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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
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第五十話

 放課後の時間にホイッスルの音が響き渡る。そして一斉にスタートを切る走者達。

 

 そのスタートで第四コース、真ん中の一人が頭一つ抜ける。


 そのままぐんぐんと加速していくのだが、その人物は徐々に他の走者に間を詰められてしまう。


 伸びが足らないのか、差はどんどん無くなって行く。それでも負けじと踏ん張る。


 しかし、七十m過ぎには隣の第五コースの走者にとうとう抜かれてしまった。


 そのままその人物は次々と抜かれ、ゴールした時には既に最後尾になってしまった。


「調子悪いみたいだな」


 その光景を遠くから見ていた圭は呟いた。制服姿は部活をしている陸上部だらけの中ではかなり目立つ。


 暗くなってきた時のための巨大な照明塔に背中を預け、目の前の光景を見つめていた。


 視線の先にいるのは結城沙耶、今のレースは圭女の出場競技である女子100m走の練習だった。


 飛び出しは良かったのだが、素人目に見ても後半の伸びが欠けていた。


「やっぱりまだ調子悪いのかな?」


 隣に立ち心配そうな声を出す絢。此方はちゃんとした陸上選手の恰好だった。


 今の沙耶は県大会はおろか、地方大会ですら入賞できるか分からないタイムを出していた。


 全盛期、昨年の全中から比べたら格段にタイムが落ちている。


 その事実が彼女を苦しめていたのだ。


 沙耶は小さいころから走ることが大好きだった。だからこそ中学に上がったら迷うことなく陸上部に入部した。


 最初の年、沙耶は一年生ながら県大会にまで出場する。自分の走りが認められた、沙耶はとても喜んだ。


 だが、それからが沙耶の苦痛の日々だった。大きすぎる結果を残した後、残ったのは自分のキャパを超える程の期待だった。


 夏が明けた後の記録会、秋に控えている新人戦。


 大会と名のつく場所において、沙耶は注目の的だった。


 多くの人が自分を見ているのが分かっていた。


 様々な感情が籠った視線が沙耶に集まった。


 沙耶にはそれが嫌でならなかった。楽しかった走りが苦痛にしかならなかった。


 常に結果を求められた。その重圧に負けないように努力した。


 だがそうして出した結果は、また大きな期待を生んだ。


 負のスパイラルに嵌まっていく感覚。どうしようもない流れに沙耶は飲み込まれていった。


 何とか死に物狂いで結果を出した中三の全中、沙耶は走り終わった後涙を流した。


 一位になったからではない、沙耶は安心したのだ。


 やっとここから解放される。この呪縛からやっと逃げられる。


 もう結果を求められることはない。


 沙耶の肩から重い荷が下りようとしていた。


 だが、現実はそう甘くなかった。


 全中が終わってから数日後、沙耶は放送で呼び出され、応接室へと迎えられた。嫌な予感がした。


「ぜひ栄凌高校に来てくれないか?」


 予感は的中した。栄凌高校の陸上部の顧問である高城は沙耶の身辺と調べ、兄が栄凌高校に通っていることを突き止めたらしい。


 更に沙耶の陸上の顧問が自分の大学の後輩であることに気付き、連絡を入れたそうだ。


 まただ、この人もあたしに期待している。


 断ろう、そう決めた。


 もうあたしは記録のために走りたくはない、自分の好きなように走りたいと。


 その時だった、沙耶の決意を揺さぶる連絡が入った。


「沙耶ちゃんの方にも話があったの?絢にもあったよ」


 全中で知り合った友達、種目は違えど顔を合わせるうちに意気投合していた。


 彼女にも栄凌高校から声がかかったらしい。


 そして沙耶は栄凌高校について調べてしまった。


 高校レベルとしては最高水準の設備を有する私立高校。


 推薦をもらえるのなら乗っからない理由が見当たらない。


「絢が行くなら……」


 その返事はその友達に責任を押し付ける様な言い方だった。


 あくまで自分の意志ではないということを主張していた。


 そうして入学した栄凌高校の生活は何の苦にもならなかった。


 それなりに苦労はあったが、それを含めて一人暮らしと言うのは楽しかった。


 だが、やはり部活は好きになれなかった。


 期待を裏切れば周りから蔑まれた目で見られてしまうのには変わりない。


 だがそこに特待生と言う立場がのしかかった。


 結果を出さなければ生きていけない世界。


 学校の権力の無言のプレッシャーが加わったのだ。


 沙耶はそれに耐えることが出来なかった。


「頑張ってね」


 度重なるその激励が沙耶の心を酷く傷つけた。頑張った先にあるのは何か。


 それは陸上の記録だ。


 只のタイムだ。


 学校が応援するのは何でか。


 それは沙耶を応援しているのではなく、名前を売る一つの道具として沙耶に声をかけているにすぎない。


 結局誰もあたしを見ていない、あたしは必要とされていない。


 そう思った時、沙耶は走ることを心の底から止めたくなった。


 それでも部活には出た。


 自分が誰かに必要とされてないなんて関係ない、いつも通りやって行けばいいのだと思った。


 だが、一度走ることを拒絶した沙耶にそのいつも通りのタイムを出す力は残っていなかった。


 沙耶は憎んだ、重圧に押しつぶされた自分に。


 期待にこたえられない自分に。


 そして自分を追い込んだ要因全てを。


「そしてその負の感情に暴魂が引き寄せられたってわけだ」

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