第五十一話
圭は暴魂に会う前日にそのことに気付いた。
きっかけは高城が圭を呼び出した理由だった。
高城の言葉は至極簡単だった。
「短距離の成績が悪いから大会に出ろ」
言語道断な話ではあったが、圭に対してその手の話が来ることは珍しくなかった。
生徒間には広まっていないが、圭は自身の能力を使って、教師たちに大量の貸しを作っている。
と言っても今回の話は本来貸しと言えるものではない。
「まさか圭君が陸上部に入ってるなんて知らなかったよ」
「名前だけの参加だからな。気付かないのも無理はない。現に一回も行ってないわけだし」
名前だけの参加と言うだけで圭は陸上部の幽霊部員をやっていた。
教師には圭の身体能力が伝わっており、自分の部活に入れたい輩が多かった。
その中で、一番待遇が良かったのが陸上部だったのが入部の理由だった。
入ってしまえば他の部活は簡単に手を出せない。
「まぁ今回のは俺が陸上部に入ってたから分かったことなんだがな」
高城の話を聞いた時、圭は疑問を思った。
短距離にはいい人材が揃っているという話は聞いていた。
それを聞いたところ、高城はポロっと愚痴を溢した。
「駄目だ、あいつらじゃ今年は任せられない。特に一年の結城には期待していたんだが、あいつはメンタルが弱い」
結城と言う名前が圭の耳に残った。数秒後、それが絢の親友の名前であることを思い出す。
圭は高城から詳しい話を聞くことにした。
「んで、俺は結城に目を付けたってわけ。まぁ確信には時間がかかったけどな」
「そうなんだ……」
絢は呟きながら再び沙耶に目を向ける。また最後尾、調子は目に見えて悪い。すでに暴魂の脅威は去った。
沙耶は学校が憎かった。そして自分のすぐ傍で結果を残す絢が最も憎かった。
聞かされた時はショックだったが、沙耶の事を考えると絢は納得がいってしまった。
それでも、最後には沙耶は絢を守ってしまった。殺しきれない自分の感情がその行為に走らせた。
それを認めた瞬間、沙耶はその気持ちに気付き、暴魂を拒絶した。
憎しみより、思いやる気持ちが沙耶の中で大きくなったためだ。
存在理由を失った暴魂はそのまま消滅、跡かたもなく消え去った。
そのはずだが、沙耶の調子は落ちたままであった。
「こればっかりはどうしようもない」
調子の低下は元々暴魂の影響ではない。沙耶自身の心の問題であった。
「何とかなるよ、沙耶なら」
きっぱりと言ってのける絢。その顔には自信が窺えた。
「まぁしっかり支えてやるこった」
投げやりに言ってのける。
「琥々はどうしてる?」
「琥々なら寝てるよ。凄く疲れているみたいで、動きたくないってさ」
琥々は結界の生成に全力を使ったため、精根が尽きていた。
「そうか」
圭は反動を付けて体を起こし、照明塔から離れた。
「圭君はやって行かないの?」
「俺には色々やることがあんだよ」
バッグを片方の肩にかける。やること、絢は出かかった言葉を飲みこんだ。圭は特殊な能力を有している。
決して日の目を見ることのない立場でありながら、課せられている責務は困難を極めている。
絢は自分の事を含め、そのことを嫌というほど理解した。
「心配そうな顔すんな」
圭はにこやかな笑顔を絢に向けた。顔に出てしまったのか、絢は恥ずかしくなった。
「お前もこっち側に足突っ込んでる身なんだから」
「そっち!?」
間違いない、心配して損した。
ははは、と笑いだした圭。
何か負けた気がする絢であったが、不思議と怒る気になれなかった。
圭の笑いにつられて思わず顔が緩くなってしまう。
「休憩終わり、練習再開するぞ!!」
高跳びのリーダーが声をあげた。
「んじゃ部外者は御暇しますか」
圭は一度沙耶の方を見た後、踵を返した。
「また会いに行ってもいい?」
絢は自分の傍を通りすぎた圭に語りかける。
圭は振り返らなかった。
「言っただろ、お前はもうこっち側の人間なんだってな」
あくまで直接的な言葉を使わずに、圭は返事をし、そのまま帰路へと就く。
絢にはその時の圭の背中が、とても頼りがいがあるように見えた。
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最後になりますが、圭たちの物語を最後まで読んでいただいてありがとうございました!




