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ドラマチックにサイキック  作者: 久遠ユウ
心の在り処
14/21

夢の中での目覚め

 白い夢にて、目覚めた。


 天井も、壁も、ベッドのシーツも、床まで一面真っ白で、虚無(きょむ)に取り残されて(ただよ)うようだ。


 体のあちこちから、様々な線が延びている。


 それは栄養を経口摂取(けいこうせっしゅ)したり酸素を注入するための管だったり、脳波や心拍を測定するパッドだったり、単に点滴だったりした。


 体中から伸びるスパゲティじみたチューブやコードを、クモの巣を払うように引き千切る。ゴムもビニルも、合成樹脂も、水飴(みずあめ)みたいに伸びては切れる。


 ガタガタと、風が吹いている訳でもないのに窓が震えている。地震でもないのに、ベッドもゆさゆさ揺れている。なんだか急かすようだ。


 起き上がろうとして、バランスを崩す。床に手をつこうとして(・・・・・・・・・・)、ベッドから転げ落ちた。()いずり、点滴が杖になりそうだと思い手を伸ばすが、右腕は上がらない。左手を伸ばすが、なんだか上手く掴めない。数度、空を()いた手がようやく握った金属棒は、しかし握ったそばからグンニャリ曲がって折れてしまった。


 いかなくては、と思う。


 どこに、なんのためにいくのかわからないけれどとにかく、いかなくては。


 けたたましく鳴る電子音。外から近づいてくる大勢の足音。ベッドの周りで、色んな機械がショートして火花を散らす。電灯が激しく明滅する。


 部屋に入ってきた医者や看護師は、突如(とつじょ)として巻き起こったポルターガイストに面食らい、しかし懸命に幸助をベッドに戻そうとする。注射器で安定剤を打とうとすると、針が曲がってとぐろを巻いた。


 鬱陶(うっとう)しい。でたらめに手を振るうと電光が散り、皆が吹き飛ぶ。


 いかなくては、いかなくては。


 立ち上がろうとして何度も転ぶ。構わない。立てないのなら()いずるだけだ。部屋を出る。廊下を這う。這う。這う。這いつくばって這いずり回る。いかなくては。いかなくては。


 電灯がひとりでに割れてゆく。警報が鳴る。悲鳴が上がる。知るものか。いかなければならない。とめるな、じゃまをするな。


 看護師を()ぎ払い、破壊の跡を床に壁に焼き付けながら、這う、這う。


 ぱさり…、と軽い音が聞こえた。そちらを向く。


「お兄ちゃん……?」


 学校の帰りなのか。


 クリーム色を基調にして、オレンジのラインの入ったブレザーにプリーツスカート姿。学校の制服のようだ。中学生と思しきその少女は、ひとり呆然と立ち尽くしている。


 足元には落ちて散らばった花束。見舞いのための献花だろう。


 手の入っていない眉を吊り上げ、化粧気(けしょうけ)のない頬を引きつらせ、長いまつ毛に(ふち)取られた、垂れがちの大きな瞳を丸く見開き(うる)ませて、こちらを凝視している。


 幸助は構わず進む。這う。そこをどけ。誰であろうと、邪魔をするなら薙ぎ払う。


『ダメだよ。

 ―――――大事な人でしょ?』


 アタマに直接届く声。


 ひどく優しい、懐かしい響きに押し上げられて、意識が浮上してゆく――――――


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