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アンドロイドの愛情  作者: 祭月風鈴
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第11話 機械人形が選んだ男

 ジャンが、らしくもない雑誌を読んでいた。

女の気を引く極意……のような特集が載っていた。


「ジャン、入るぞ」


 瀬戸が一声かけて扉をノックした。


『考えを読まれている!』


 ジャンは察した。

今まで、瀬戸が声かけてノックする事なんて一度も無かった。


『きっと、こんな本を読んでいる事を嘲笑っているに違いない……』


 久しぶりに嫌悪感が襲った。

頭から唸り飛ばすつもりでドアを開けたら、信じられない光景が立っていた。


「フェアリ……。 お前、何考えてるんだ」


 ジャンだけの物だったハズのアンドロイドが、瀬戸の腕に自分の腕を絡ませていた。

ジャンは顔を真っ青にしてフェアリに詰め寄った。

するとフェアリは悪戯っぽくクスッと笑い、大人びた落ち着いた目で言った。


「私は貴方の傍にいる事に疲れました。 暫く距離を置きましょう」

「何言ってんだ、お前!」

「私のメンテナンスに瀬戸を使います」


 フェアリが瀬戸に絡ませた腕にギュッと力を入れる。


「おい……」


 ジャンの額に青筋が浮き上がるが、フェアリは無表情に答えた。


「貴方が喜ぶよう行動するプログラムは、今も正常に働いてます。

私の分析では、貴方は今、愛情の危機的状況を体験して

最終的に私が貴方の元へ帰るという流れを楽しみたい気持ちになっています。

しかしジャン、私には自分の意思を選択するプログラムもあります。

人間が物を長く使っているうちに物へ固執し必要とするように

物である私も、私を修理する瀬戸に固執し必要と判断しました。

瀬戸は貴方より実用的です。

価値がある方を選ぶ事は合理的なのです」


「ま……まて、フェアリ!お前を作ったのは僕だ!

だから主である僕の意思に逆らう行為は許されない!」


 ジャンの額から玉のような汗が流れ落ちる。

口角から泡を吹き吹き叫んだ。


「ふざけるな! 僕が、『愛情の危機的状況を体験して

最終的にお前が僕の元へ帰る事を楽しむ気持ち』になっているだと!?

馬鹿な空想をしやがって!!

お前はもう駄目だ! 今すぐ、リセットしてやる!」


 ジャンがフェアリに飛び掛かり、うなじの少し上にある釦を押そうとした。


「あ……え!?」


 慌ててまさぐったが、あるはずの釦が見つからない。

ジャンは咄嗟に瀬戸を見ると低く唸った。


「貴様……」

「ロボット3原則なんてクソ喰らえ……だったよな」


 瀬戸は口元を緩く歪ませた。


「”彼女”から頼まれたのさ、リセット釦を外してくれってな」

「こ……この野郎!!」


 ジャンが拳を振り上げる。

瀬戸はニヤリと笑ったまま微動だもしない。

なぜなら、ジャンの拳は動かなかった。


「フェアリ……」

「瀬戸を傷つける事は許しません」


 ジャンの拳を握るフェアリの力は、やもすれば人間など簡単に潰せるほどだった。


「今後一切、私をアンドロイドと思わないでください。

それと、何でも暴力に身を任せない事。

……解るでしょ? 本来なら私は貴方からの暴力を阻止できた。

貴方のプログラムに沿って、あえて抵抗しなかっただけ」


 フェアリのジャンを真っすぐ見る目は無機質を思わせた。

茫然と立ち尽くすジャンを一人残し、フェアリは瀬戸と共に家を出て行った。

小さなタイヤが付いた二人の大きなスーツケースが、ガラガラガラと道を鳴らす。

彼らの姿は隣家の塀ですぐに見えなくなっていたが、音だけは聞こえていた。

やがて、その音も風にかき消されて全てが無くなった。

ジャンは虚ろな目で地下室へ向かった。



 アンドロイドを起動した日、これで最も醜く汚らわしい人間社会から脱出できるとジャンは喜んだ。

だが何故か、己が思い描いた通りにならなかった。


「瀬戸の技術を借りたからか!?」


 ジャンは頭を抱えた。

今だかつて、人の手を「利用」しても、「借りる」事はしなかった。

他人に頼った為に自分の計画が大きく崩れたと嘆いた。


「僕の力不足が招いた結果だ」


 ジャンは一心不乱にあるプログラムを書き始めた。



その頃、瀬戸はフェアリを連れて夜の町をぶらぶらしていた。

フェアリは瀬戸に腕を絡ませてショーウインドーを楽しげに見て廻る。

様々見て歩き、やがて1つの品物に執着した。


「ねぇ、瀬戸。 これをあたしに与えなさい」

「これだね。じゃあ店員さんに取ってもらうよ」


 瀬戸は店員を呼び、フェアリが要求するものを出させた。

店員は小さなダイアモンドを無数にちりばめた細いリングをそっと取り出すと瀬戸に渡した。


「こちらをつけて差し上げて下さい♪」


 リングは、フェアリの細く小さな指に馴染むように納まった。


「このままが良い。この小さな付属品がキラキラして良い」

「結婚指輪と言うんだよ。ずいぶんと気に入ったようだね……すみません、これをください」


 瀬戸は店員から洒落た小さなケースを受け取った。

フェアリは自分の指に輝く光の意味を理解していない。



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