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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
17/22

第17話 冷酷で残酷な現実

 老いた心身には、瀬戸の話しは長過ぎるばかりか内容も辛過ぎた。

激しい痛みが再びジャンの心臓を襲った。


「せ……瀬戸……」


額に大粒の汗が滲み出る。

哀れに視線を向けた先にはアンドロイドしかいなかった。


「……」


瀬戸は医師を呼ばさせなかった。


「俺の分析では、その程度の激痛ならお前は死なない」


 非情な瀬戸に殺されると恐怖したジャンは

痛む心臓を押さえながら、小さかったアンドロイドへ助けを求めた。


「頼む……医者を呼んでくれ」


 すると、小さかったアンドロイドはジャンを見下ろして静かに言った。


「パパ、お願い……。 私とお父さんの望みを叶えてあげて」

「……お、お父さん?」


 思いもしない言葉に、ジャンは驚いた。


「そう……私のお父さん」


 小さかったアンドロイドが瀬戸に寄り添う。

再び心臓が激しく痛んだ。

あまりの苦しさで床に くの字 になりながらもジャンは必死に訴えた。


「キ……キミのお父さんは……パパは僕だ。そいつじゃない」

「何を言ってるの、パパ? あなたは『パパ』という名前であって

私のお父さんって意味ではないのよ?」

「な……!? パパは僕だ、僕がお父さんなんだよ!? 」


 あの日、小さなアンドロイドに起きた事は、やはり悪夢では無かった。

瀬戸は小さなアンドロイドの記憶(記録)を書き換えていた。

薄々感づいていたジャンだったが小さなアンドロイドのデータを確認をしなかった。

決して忘れたのではない。

人の子同然に育てていたジャンにとって目の前にいる小さなアンドロイドを

機械として扱うことが心情的に考えられないだけだった。

 それは今も変わらない。

書き換えられた記憶(記録)はもう二度と修復されないと承知しつつも

年老いたジャンは、成人女性の姿へと成長した小さなアンドロイドに

共に過ごした幸せな日々を思い出させようと必死に語りかけた。


「覚えてないのかい? 一緒に……僕と一緒に暮らしたろう?

一緒にごはんを食べたり、公園へ散歩に行ったり

遊んだり……寝る前には絵本を読んだりしたよね。

幼稚園や小学校にも行ったぞ。

入学式、制服姿が可愛かったよ。

元気に大きく育って、僕は本当にうれし……」


 話していくうちに、ジャンは嗚咽して言葉を詰まらせた。

彼が人生で初めて『無償の愛』を与え

そして感じるとても幸せな日々だったからだ。

しかし、小さかったアンドロイドが浴びせた一言は

あまりにも冷酷で残酷だった。


「何言ってるの? ”変な人間”」

「……!」


 ジャンは突如、狂ったように叫びだした。

ジャンの脳が麻痺させていた最大の違和感。

それは、小さかったアンドロイドに当時の面影が微塵も無いこと。

ジャンの脳は、彼が発狂する事を予測して現実を見せないようにしていたのだ。


「結婚相手が……欲しいのか?」


 疲れ果てて床に倒れこんでいたジャンは、哀れなほど、か細い声で尋ねた。

目だけを動かし、小さかったアンドロイドを見ると彼女は黙ったままコクリと頷いた。

ジャンはそれで十分だった。

一緒に過ごした日々が消去されて、床にへたばる自分を無機質に見下ろしても

そのアンドロイドは彼にとって、無償の愛で育てた大切な我が子だ。

娘の将来を心配する父親の気持ち同然だった。


「そうか……じゃぁ、造ろうか」


 ジャンは目を細めて微笑むと、老いからくる手足の震えを堪えながらゆっくりと起き上がった。

 翌朝、ジャンは警官に自宅の中まで送られた。

20年以上も留守にしていたが、ずいぶん綺麗に維持されている。


「バラが満開だ……」


 ジャンが大切に育てていたつるバラが窓辺で小さな赤い花をたくさん咲かせていた。

瀬戸が管理をしていたらしい。

警官が立ち去ると、ジャンは誰もいない冷えきった地下室で設計図を書きはじめた。

小さかったアンドロイドに相応しい男型アンドロイド。

娘がいつまでも幸せに暮らせるようにと製作に自ずと力が入る。

 ジャンの食事や身の回りは、警官が交代で行っていた。

瀬戸が時折様子を見にやってきたが、その後ろにはいつもフェアリがいた。


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