帰らぬ日 【美麗編】
ブックマーク、評価、ありがとうございます。
大変励みになります。
前話および、前々話の割り込み投稿をかけました。
混乱させてしまい申し訳ありません。
兄は、優しかった。
自分の中にある一番古い思い出たちは、兄の優しさに満たされている。
竹藪で迷子になれば竹を叩き切りながら探しに来たし、蔵で荷物に挟まって動けなくなれば仏具も法具も切り刻んで助けてくれたし、お堂でお不動様の顔が怖くて泣いていたらその首を刎ねてくれたし、通学路で迷子になれば「目印だ」と言って家から学校までのコンクリの歩道に一本線の切れ目を入れてくれた。お兄ちゃんそれはさすがにちょっと。
家の縁側。兄と並んで腰かけている。
「なあ、美麗」
頭をなでて、髪をすきながら、声をかけてくる。
「美麗は将来、なにをしたい?」
兄の指が髪の間をなぜる感覚にボウッとなる。少し恥ずかしい。
「お家のお手伝い、したいかなって…」
尻すぼみの声でそれだけ答えると、兄は手を止めて、どうしてだ…、と訊いてきた。
「だってお兄ちゃん、大変そう…」
どうしてか、兄はいつも忙しなかった。
草餅を食べようと誘うと、断食なんでな、と断られてしまうし、ずっと刀を振ったり、紙に難しい字を書いたり、よく分からない言葉を唱えていたりする。
一緒に遊んでいると、しょっちゅうおじい様たちに呼び出されて行ってしまう。わたしもついていきたい、とお願いすると、怖い顔で大人たちに怒られる。
寂しいけれど、我慢しなくちゃと思っていたが。
ある晩、兄のうめき声が聞こえて、次の日には、その片腕を隙間なく不思議な紋様が覆っていた。
「刺青って言うんだ。痛いんだぞ」と、笑っていた。
入ってはいけません、と言われていた離れの小屋を覗くと、兄が一生懸命、宙を漂ういっぱいの何かを斬り伏せていた。
お兄ちゃんの邪魔しちゃいけません。みんなそう言って自分を叱った。
アナタのお兄ちゃんは、私が守るから。そう言ってくれた従姉のお姉さんは、いつの間にか見なくなった。居なくなってしまった。どこにいったの? と訊いてみても、大人たちは答えてくれなかった。
――――だったら、私が。
「だからレイジお兄ちゃんのこと、手伝いたいの」
ずっと一緒で、ずっと大好きだった兄は、自分の目の届かない場所で、きっといつか消えてしまう。
そんなのダメだ。一番大切な家族なのに。
「このバカが」
と、兄は怒った。
「メンド臭えことは全部オレが叩っ切る。お前は好きに生きるんだよ」
そう言って、また頭をなでてきた。
ちょっと話数を入れ替えたり、割り込み投稿をかけることがあるかもしれません。
その場合、最新話の前書きにてお知らせします。なにぶん手探りなもので、申し訳ありません。
感想、アドバイス等、些細なことでもお待ちしてます。