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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
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第5話 アンドロイド起動

 ジャンは無言で瀬戸を見つめた。

瀬戸は口元を不自然に歪ませると、一度下へ視線を落とし再びジャンを見た。

その後、おもむろにポケットをまさぐり、ジャンでさえ見た事の無い小さなカードを取り出した。


「人の感情や考えを読み取るソフトが、この中に詰まっている。

……お前が欲しがっている物だ」


 ジャンはグイッと瀬戸を覗きこんだ。

瀬戸は低くも高くもない声で彼の疑心をたしなめる。


「疑う余地は無いだろ? お前は経験済みだ……」


 ジャンは言った。


「取引……と言ったよな。貴様は僕に何を望む?」


 とても力強い口調だった。

別の言い方をすれば、紙一重的な殺気立った口調だった。

よほど気持ちにゆとりが無いのだろう。

ジャンは瀬戸の胸倉を掴んで詰めよっていた。

瀬戸は、「苦しいから離せ」と掴む手を払い除け、くるりと背後に回るとジャンの首を腕で締め上げた。


「俺はな、お前のココが欲しいんだ」


 人差し指でトントンとジャンの頭を突いた。


「分かるか? お前の人格が欲しいんだ」


 瀬戸の言葉にジャンは目を見開いた。


「意味がわからん」


 くだらないと言わんばかりのジャンに、瀬戸はフンと鼻先で苦々しく笑うと小さなカードを乱暴に突き出した。


「お前の作品を起動させる。 さっさとコレをダウンロードしろ!」


 ジャンはハッと我に返り、瀬戸から小さなカードと器具一式を奪うように受け取った。

ネチネチといつまでもしつこく安全性を確かめる。


「……どこまでも、疑り深いヤツだ」


 瀬戸はボヤキながらもジャンの手順を見守った。


「起動するぞ……」

「ジャン、名前は考えてあるんだろうな」

「……黙ってろ!」


 瀬戸はフゥっと冷や汗を拭った。

ここでジャンの機嫌を損ねてアンドロイドを起動させられなかったら、今までの苦労は水の泡だ。

アンドロイドはブーンと軽い振動音を発すると、無表情に目と口を閉ざしたまま起動し始めた。


『データヲカクニンチュウ……イジョウヲカクニンシマシタ……

セイジョウニショリサレマシタ……5ケンノバグヲハッケンシマシタ……

セイジョウニショリサレマシタ……』


 息を飲みながら状況を見守るジャンと瀬戸。

ジャンはアンドロイドが望み通りに起動する事を願い

瀬戸はアンドロイドが『何』を選ぶのかを待っていた。


 淡々と動作確認が続く。

待ちくたびれた瀬戸が腕時計を見ると、すでに3時間が経過していた。

チラッと横を見る。

ジャンは大きく目を見開いたまま閉じる事を忘れているようだ。

そんな彼に瀬戸は心底思う。


(異常だぜ……)


 やがて、アンドロイドから終了を告げるような音が鳴った。


『キドウカクニン、シュウリョウシマシタ。 

イマスグキドウシテモヨロシイデスカ? YES・NOデコタエテクダサイ……ドウゾ』

 

 アンドロイドの質問に、躊躇うこと無くジャンが答える。


「YES」


 瀬戸は高まる興奮をジャンに気づかれないよう冷静を演じながらその瞬間を見守った。

ジャンは室内を更に薄暗する。

いきなり光を見ると眼球を傷める恐れがあるからだ。

アンドロイドはじれったいほど、ゆっくりゆっくりと目を開く。


「おお……」


 瀬戸の口から溜息がこぼれた。

なぜなら開かれたその瞳は豊富に潤い、漆黒の宇宙に浮かび輝く青い地球を思わせた。


「フェアリ……」


 ジャンは両手でアンドロイドの頬に触れ、視線を自分に向かせるとアンドロイドに呼び名を付けた。


「ワタシノナマエハ フェアリ」

「そうだ……そして、僕はジャン」


 ジャンは一つ一つアンドロイドに記憶させていく。

当然、瀬戸には出る幕はない。

ジャンは用意した服をアンドロイドに着せた後、「歩け」と命令した。

アンドロイドはジャンの計算通りにそつなく歩き回る。

さらに、座る・立つ・跳ねる・寝転ぶ等の動きを連続して行った。


「上出来だ」

「アリガトウゴザイマス」

「後は話し方だな……おい、瀬戸!」

「ああ、わかってるよ。もっと人間らしい発音にするんだろ?」

「アレハナニデスカ」


 アンドロイドは瀬戸を指差した。


「僕の会社の同僚だ」

「ジャンノドウリョウデス。リカイシマシタ」

「瀬戸だ。宜しく……」


 瀬戸が手を差し出すとアンドロイドも差し出した。


「アイサツデスネ。リカイシマシタ」


 アンドロイド手は柔かいが、温もりはまだ無い。



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