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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
13/22

第13話 小さな女の子型アンドロイド

 小さなアンドロイドは学校へ通う。

彼女はとても大人しいが、それなりに学校生活を楽しんでいる。

先日、ジャンは授業参観に出席した。

美しい父親の登場に、クラスの女子は一斉に振り向いた。

はにかみながら微笑むジャンに、感情のまま暴力を振るっていた日々は微塵たりとも無い。 釈放されて自宅へ戻り、小さなアンドロイドの製作にとりかかってから10年の歳月が流れていた。

 彼の辛かった子供時代の傷は、小さなアンドロイドと幸せに暮らす事で少しずつ修復されている。 赤ん坊の成長を見守る父親のように、ジャンも小さなアンドロイドの成長をじっくり見守った。

あらかじめ膨大な情報データを入力するのではなく、0から根気よく一つ一つ教えていく。 言葉を覚えさせるのも一苦労だったが、毎日毎日話しかける。 そしてある日、小さなアンドロイド初めて「ジャン」と言ったとき、この上ない幸せを彼はかみ締めた。

 初代のアンドロイド(フェアリ)は、生活に必要な上っ面の知識を先に詰め込んだので、ジャンへの愛情もその表現も中身が伴わず、彼を苛立たせるだけだった。 アンドロイドを奪おうと企んでいた瀬戸を作業場に立ち入らせた事も間違いだった。

今はもう、誰も立ち入らせない。小さなアンドロイドを大人に育て、ずっといつまでも一緒に暮らすと決めていた。

 ところがある日、ジャンの目を疑う物が小さなアンドロイドに手を引かれてやってきた。


「ジャン……お久しぶり……」


 妖しく美しい女性が親しげに話しかける。


「……フェアリ……!」


 ハッとして、向こうから歩いてくる影を見た。


「よぉ……ジャン! 相変わらず綺麗なツラしてるじゃねぇか」


 ジャンの頭の中は真っ白になった。


「瀬戸……! 何でお前がっ!!」


 ジャンは瀬戸とフェアリに手をつながれてる小さなアンドロイドへ駆けつけ、奪うように彼女を抱きかかえると、子を襲われた父親の如く彼らを威嚇した。


「二度とこの子へ近づくな! 二度と僕達の前に現れるなぁっ!!」


 我に帰った時、遠くに走り去る男女とジャンの腕の中で震える小さなアンドロイドを見た。


「怖がらないで……悪い奴らは去ったよ……」


 そう言って頭をなでたが、小さなアンドロイドは気を失ってしまった。

 

 この日の出来事がきっかけに、ジャンの幸せな日々が崩れだした。

ジャンは小さなアンドロイドの自分に対する恐怖を根気よく取り除こうと努力した。 だが、思考回路に鍵がかかったように頑としてジャンを拒んだ。


「……朝食ができたよ。キミの大好きなスパゲティだ♪」


 ジャンは、小さなアンドロイドの身に起きた事を容易に想像できた。

だが懸命にその想像を掻き消そうと、努めていつものように振舞った。

 不安な気持ちを押し殺す日々が続いた。

なぜなら小さなアンドロイドは、毎日毎日窓の外に誰かの姿を探していた。

ジャンは小さなアンドロイドから決して目を離さなかった。 家の内外に死角なく監視カメラを設置し、さらに超小型カメラを小さなアンドロイドに取付けて始終監視した。

 半年も経つと、ジャンの表情は酷く様変わりした。 荒くコケた頬や窪んだ目でギョロリと動く眼球。小さなアンドロイドは、ますますジャンから逃げるようになった。

 やがて冬になり、雪が全てを覆い始めた頃、小さなアンドロイドが、とても嬉し気な高い声で言った。


「あ、フェアリ!」


 その声に慌てたジャンが、小さなアンドロイドを窓辺から引きはがす。

急いでカーテンを閉め、隙間から外を見る。 しんしんと降る雪の中を、数人の警察官、背広を着た男がこちらへ近づいてくる。


「あいつら……!」


 ジャンの額に血管が太く浮き上がった。 彼らのさらに後ろから歩いてくる、一組の男女の姿……。 ジャンは小さなアンドロイドを抱えると、彼女の口を塞いで裏口から逃げようとした。 だが、出入り口は全て、頑強な警察官に見張られていた。


「……女児誘拐の現行犯で逮捕する」


 小さなアンドロイドが保護されると同時に、ジャンの手首に手錠がかけられた。


「な……何を考えているんだ!その子は、僕の子だ!」


 だが、小さなアンドロイドはフェアリに抱きついて離れない。

背広を着た男が身分証を見せながらジャンに言った。


「瀬戸夫妻の申請により実施したDNA鑑定の結果、こちらのお嬢さんとご夫婦のDNAが99.9%一致し、親子である事が判明しました」


 ジャンは顔を真っ赤にして叫んだ。


「DNA鑑定? 馬鹿か! その子供と女は、僕が造ったアンドロイドだ!

人間じゃない! 今すぐ証明してもいいぞ!!」


 ジャンの言葉に刑事がため息をつく。


「……そうですか……人間じゃないですか」


 刑事は小さなアンドロイドの背丈にあわせて身体を屈めると、頭を優しく撫でながら、ジャンを見上げた。


「こんな小さな女の子に、なんと残忍な言葉を吐く人だ……。

あなたの方が人間ではないですね」


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