第六話
―あれ、それだけ?何かすごいあっさりしてる。
絢は思わずその後ろ姿を茫然と見送ってしまった。
「心配してくれてんのかどうなのか分かんない言葉だねえ」
「そうだね……」
声をかけてきてくれたということは少なからず男子生徒の中に気遣いと言うものが存在するのだろう。
しかし男子生徒の言葉は心が籠っていないように思えた。
まるでお決まりの言葉を言うように、事務的な対応を取ったまでだ、という感じだ。
ちょっと冷たい言い方だなあと絢は感じた。
顔もなんだか怖かった。
「あいつは確か1組の何だったかな、紀来って名前だったような?」
「紗耶ちゃんあの人のこと知ってるの?」
「いや、私も名前ぐらいしか」
紗耶はアンテナがとても高い。
噂や人間関係などの情報を一体どこから仕入れているのかと疑いたくなるほど多く持っている。
好奇心が旺盛で知りたいことを聞いていたらそうなったという事だから驚いた。
今まで陸上の世界での紗耶しか知らなく、学校生活での紗耶の情報通は意外な一面だった。
大概の事は答えられるのだ、勉強以外は。しかしその紗耶でも彼の事は名前しか知らない。
1組とは体育が絢たち5組と合同のクラスである。つまり週に1度は顔を合わせているというわけだ。
それにもかかわらず沙耶のセンサーが働かない。
男子生徒には悪いがほとんど特徴がない、逆に言うと中々レアな生徒ということになる。
「調べてあげようか?」
ニヤニヤしながら紗耶が尋ねる。
いまだ自分の思考の中にいた絢は「え、肉の焼き加減を?」などと勝手なことを口走りそうになったのを慌てて抑えた。
「そんなんじゃないから」
変な勘違いをしてもらっては困る。
妄想癖があると言っても、あれくらいでときめいたりはしない。
「まぁまぁ落ち着きなさいよ」
「落ち着くのは紗耶ちゃんだよ。私本当にそんなつもりはないんだからね」
「分かってるよ。だから私が勝手に調べて勝手にあんたに口を滑らせる」
物は言いようといったものだ。
ものすごい遠回し、琵琶湖も真っ青の遠回りをして結局行きつくところは同じ。
これではこの場にいない誰かに言い訳をしているようにしか見えない。
「そうと決まれば放課後まで楽しみに待ってなさい。私の独り言に付き合ってもらうわよ」
紗耶はご機嫌良く絢の背中を叩いた。
どうしてこうなってしまったのか、もう避けようのない未来が待っている。
これから紗耶は一日を使って彼の情報をかき集めるだろう。
興味本位と銘打ちながら友人のためにとでもルビが振ってありそうだ。
確かに気になっているのは事実だが、それはまた別のことで、だ。
(沙耶ちゃん、私本当にそんなつもりないのに……)




