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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
21/22

第21話 地下室で_3


 「大人の身体に成長させた理由?

フン……生きてる年数からして、その方が見た目が自然だからだろ」


 そう突っぱねてみたものの瀬戸の心中は穏やかではない。

この自信に満ちたジャンの表情は何だ?

喉の奥が鳴る。

実際は唾液など出てはいないが

緊張した雰囲気の場合には、鳴るようにプログラムされていた。

瀬戸は、あからさまに人間の真似をする自分の身体に苛立った。

ジャンの目が薄ら笑いし、更に瀬戸を追い詰める。


「僕は彼女に探究心だけをプログラムしていたんだ……知っていたか?」

「探究心……だけ?」


 瀬戸が眉間にしわを寄せる。


「それ以外は全て空白。人間の子のように無垢な脳みそだよ。

周囲との関わり合いから起こる様々な経験を自ら集積する為には

大容量のデータを保管する必要があるからね」



『お前の容量なんか比較にならないんだよ』



 瀬戸は、ジャンのロがそう動いたように見えた。


「集積したデータを自分の為に活用し 大きく成長する為には何が必要か?

分かるかね……瀬戸?」


 ジャンは床に座ったままの瀬戸を目だけで見おろす。

瀬戸にとっては嫌な威圧感だ。


「いいかね。 集積した経験を活用し大きく成長するには探究心が必要だ。

この探究心は作成者が設定した以上に発達し、それは止まる事を知らない。

もし止まればフェアリになる。

ただ単に、誰かの身勝手な欲望に応える為だけのアンドロイドになる。

だからね……」

「……だから、なんだ!」

「だから探究心の障害となる “お父さん” から逃れる為に

自分で大人の身体に作り替えたんだよ」

「障害……俺がか!? 嘘つくんじゃねぇ!」


 瀬戸の額から灰色の煙が上がる。


「何だぁ? 信じられねーのかぁ?」


 耳障りな響きの声と共に、ジャンの顔が溶けて無くなる。

瀬戸の眼前に、 忌々しい男型アンドロイドの顔が現れた。

瀬戸は男型アンドロイドを睨みつけた。


「おい、まだジャンと話し中だ!テメェは引っ込んでろ!」

「はあ?話し中? はっはっは、マジかよぉ」


 男型アンドロイドは腹を抱えて笑う?


「瀬戸ぉ……お前、すげー馬鹿なんだな。 ってか、人の話しを聞いてない?」

「ど……どういう意味だ」


 瀬戸はギシギシ音を立てながら

男型アンドロイドを殴ろうと身体を動かし始めた。


「無理すると壊れるぜ!?」


 男は瀬戸の頭をつま先で小突く。

瀬戸は、いとも容易くガシャンと音を立て、再び動けなくなった。

相当、節々がイカレてるらしい。

ソフトウェアを重視し過ぎたせいで、瀬戸の“感情”を司る機能はかなり繊細になり

人間でいう所の精神的ショックは身体全体に大きく影響を及ぼしていた。

この様子では、数日間は身体を動かせないだろう。


「瀬戸ぉ…… ”ジャン”が言ったよなぁ。

“人格移動が強制終了しただけじゃなく、全てがリセットした”

……ってさぁ」


 男はニヤニヤ笑った。


「いいかぁ? ジャンが俺に移していた人格は勿論

奴が入力した今までの記憶、組んだプログラム全てが

”消去”されたんだ、 わかる?

逆に言えば、ジャンが残せたのは、この地下室のカメラで撮った映像だけって事。

と~ぜん、”俺達が 一部修正” した物だけどなぁ♪

だいたい遺言が質疑応答するかぁ? 

少しは考えろよ、ソフトウェアは得意なんだろ!?」


「騙したな……テメェ!」


 瀬戸の表情が凍りつく。

すると男はヒャヒャと下品に笑い

瀬戸の目線と同じ高さに顔を近づけると言い放った。


「古いCPUじゃあ、処理が追いつかなくて苦労するねぇ!同情するぜぇ?」

「この……クソが! このままで済むと思うな!」

「恐ぁ~い、ハハハハハ!」

「この野郎……!」

「それでも”遺言”は、100%嘘ではないらしいぜ、なぁ……お嬢さん」


 男は急に真面目な表情になると作業台へ顔を向けた。

瀬戸が男の視線の先に目をやると

ミュリエル(小さかったアンドロイド)が台へ腰掛け

脚を組んで様子をじっと観察している姿があった。

彼女の視線は鋭く、冷たく瀬戸を突き刺した。


「 ミュリエル……」


 瀬戸は驚きと言うよりか、悲しみの視線で小さかったアンドロイドを見た。

彼女はその意外な表情に、少しばかり目を大きく開いたが

直ぐにまた冷酷な視線で瀬戸を見た。


「お父さん、思考が随分と混乱しているようだから、丁寧に話してあげる。

今から私が言う事は全て事実よ……疑う余地はないから承知して」


 彼女はシーツを素肌に巻いて瀬戸の側へ来た。


「改めて紹介するわ、お父さん。 彼がパパに作られた私の結婚相手」

「改めてど~もぉ、お父さん♪」

「……フン」


 つくづく嫌な男だと鼻を鳴らす瀬戸。


「お父さん、彼と私はシンクロしているの」

「シンクロ?」

「そう。パパが彼の脳波を私に合わせたのよ。

だから、私の喜びは彼にそのまま伝わるし、その逆も……ね」

「え!?」

「彼が私にああいう悪趣味なことをしても

私が苦痛に感じれば止めざるを得ないわね。

彼としては残念で悔しいでしょうけど」


「何……」


 薄ら笑いして暴露する娘に、瀬戸は唖然として言葉が出ない。


「それはさて置き、先ずはパパの遺言……

ジャンがお父さんに伝えた言葉の事だけど、あれは本当よ。

パパが倒れたあの日、私もその場にいたの。

私は直ぐにパパを助けようとしたけど

パパには助かりたい気持ちが無かったわ。

その代わりね、パパは私に遺言と伝言を残したのよ……。

遺言については 『ずっとキミを愛している』。

目を細めて泣きながら……でも笑顔で言ったわ。

人間の特徴かしらね。

伝言については、“ジャンの遺言” として

パパの顔を模した彼が、お父さんへ話したこと全てよ」

「ちょっと待て、ミュリエル! 

そいつはジャンのフリをして俺に嘘をついて騙したんじゃないのか?」

「いいえ、お父さん。質疑応答になっても、内容は決してブレていないわ。

彼はお父さんをカラかいたくて、『遺言が質疑応答するかぁ?』 なんて言ったけどね」


 彼女は男をたしなめるように睨みつける。


「ハイハイすいません、お嬢さん」


 男は、瀬戸へ振り向き直すと舌を出す。

だが今の瀬戸には、男を構うゆとりは無い。

瀬戸は何よりも確かめたい事があった。

彼女から本当の心境を聞き出す覚悟が出来ていないまま

言葉だけが先に出る。


「ミ……ミュリエル、聞きたいんだけど良いかな?」

「構わないけど、何を?」


 娘の声の抑揚はとても冷え切っている。


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