第四十九話
「これで終わりだ」
掴みとった刀を鞘に戻す。
カチンッと音が鳴った瞬間、今まで刀で生み出した複数の斬撃を能力で同時に生み出した。
全ての角度からの斬撃、暴魂は全身を一瞬で切り裂かれた。
抵抗する間もなく、暴魂はその場から墜落していく。
地面に激突、本来ならその程度でびくともしないはずだが、体の損傷が大きいのか暴魂はうめき声をあげる。
そして我を忘れたようにその場で暴れ始めた。
地を叩き、もだえ苦しんでいた。
それはまるで駄々をこねた子供の様に、何かに抵抗している様に見える。
そのうめき声は泣き声に聞えなくもない。
「沙耶ちゃん……」
暴魂の背後、体を引きずりながら絢は少しずつ進んでいた。
意識が回復したのか、左手で腹部を抑え、右手で体を引っ張っている。その絢を見た暴魂は酷く怯え出した。
何の脅威も感じられないはずの絢に、暴魂は恐れを感じている。
「嫌……嫌……嫌あああぁぁぁ!!」
逃げるように体を動かす。だが圭がそれを許さなかった。
絢の反対側に立ち、暴魂を挟み内にして逃げ道を断った。
行動を失った暴魂――沙耶は涙でぐしゃぐしゃになった顔で圭と絢の顔を交互に見た。
「もう、良いんだよ沙耶ちゃん」
絢はとても大丈夫と言えない体でありながら、出来る限りの笑顔を親友に向ける。
「さっきの見てたよ……私に向けて撃とうとした時、中断してくれたよね。私を守ってくれたよね?」
沙耶に手を伸ばす。だが沙耶はその手を避けようとする。
しかし、背後に逃げ道はない。
どうすることもできなく、怯えた表情で絢を見つめた。
「ひっ!」
絢の手が沙耶の頬に優しく触れる。
「ありがとう」
そう言って絢は抱きついた。虚を突かれた沙耶はしばらく沈黙した。
絢は反応がない沙耶の背中を優しくさすった。
すると徐々に感情が湧き上がって来たのか、大粒の涙が頬を伝う。
泣きじゃくる表情だが、まだ我慢しているのか、鳴き声はあげない。
「ありがとう」
再度の絢の言葉。その言葉で、沙耶の感情を抑えていた壁は崩れ落ちた。
「あああぁあっぁっぁぁぁ!!!!」
沙耶は泣き崩れた。顔をクシャクシャに歪め、絢を強く抱き寄せた。
「ごめん……ごめぇん……」
泣きながらの言葉でうまく発音が出来ていない。絢はそれに応える様に更に沙耶を強く抱きしめた。
「あだし……あやに……あやに……ひどいごど……いっだぁ……」
「大丈夫だよ。私はあれくらいじゃ何とも思わないよ。仕方ないよ。他人の全てを受け入れられる人なんていないんだから」
「でも……でも!!」
「沙耶ちゃんのは少し運が悪かっただけだよ。運悪く、暴魂なんて呼んじゃったからこうなっただけ。沙耶ちゃんは悪くないよ」
絢は離れて沙耶の頬を両手で挟む様に触れた。
「だから……笑って?」
「あ……あ……あぁ……」
言葉を探すように沙耶は首を振る。
「ね?」
「ああぁあぁぁぁぁ!!!!」
再度沙耶は泣き崩れてしまった。
「えぇ!?」
絢の胸に飛び込み、顔を寄せる。
血だらけの服だが、それに構わず沙耶は絢の胸元で泣き続けた。
「泣かせてやれ」
絢が助けを求めようとすると圭は先にそう言った。
絢は戸惑いながらも、沙耶の頭を優しく抱くことにした。
「取り合えず、一件落着ってとこだな」
やれやれといった感じに息をつく圭。
深夜の学校で、一人の少女の泣き声が響き渡った。




