勇者殲滅作戦⑤ 魔王VS英雄
♦ マナルーン魔法学院
「何をビビってる? まだ戦の準備品を吹き飛ばしただけだろ。」
「全員距離を取れ!」
片手剣に片手盾を持つリーダーが指示をしている。
鑑定では英雄と出た。
「せーのっと」
「全員全力回避!」
俺がスコップを振ると地面に亀裂が入った。
「ここから先へ飛び越えれば戦闘の開始だ。」
「魔王、何が目的だ」
英雄のリーダーは結構友好的だな。
「クズな勇者が居る。そいつらの掃除してるから邪魔すんなって話。お前らが緊急準備して向かおうとしてる先には部下がいるからな。」
「そうか。魔王の部下なら殺さなければならんな。魔王はこの世の悪なのだから」
「へぇ、それじゃ、正義の皆さんに質問ですが、スラムで飢えて死にそうな人達俺に寄越してくれないか? 俺ならしっかりと生活させてやれる。」
「そんな保証がないのに民を渡せるものか!」
「へぇ、食すことすら出来ず殺しているお前達がそんな事を言うとは意味がわからないな。」
「うるさい! 国というのは裕福な者が居れば貧しい者も居て当然だろ!」
それを当然のように言うコイツラは異常だな。
後ろの勇者達はレベルも低いので最近召喚された組だな。
制限なしに召喚できるとはなんて魔王にとって不利な世界なのだろうか。
「まぁ、どんな準備をしてもいいが、ここを飛び超えれば容赦はしない。」
俺の言葉に従い、その場から全員が街へと一旦戻って行った。
全く、嫌な世界だな。
「俺と勝負する気か?」
「あぁ、生徒に俺の本気を見せるいい機会だしな。」
そう言って来たのは一人の魔族のおっさんだった。
「んー、アンタは良い奴だから殺したくないんだが」
「ほう、殺したくないときたか。」
「アンタは悪じゃないからな。殺したらこっちが悪になる。俺は正義の魔王だ。」
「魔王は全員悪だろう? 俺の認識はそうなんだがな。」
そんな教育してるとか、歴代魔王は大変だったろうに。
まぁ、こいつも正義ではないか。
「なぁ、お前ってスラムのことどう思う?」
「どうにかしてやりたいとは思うが、どうにもできんだろうに。俺は異世界で文系だったし理系分野の事は分からんからどうも出来んよ」
「異世界人、か。100人以上の異世界人が居てスラムをそのままにしているとは意味がわからんな。」
「スラムの人間を人間として扱わないとは、お前は人じゃないのか? それとも、勇者になって調子に乗り、英雄になって人を止めたのか?」
「その言い方は酷いだろ? 救えないものは救えないんだ。この国にはこの国の法があるからな」
なんとも、納得できない答えだ。
異世界人ならそれなりの常識はあると思うのだが。
『英雄ミナト、早急にその者を殺しなさい! その者の能力を使えなくしています!』
「女神様の命とあらば。」
「見つけたぜ・・・・・・モニタ、やれ!」
『イェス、マイクリエイター。顕現物に対して【宝具断罪の衛生】を使用します』
そして、次の瞬間、空が輝き、一筋の光の柱が落ちた。
当然それは現れた女神に直撃し、消し飛ばした。
「よくやったモニタ。スキルの使用が出来るようになった。だが、俺の身体半分にも直撃したからもっと正確に頼む。」
『生きているのだから良いでしょう。少しは許してください。では。』
通信が切れると、光の柱が収束していく。
そして、俺には当たったのに、当たっていない英雄か尻餅をついていた。
「さて、目標の女神は殺した。お前は今までに悪事をした事がない顔をしているな。よって殺さない。だから、早く街へ戻れ。」
「お、俺は、女神様のためにっ」
「その女神は俺達魔王を殺すためなら何でもする最低なクズだ。よく考えろ。たった7人の魔王に100人以上の勇者とかありえんだろ。一度戻ってよく考えろ。」
「わかった。」
魔族のおっさんは背を向けてトボトボと力なく街へ戻って行く。
さて、準備が終わったらしいな。
「あの魔王を殺せぇ!!」
大きな魔力を持つ者たちが一斉に魔法を放ってくる。
それに対して相対魔法を的確に放ってやった。
しかし、それを何度も何度も繰り返すので芸のないことだ。
「隙ありっ!」
「ほう?」「お助けしますねぇ」
剣を掴もうとすると、間に割って入ってきたのは見た事のある女の魔王だった。
あの会議の時にいた奴だ。
ソイツは刺されてそのまま倒れると猫耳が生えた。
「復活にゃんぱーんち!」
「ぐはっ」
斬り込んできた男は猫パンチで吹き飛んでいく。
何が起きたんだろうか。
「吾輩は猫なのにゃ。数億年生きた伝説の猫又なのにゃ!」
「こっちが本体なのか。」
先ほどまでの甘ったるい話し方をしていた面影は全くない。
真っ黒な猫の獣魔族である。
「お久しぶりですね、我等が王。」
「久し振りに暴れりゃいいのかぁ?」
「いや、正義を盾に活動をするのですから適当に殺すのはダメだろ。」
「そうですね。それが一番生き残る満ちだと思いますし。」
「それにしても、ミーニャちゃんが猫又モードになったの始めてみたっす。なったら千年は戻れないはずっすよね?」
「俺は任務完了なんで消えますね。」
ソリッドは消え、他の魔王達が、集まったせいで敵の動きは完全に止まっている。
「取り敢えず、アイツらを抑えておいてくれ。俺は奴隷を連れてくる。」
全員の承諾を得て街の内部へと転移する。
「眷属召還、全部下」
俺のつくった魔物達全員に奴隷をここへ連れてくるように命じ、俺はスラムへと向かう。
「スラムで飢えた者達よ。お前達に救いの手を差し伸べよう。生きたい奴らは俺とともに来い!」
「こんな所にいても死ぬだけだ。行く価値はある。」
「これで死んでも、飢えて死ぬよりマシか。」
「姉ちゃん、行こう。」
「そう、ね。このままじゃ、死んでしまうものね。」
飢えた者達は全員俺の元へと集まってきた。
もちろん、それを止めるべく兵士までもが来た。
「お前達! 付いて行けば国家反逆罪になるぞ!」
「国家反逆? お前達国家が俺たちに何をしてくれたんだよ。ふざけるな。」
「俺達なんてこのまま死んじまうんだからほっとけよ!」
「居ても居なくても変わんねぇだろうが!」
兵士達は全員、スラムの者達の言葉に呆然として突っ立っている。
「奴隷の契約上書きと回収、無事終わりました! 主、全員の上書きを、おねがいします!」
リヴァに言われて上書きすると、眷属は全員消える。
「さて、人繋ぎになれよ。」
奴隷とスラムを連れ転移を使用する。先ほどの場所には今来たらしいソリッド、シーラ、アダンテの姿もあった。
「帰るぞ。捕まれ。」
俺はその場の全員を連れて城へと戻った。
もちろん、【幻想城】は解除した。
「全奴隷契約破棄。トラナ!」
「はい?」
「あとは任せる。」
「了解です。」
スラムの者達と奴隷を任せてひとまず会議室へと向かう。
「で、何しに来た?」
「自己紹介と、移住についてですよ。」
そう言えば、誰の名前も聞いていなかったな。
「一応俺の城だし、俺から自己紹介するわ。キラト・クズリュウ、この城の王だ。」
「では、失礼して私はロイド・ベルゼイルといいます。【魔天城】の王です。」
「俺はアックス・ベルゼ。城なんて持ってないぜぇ。筋肉鍛えるので忙しいから部下もいねぇ。」
「俺はマルス・リーン。城はない、放浪の魔王だ。チャラそうとか言われるが全くチャラくない。」
「私はアサルト・ロイエンタール。【天空城】の王です。」
「私は【秘宝城】の王、リンネ・シュラルっす。よろしく頼むっすよ。」
「ミーニャ・ニャルニャーンにゃ。【猫城】の王にゃ」
全員の自己紹介を終え、本題へ入る。
「お前らの移住場所はこちらで既に決めてあるから、後ほど部下を送るのでその時に。」
全員頷くので次に移る。
「次に、女神を2体殺した事についてだが、後10体居るから早急にここへ移れってことだな。それと、俺の部下の話によると、女神は主神を殺しているらしい。」
「聞きたかったんだが、お前の部下の5人も魔王だよな? それに、一人とんでもない武器つかうやつも居るだろ?」
「アイツらが強くなる事は分かっていたから連れてきて魔王にした。それだけだから、あんまり気にしなくていい。」
全員あーだこーだと話していると、トラナが部屋に入ってきた。
「皆様こちらへ。私から城の配置位置についてなど説明させてもらいます。」
トラナは他の魔王を連れて部屋から出ていく。
やっと一人になれた。
「閻魔ー、閻魔の娘でもいいや。聞こえてんなら話せー」
全く連絡が来ない。
やはり、異なる世界では管轄外か?
『30秒だけだよ! それ以上はバレるから!』
すると、連絡が来た。
「ここの世界がどうなってるか説明しろ!」
『父上はアンタに力与え過ぎて怒られてる! それと、そこの主神が殺されてて、結構こっちでは問題になってるの。神は神に干渉できないからね。とにかく女神を殺すのはいいけど、悪事を働いてない神は殺』
ブチッ
切れた。
「まぁ、だいたい分かったが、良い女神と悪い女神が居るからどうにかして悪い奴等を殺すなりなんなりしろと。」
面倒な事になったが、今日はもうねむい。
という事での部屋へと転移。
「【魔物創造】聖女」
残り魔力3,000,000,000,000を使用して癒し系を作った。
黒髪黒目の美少女である。
「膝枕します。」
「さんきゅー」
癒されるー。
胸が大きくて顔が見えない。
「おやすみ。」
「おやすみなさい、マスター」
〈マスター、私もいますからねー〉
俺は眠りにつく瞬間、何か聞こえた気がしたが気にせず眠りについた。