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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
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第7話 互いの思惑

 瀬戸は仕事をしばしば失敗するようになった。

元々、同僚達から嫌われていたので瀬戸へのバッシングは相当酷いものだった。

だが、瀬戸はゴキブリ並のしぶとさを発揮しバッシングに屈する事はなかった。


「ジャン、悪いな…。 コードの書き換えを手伝ってくれないか。

俺とお前なら10分で出来る内容だ。

急ぎでさ、午後1の便で出張する課長に持たせなきゃならないんだ……」

「……構わないよ」


 ジャンは清々しい笑顔で了承した。

なぜなら始終バッシングする周囲の奴らがとても醜く見えたので

奴らと同じような態度を取る事はジャンのプライドが許さなかった。

 昼休み、小さな花壇があるベンチにジャンと瀬戸の姿があった。

随分と和やかな雰囲気で並んで座って会話をしている。

以前は決して見なかった光景だ。

二人は仲良くなったのか?

いや、決してそうではない。

ただ、互いに思惑を持って近づいているだけだった。



 最初に切り出したのはジャンだった。


「僕が言いたい事、わかってんだろ?テメェは人の腹のうちを覗くのが得意だからな!」

「君が俺にそう聞くって事は、俺が言いたい事をわかってるって事だよね……?」


 二人の雰囲気は、以前とは真逆になっていた。

静かだったジャンが横柄に、対して横柄だった瀬戸が静かな男になっていた。

ジャンは、瀬戸に己の苛立ちをぶつけていた。

苛立ちの原因が、『なかなか終わらない瀬戸との取引』 だと思っていたが

本当の原因はそれではなかった。


「お帰りなさい……。今夜は日本食を用意しました」


 アンドロイドがいつもの様に出迎えた。


「……!」


 ジャンの思考で何かがキレた。

気づいた時にはアンドロイドが玄関先で倒れていた。


「起き上がれ。夕飯食べるぞ」

「……はい」


 アンドロイドはむくりと起き上がるとキッチンへ姿を消した。

1人と1体は向き合い小さなテーブルで黙々と、何事もなかったように料理を口にする。

アンドロイドは無表情だ。

なぜなら今、ジャンがそれを望んでいた。

しかしアンドロイドの判断は、更に彼を苛立たせた。

 己の気持ちを察して行動するアンドロイドは、まさに理想の恋人になるはずだった。

だが不満は日増しに増すばかり。

何かが不足している事に気づいても、その『何か』が解らない事に怒りを感じ、そして感じたままアンドロイドへ当たりちらすという不毛な日々を繰り返していた。


 瀬戸は今夜もジャンに呼び出された。

執拗にどつかれ、腹を蹴られて床に倒れ込むと間髪入れずに頭を蹴られた。

衝撃で口の中を切る。


「僕の不満をわかってんだろ!さっさと解決しろ!!」

「……う」


 痛みに堪えながら起き上がろうとした瞬間、背中を強く踏み潰された。


「返事を先にしろ……。わかったのか、わかんねぇのか、どっちだ!?」

「……わ、わかった」


 アンドロイドは2人の様子を黙って見ていた。

瀬戸はアンドロイドを台に寝かせると金具で両手足を固定し、両耳に赤と黒のコードを突き刺した。

まぶたには小さな器具を装着し、瀬戸と同じデータを同時に見られるようにした。

瀬戸は入念に検査前の確認を繰り返した後、繊細で綿のように柔らかな声でアンドロイドに語りかけた。


「フェアリ……俺の声が聞こえるかい?」

「……はい、聞こえます」

「よし。 では、これからキミにデータを送る。 認識したら伝えなさい」

「データの受け取りを開始しました。 20%…50%…70%…90%…」


 部屋の隅ではジャンが足組みして苛立ち気に待つ。

瀬戸はジャンが再び暴行しないよう細心の注意をしながら現状を伝える。


「ジャン、アンドロイドを進化させる。進化すれば、キミの苛立ちが軽減するからだ」

「……進化? もっと具体的に言え」

「進化とは、ジャンの気持ちを察した後、ランダムに期待ハズレな行動をし

最終的にはジャンの期待にほぼ近い結果を出す、人間じみたアクションを追加する事だ。

キミの不満は、アンドロイドが『ストレートに完璧』である事が原因だ。

だから『少し不完全さを感じる完璧』に進化させる」


 瀬戸の説明にジャンは鼻先で笑い

期待通りの結果が得られなかったら殺すと脅した。

瀬戸は静かに聞き入れたが、アンドロイドは驚いた表情を浮かばせていた。

既に進化が始まっていた。



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