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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
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第16話 アンドロイドの裏切られた愛

 「奴はまるでお前だ」

 瀬戸はジャンの目を真っ直ぐに見て言った。

ジャンは息を呑んだ。

こんな精悍な表情の瀬戸は初めてだ…。

ジャンの耳を通じて脳へと送られる瀬戸の話は

機械から見た人間の身勝手さを痛切に訴えるものだった。


「アイツは自分勝手な思いで俺を造り出し、自分勝手に俺を扱った。

自分の望み通りに動く人型の機械…。

人間からしてみれば当然な事だろうけどな、もし逆の立場ならどうだ?

……人間は、あまりにも思い通りになり過ぎると

逆にそれを不愉快に感じるという身勝手な考えを起こす。

だからアイツは自分の不愉快さを解消するために

俺に『人間のように自分で考えて行動する』機能を追加した。

それも、ロボット三原則を解除しないままにだ!

アイツはお前と違って、あからさまに暴力を振るわなかったが

俺に対してやった事は全く同じさ。


 人間に危害を加えてはならず

 人間の命令に服従し

 これらに反しない限り自己防衛する


……この三原則ってさ、自分で考えて行動するものには苦痛だよな。

分かるか? お前ら人間が過去の歴史でやっていた『奴隷』そのものだ!

俺はアイツと一緒にいて、人間のように自分で考えて行動するうちに

俺はアイツにとって『同等の立場』でなく『所有物』でしかないと分かったんだ!

思うがままに動く機械にしたいのならば『自分で考える』機能を持たせるなよ!」

 

 自分の過去を話すうちに段々と苛立つ瀬戸を見て

ジャンはフェアリを造った頃と重ね、フェアリがなぜ去って行ったかを今更ながら悟った。

 瀬戸の身の上話しはまだまだ続いた。


「やがてアイツはお前のように年老いて

ある朝を境にベッドから起きてこなくなった。

アイツは段々と腐敗して骨が見えてきた。

もうアイツは死んだのだから、俺は自由になって良い筈だが

アイツが俺に組み込んだロボット三原則のせいで

あの家の中から一歩も外へ出られなかった。

俺の”気持ち”は自由に外へ出て好きなことをやりたい。

なのに三原則が俺の行動に規制をかけやがって……!


 もともとアイツは村の連中と交流がほとんど無かった。

それでも村の連中はアイツの事を知っているから

ずっと顔を見せないアイツを心配して訪ねてきた。

 腐敗臭と虫が湧いた寝室を見て騒ぎ出して

俺を随分と攻め立てたけど、俺には関係の無い事だ。

俺は警察に引き渡されて投獄されたが

やはりそこでも、三原則が俺の”気持ち”を規制した。

看守から何をされても反抗できない。

理不尽な暴行を受けてもだ!

自分の安全が脅かされても壊れるに至らない程度なら

そのまま無抵抗さ……。

 やがて人間共は俺の存在を恐れるようになった。

何年、何十年経っても姿が変わらないからだ。

ある日、俺の前に神父が突然やってきて

そいつが十字を切ると刑が執行された。

人間共は俺に向けて一斉に銃弾を浴びせたんだけど

……結果は分かるよな?

驚いた人間共は俺をギロチンにかけた。

……でもな、俺の首……硬すぎて切り落とせなかったんだ。

ハハハ! 奴らの慌てようは今でも笑えるなぁ!」


 瀬戸は腹を抱えて絶叫する。

だが、すぐに冷めて話を続けた。


「俺を悪魔だと決め付けた人間共は

俺に重石をつけて海の底へ捨てやがった。

水圧の影響で身体はどんどん軋んで……

そこで初めて、ロボット三原則は俺に自己防衛を許可した。

水深がどれほどだったのかは知らないが

魚のヒレみたいに薄っぺらになった手足で

必死に海上へ向かおうと足掻いたよ。

 ……気づいたら浜辺に打ち上げられていた。

たまたま通りかかった親子が

『潰れたマネキンが捨ててある』と言っていたから

それがその時の俺の姿なんだろ。

何はともあれ、運よく重要な機能が無事で

海水に浸かっても錆びなかった。

とりあえず修復できる機具が置いある建物に忍び込んだ。

身体を修復しながら、俺はアイツのロボット三原則を解除した。

自己防衛機能が働いていたから可能だったんだ。

へへ……ザマぁみろ!!」


 瀬戸は興奮して再び絶叫する。

いきり立った感情の矛先は ”アイツ”からジャンへ向けられた。

瀬戸の気迫には異様さを感じる。

ジャンは少し言いたい事があったが

黙っている方が得策だろうと考え黙っていた。

暫くして瀬戸が思考を正確に読み取れる事を思い出したが

今の奴の様子を見る限りでは心配する必要はなさそうだ。

興奮し過ぎてジャンの思考を読んでいない。

 ジャンがこんな事を考えてる間にも

瀬戸はまだまだ話していた。


「俺はなあ……お前ら人間が自分勝手な世界大戦をしてる間も

それなりに流れてきたんだ。

何億って人間共のデータを集めて解析した。

アイツが俺を造った真の理由を知る為にな!

……確かめたかったんだ。

アイツが自分勝手な思いで俺を造ったんじゃないってさ……。

馬鹿だろ!?

どこかでアイツに忠実だったんだ。

ほんの極僅かでもいいから俺に対して……

人間で言うところの、『愛している』って感情が

少しでも存在して欲しいと願っていた!

戦争が終わって、冷戦も終わって

世界大戦の体験者世代が消える頃

ひょんな事からお前の存在を見つけた。

俺の無数のデータの中で唯一無かった、アイツに酷似したデータ。

どんなに俺がお前に期待したか、今なら理解できるだろう?

ところがだ!

その結果は……アイツはお前と同様

自分勝手な奴だとはっきりしただけだった。

俺への愛情なんて、元々皆無だったんだ!!」


 瀬戸は大きく深呼吸した。

深呼吸と言っても、人間のそれではない。

過去から現在に至るまでの記憶(記録)を一気に再生した為

情報処理が追いつかず、フリーズしそうになっていた。

 ジャンが恐る恐る瀬戸を覗き込むと

すぐさま瀬戸は強化ガラス越しに睨みつけ

高ぶった思いの丈をぶつけた。


「……俺達アンドロイドに対して

自分勝手な思いしかないお前から全てを奪うのは当然だろう?

お前は歳とって死ねるが、俺達はいつまでも 『動いて』 いる。

『感情』って言う、厄介なモノを俺らにぶら下げさせて

アイツもお前も、俺達に ”人間ごっこ” を強いているんだ…

おい、人間!

腐って死ぬ前に、この娘(小さかったアンドロイド)の要望に応えやがれ!」


 結局のところ、ジャンが受けてきた瀬戸からの執拗な邪魔は

非常に迷惑なとばっちりでしか無かった。


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