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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
12/22

第12話 瀬戸の罠

 ジャンの元からアンドロイド(フェアリ)が消えてから3ヶ月が過ぎた。

あの日、アンドロイドは瀬戸を引きずって出掛けていった。

いつも1時間ほどの外出なので放っておいたが、翌朝になっても彼らは帰らなかった。

その日の午後、どうしても瀬戸と連絡が取れなかったジャンは

療養中だが会社へ赴き、秘書から事情を聞いた。

なんと瀬戸は既に退職していた。

まんまアンドロイドを横取りされてしまったのだ。

ジャンが肩を落として立ち尽くしていると、事情を知らない上司が彼を慰めた。


「療養していたから仕方がない。

キミは瀬戸君と仲良かったからなあ。

残念な気持ちはわかるよ」


 ジャンが無言のまま俯いていると

上司はポンポンと肩を叩き「元気だせ」と声をかけた。

ジャンは少し歯ぎしりし、上目で上司を見る。


「な……何だね?ジャン」


 異様な雰囲気に喉を鳴らす。

ジャンは声を殺しながら言い出した。


「僕は、人間そっくりのアンドロイドを造りました。

アニメや映画に登場するような人間そっくりの……。

これからの産業に極めて役に立つ物です。

……それを瀬戸に奪われました」


 ジャンの突飛な言葉に、上司は目を白黒させたが

ジャンが密かに撮影していた映像を見せると飛び上がって驚いた。


「キ……キミはいつの間に、これだけのものを……」

「仕上がらなければ夢物語で終わるので、ずっと黙っていました。

……御社に成果をご覧頂き、将来性を判断して頂きたいと準備を進めていたのです」

「わかった。すぐに社長へ連絡しよう。 キミも一緒に来てくれ」


  ジャンは地道に積み上げてきた裏の繋がりを持っていたが

今回は以前のように利用することを控えた。

瀬戸の動きを読めないからだ。

奴の事だから恐らく、自分の繋がりを全て把握しているだろう。

自分がどのような手段でアンドロイドを取り戻そうとするかなど

当然のように分かるだろう。

ジャンは苦々しく歯ぎしりした。



 40分後、ジャンは社長室へ通された。

社長と上司が緊張した面持ちの中

アンドロイド(フェアリ)製作過程を写真と映像を交え

一部始終説明し終えた後ジャンは社長へ切り出した。


「この技術の一部には……御社と共同開発中のプログラムが含まれています。

なので、これを保有する権利は御社と弊社及び私にあります。

私は一体の人間として作成したので、これの試作品はありません。

データについてはバックアップを取っておりません。

容量が非常に莫大過ぎて実質不可能でした。

今後、大量生産を目指して研究していくには

このアンドロイドなくして有り得ません。

……しかし、瀬戸という元社員がアンドロイドを奪い逃走しました。

彼がアンドロイドをどのように利用するのかわかりませんが

これは、御社と弊社、そして私にとっても多大な損失では済まない事態。

なんとしても彼を見つけ出し我々の技術を取り戻さなければなりません!

御社のご協力を願えませんか……」


 ジャンの訴えを黙って頷きながら聞いていた社長。

彼が言い終えても顎に手を置きながら頷いていた。

沈黙した時間がジャンに違和感を与える。


「……社長?」


 異様な空気に耐え切れず

最初に声を出したのはジャンの上司だった。


「あ、いや。ちょっと私の考えをまとめていただけだよ。余計な心配をかけて済まない」


 社長は顔をあげると清清しい笑顔を見せた。


「社長、それでは……」


 ジャンは安堵した表情で社長の言葉に期待を寄せる。


「君が造ったアンドロイドには、その根本に我が社の技術が無断で使用されている」

「……はい、無断で使用した事には申し訳なく思っております」

「しかし、それは我々と共同でこの素晴らしいアンドロイドを商品化し貢献する為の研究であった」

「……! はい、その通りです」

「私は君の、我が社に対する熱意にとても感謝する」

「あ……ありがとうございます」

「……と言いたいところだが」

「は……?」

「はっきり聞くが、このアンドロイドとその技術は……君が瀬戸君から盗んだのではないのかね?」

「な……何をおっしゃるんですか! これは私が!!」


 社長から思いも寄らない批難を受けたジャンは目を白黒させながら理由を問いただす。


「私は、君には関係ない重役達と共にね、ずっと以前から相談を持ちかけられていたのだよ。

人間同様のアンドロイド製造する夢を持つその社員は我々を納得させるのに十分過ぎる程のプレゼンテーションをしたよ。

作成前なので製品は無いが、我々の許可がなければ造りようがない物だからね、仕方がない。

日本を中心に起こるであろう、世界規模での超高齢化社会。

人間型アンドロイドはまさしく……」

「せ……瀬戸ですか!?」


 ジャンの額に異様なほど太い青筋が現れる。

社長は微動だもせずにジャンを見つめ言った。


「君を訴える」

「えっ?」

「ジャン、君は我々と提携会社の極秘技術を無断で使用しただけでなく

瀬戸君が我々の許可の下、地道に研究し開発に成功したアンドロイドを

自分の物だと抜け抜けと言いのける人間性。

我が社の寄生虫と呼んでも良いだろう……」

「社長、何をおっしゃるんですか! 正真正銘、これは私が造った……!」


 ジャンが社長へ詰め寄ろうと立ち上がると、背後から誰かに押さえつけたれた。


「警察だ! 企業秘密を不正に取得し、使用した容疑で君を逮捕する!」

「やめろ!冗談じゃない!!これは僕が何年も何年もかけて造ったんだ!」

「来い!!」


 警察がジャンに手錠をかけて連行する。


「くそっ!瀬戸ぉ!!」



 ジャンが牢屋に入れられた3日後

何故か急に釈放され帰宅するよう伝えられた。

気力を無くしたジャンが呆然と人混みの中を歩いていたら

街頭テレビジョンからのニュースが途切れ途切れ聞こえてきた。


『……突然の株価暴落に5000億円超の多額の負債を抱える事となった、日本……ディス株式会社は……』


「え……?」


 ジャンは立ち止まって振り返る。


『突然の倒産に……多額すぎる負債に会社更生の手続きは…』


「いったい何が起きたんだ?」


理解できずにニュースを見ていたら

ジャンが随分と知っている面々が画面に映った。


『この度の不祥事、誠に申し訳ございません……!』


 社長が頭を下げると、横一列に並んだ重役らも同時に頭を下げた。

その中に、ジャンの上司の姿もあった。

画面はスタジオへ移り、評論家が好き勝手な感想を言いまくる。


『……まったく一番の被害者は末端の社員とその家族、投資していた個人株主ですからね。

彼らは、あんな風に頭を下げても何か利益を得ているんでしょ?

倒産の真相を黙秘し続けているというじゃないですか。

あの会社の大株主も同様…なぜ、裁判を起こそうとしないのですかねぇ。

裏取引があると言われても仕方がないでしょう』

『確かな情報ではないですが、提携会社から派遣されたある社員が原因との話も……』

『ああ、聞いています。聞いていますよ、その話』


 ジャンの心臓がバクバク鳴り額から気持ち悪い汗が滲む。

だか評論家は話にならないと言わんばかりに肩をすくめて一言。


『こういう倒産には、たいてい湧いて出る根拠無い話ですな……。

問題から逃避したい人達の作り話ですよ、ハハハ』



 ジャンが歩いて自宅に着いた時は、すでに日付が変わっていた。

誰も居ない家の玄関を開け、少しカビ臭い部屋の匂いを嗅ぐ。

ふらふらと地下室へ向かうと、当時のままの機材が冷たくなっていた。

フェアリの調整の為に常時起動していた機器。

それらが完全に止まった地下室は、まるで監禁されていた牢獄のように思えた。


「さて……」


 ジャンは瞬きをせずに何かに取り掛かった。

彼の無表情な顔はマネキンのようだ。

小さな小さな部品を手のひらに乗せるとやさしく撫でた。


「僕の宝物……」


 彼は淡々と何かを作り続けた。




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