めて見て適当なこと言ってるだけだろ! そんな奴沢山居たさ! どうせ死ぬんだ。道連れにして何が悪い!」」
これがこの国に隠された真実なのだろうか。
この、人と獣が混じった異生物を作っているという真実を私は受け止めきれない。
「ここは、何なのですか?」
「本当に何も知らないんだな・・・・・・」
「お嬢ちゃん、ここは家族がこうなった者達の集まる場所、悲しみの地だ。話が聞きたいならもっと向こうに行ってくれ。」
「そうだぜ。じゃないと今すぐお前ら裕福な奴等を殺したくなっちまう。」
座りこんでいる人達が私を奥へ勧めと言う。
これ以上奥に進んでも後悔する気しかしない。
それでも、私は歩みを進めた。
「あの、ここはどういった場所なんですか?」
「あぁ、見物とはいい身分なんだな。アイツに聞きな。」
私の事をクズでも見るような目で見た男性は前方に居る男を指差した。
「あの、ここがどういった場所か教えてくれますか?」
「あぁ、良い身分の女性が来るのは珍しいですね。」
男は、何処かで見たことのあるような人で、おそらく貴族だ。
「ここは、合成生物を作る場所だよ。失敗した時とか凄く面白いから見ていきなよ」
「わ、分かりました」
席を指さされ、流されるままに席についた。
そして、目の前で始まる実験が何なのか、初めは分からなかった。
「二人の人と、虎? まさか」
『ええ、そのまさかよ。』
「人間を、そ、素材、に?」
『そうよ。私達武器でも異常な事は分かるわよ。』
そこからは黙ってそれを見ていた。
酷いものだった。
運ばれてきた二人の人間は全身を縛られており、通常声を抑えるためなどに使われる補助具や、麻酔などもない。
そして、実験は始まった。
実験
「家族だけは救えよ! それが契約だからな!」
「そうだ! 絶対に妹だけは助けろよ!」
「アレを見てみろ」
実験を行う男はとある方向を指差した。
そこには人の頭が3つある生物がいるのだ。
「リー、シャ? ロー、リー? 嘘だろ? 嘘だ! そんな、嘘だっ! 約束が違うっ!」
「ミーナ・・・・・ふざけるなぁ!! 何なんだよ・・・・お前ら何なんだよ!」
その生物は人間三人を素材丹合成された生物だったのだ。
頭と腕が3つあり、足は2本。
下半身の合成には成功しており、上半身を完全に失敗しているのだろう。
「あな、たっ、たしゅ、たったったしゅかぁ!!」
「おっ、ごほっ、おどぉざっおどぉぉぉぉ!!」
「おにいちゃん、ごめごめ、ん、ね、ね」
そう言って未だに生きているその生物を見て観客は笑っている。
完全に、狂っている。
「何、これ」
私はそれをじっと見て理解しようとした。
でも、それは無理だった。
何故なら、これは人が行う事では無い。
「悪魔」
人間の心には悪魔が住むと聞いたことがあるが、正にこれの事なのだろう。
そう思ったのと同時に、周囲の人間が人間に見えなくなった。
私の脳が無意識にこの現状を人の行いだと認識することを嫌がったのだ。
「こんな所に居たのですか、カエデ様」
突然背後からかけられた声に振り返ると、私は首を絞められる気を失った。
そして、目覚めると、私が実験台に縛られていた。
「先程の三人の女性と、二人の女性は失敗しましたが、英雄なら成功するのではないでしょうか!」
私は英雄だ。
その英雄を実験の素材にする?
いや、周囲の悪魔の言葉を聞く限り、はじめての事では無いらしい。
私はこんな死に方をするのか。
「嫌だっ! 放せ! これを外せっ!」
「アナタには魔王との繋がりがあると知られているのです。こうなってもおかしくないでしょうに。」
「狂ってる! お前達は狂ってる!」
「えぇ、狂ってますとも。それに、この世界で正義は我々人類。我々は何をしようとも許されるのです。」
この男の言葉は本気で言っているものだ。
こんな非人道的行為をする者達が正義であって良いはずがない。
「私は拷問系の力を与えられた勇者です。こういう行いしかできません。それに、こういう行いが許される場所ですよ、この世界は。」
そう言って運ばれて来たのはタコのような魔物と、オーガだった。
これと合成され、生きるなんて絶対に嫌だ。
でも、抵抗はできない。
どれだけ考えてももう積みだ。
逃げようがない。
私は諦めて周囲の笑う人たちを見た。
そして、そこに知った顔の人物が居た。
見送ってくれた、ソリッドさんが人垣の中にいるのだ。
いや、ソリッドさんの主人である魔王本人も一緒に居る。
(助けて欲しければ願え。魔王である俺達に。)
ソリッドさんの口パクを見て理解した私は、口パクで願い、頼んだ。
(助けて、ください。)
ソリッドさんはニコリと微笑みわ姿を消した。
次の瞬間、私の元にソリッドさんと魔王が現れ、周囲はザワつきます。
「やあやあ、諸君。これから、この国の悲しき民を救おう。その前に、クズどもは死のうか。」
魔王は手に持ったスコップの平たい部分で拷問能力を持つ勇者の頭を打った。
その頭は城の方へと飛んでいく。
もちろん、それを見ていた人から人へ伝わり、その場から貴族達は逃げていく。
残ったのは悲しき民のみ。
「さて、ここからが大変だな。」
そう言った魔王は繋がった三人をスコップで三等分した。
同時に何かの能力を使用して元の人へと戻す。
「やっぱ、合成されてもこうすれば戻るのか。」
「そうみたいですね。さっさと片付けましょうか。」
ソリッドさんと魔王は積まれた生物も次々に分解して元の人へと戻していく。
その場には1000人程の苦しんだ人々が居た。
残っていたのは50人程度だった気がしたのに、1000人というこれだけの数の人が合成されていたと考えると恐ろしい。
「さて、人繋ぎになれよー」
みんな親が戻ったことや、戻れた事に感謝し泣いているが、その指示で直ぐに人繋ぎになった。
人繋ぎになった私達は一瞬で室内へと転移し、放置された。
「失礼します。私はトラナです。貴方達にここでの暮らしについての説明をさせていただきます。」
私はソリッドとその場に残る。
他のみんなはトラナという人に連れて行かれた。
「俺から説明するが、ここでキラト様、あの魔王様や、この国に害になることをしようとすれば、この街からも城からも消えるから気を付けろよ。」
「それは凄い防犯システムですね。ところで、その魔王様は?」
というと、目の前に魔王様が現れた。
「お前ら二人付いて来い。あの街はもう駄目だわ。」
「どうする気なんですか?」
「キラト様のことだし消し飛ばすんじゃね?」
「いや、そんな威力ぶっ放したら地面抉れて土が勿体無いから全員綺麗に狩るぞ。だから呼びに来たんだよ。英雄ちゃんも、できるよな?」
「狩るとか逆にスゲー」
「正義のために」
私は魔王様とソリッドさんと共に、この日、自国の人達を狩り尽くしました。
勇者や聖騎士等関係なく、悪は全て。
もちろん、全員が悪ではありませんので、、鑑定で判断して殺りました。
正義の心を持つ者は、魔王の城に来て、今までの自分たちが悪だと理解し、魔王に仕える事に決めました。
私は正義の英雄として生きるために堕ちたのです。
まぁ、正確には堕ちていたから這い出たのですが、世間で言うと堕ちたというのが正しいですね。
しかし、これこそが、正義だと信じています。
この道を歩み出したことは後悔しません。
なぜなら、私はこの日から英雄ではなくなった。
私はこの日より英雄から伝説となったのだから。
第三章 英雄の決断 完
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