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白兎はハートの歌を読み上げない

「おはようございますハクト様ー! アイカが本日もお迎えに参りましたー!」

「うぐ!? ……朝からテンション高いねアイカ」


 朝起きてリビングに入るなりロケットダイブしてきた物体を、何とか倒れることなく受け止めベリッとひっぺがす。


「私は残念ながらハクトじゃなくてアリスなんだけど」

「問題ありません。私はアリス様も愛しています」

「うん、性別的に問題ありまくるからね」


 朝っぱらからうざいくらいハイテンションなこの娘っ子は綾小路アイカ。

 長い黒髪に巻き毛がキュートなお嬢様。毎日自宅に侵入してくるのに、警察が動かないくらいのお嬢様だ。


「……おはよう」

「おはようございますハクト様!」

「グホォッ!?」


 そしてリビングにやってくるなり、アイカにタックルされてマウントとられているのが有栖川ハクト。

 私の双子の兄であり、お嬢様なエリカに何故かベタ惚れされている平凡(自称)な男子高校生である。


「あ、綾小路さん? いきなりどうしたの?」

「長くお会いできず寂しかったのです!」

「うん。僕の記憶が確かなら、毎日寝る直前までウチに入り浸ってるよね君?」

「ハクト様と三時間以上離れるなんて我慢できません!」

「じゃあ寝て起きるまでの約六時間はどうして……いや、やっぱり言わなくて良いや」


 首ったまにしがみついたままのアイカを支えて起き上がるハクト。

 もはやアイカのエキセントリックな行動については諦めたらしい。無論私も諦めている。


「アリス様。お茶をどうぞ」

「ああ、ありがとうセバスちゃん」


 床でくんずほぐれつしついる二人を置いてテーブルについた私に、いかにもな執事服を着た青年がお茶を出してくる。

 彼はセバスチャン。アイカに仕える執事だが、どう見ても日本人なので私は揶揄を込めて「セバスちゃん」と呼んでいる。

 というか一般家庭に執事が居る時点で存在が軽いギャグだ。アイカに付き合うにしても他に服は無いのだろうか。


「朝食もご用意させていただきましたが、お召し上がりになりますかアリス様?」

「……いただきます」


 そして何故か執事に世話されている私は、有栖川アリス。

 残念ながら本名である。さらに残念なことに、兄のハクトの名前は「白兎」と書く。

 両親を小一時間問い詰めたいネーミングだが、高校生にもなると流石に諦めもついてきたから不思議である。アリスなだけに。


「お嬢様とハクト様も、そろそろ朝食を召し上がってはいかがでしょうか」

「そうね。……いえ、待ちなさいセバスチャン。ハクト様のお茶は私が入れます」


 そう言って慣れた手付きで茶の準備を始めるアイカ。

 お嬢様と言え自分では何もできない箱入りか、万能人間が思い付くが、アイカは何でもそつなくこなす万能タイプなお嬢様だ。

 私には味の違いなど分からないが、お茶を入れる手並みもプロ並みらしい。


「さあ、愛をこめて入れしましたわ」


 そして出来上がった見る目にも鮮やかな色合いの紅茶が、ハクトの前に置かれる。


「……」


 しかしハクト、お茶を手に持つとそのまま凝視して動かない。

 何事かと私がセバスチャン作のフレンチトーストを食べながら眺めていると、リビングの隅に座っていたお座敷犬のコロ(雑種)がスクと立ち上がりハクトの足元へやってくる。


「ああ、コロちゃん良いところに。このお茶を飲んでくれるかな」

「は、ハクト様!? 私のお茶を犬などに……」


 アイカの一見正当な抗議は最後まで続かなかった。お茶をペロペロと舐めていたコロが、不意に体を硬直させポテッと横向きに倒れた故に。

 ……てぇ!?


「コロがコロッと逝った!?」

「大丈夫だよアリス。ただの痺れ薬みたいだから」


 思わずフレンチトーストにフォークをぶっ刺したまま立ち上がる私に、ハクトが冷静にコロの触診をしている。

 何故にそんなに冷静なの!?

 というか「ただの痺れ薬」て痺れ薬の時点で「ただの」じゃねぇ!?


「……アイカ。弁明は?」

「……私の愛を受け止めてください!(はあと」


 右手を顔にあて上目遣いでハクトを見ながら、紅茶(盛り済み)を左手で差し出すアイカ。

 無論ハクトがそれを受けとるはずもなく、頭をグーで叩かれたアイカのお嬢様らしくない悲鳴がご近所に響き渡った。



「まったく、男に痺れ薬なんて盛ってどうするつもりなんだか」


 学校への道すがら、愚痴るように言うハクト。

 どうするつもりて、そりゃ既成事実を作るつもりでしょうよ。客観的証拠に止めるのか、それとも本番までいっちゃうのかまでは知らないけど。


「グチグチ言ってないで、さっさとくっつけば?」

「他人事だと思って」

「他人事じゃないわよ。何回アンタと間違われて襲われかけたと思ってるの」


 双子とはいえ、顔付きはともかく体格も髪の長さも違うのに何故間違えるのか。


「だってアリス男前だし」

「喧嘩売ってるの?」

「褒めてるんだよ。典型的な女子にモテる女子だって」

「まったく嬉しくないわ」


 まあ男にモテたいかと聞かれると微妙だけど。

 というか男前なアリスって、本当に名前負けしてるな私。


「懐中時計持って『大変だ遅刻する』って言いながらアリスの前を横切ったら異世界に逃げられないかな?」

「絶対追いかけないから好きにしなさい」


 そんな馬鹿話をしている内に学校に到着。

 さて、今日はどんな騒ぎを起こしてくれるのだろうか、あのお嬢様は。

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