第四十八話
その姿を確認してか、暴魂が絢の傍に現れた。
先程の獣の様な姿ではなく、結城沙耶の姿で直立している。
その表情は今まで暴れていたものとは思えないほど穏やかなものだった。
しゃがみ込み絢の顔に自分の顔を近づける。絢も焦点の定まらない目でその顔を見る。
赤かった目は元に戻り、悲しげな眼差しを絢に送っていた。
しかしそこで人の気配、暴魂は即座に対応した。
左手を振ると、気配のした方に黒い刃を作り出す。
地を抉る刃、それは気配の主に襲いかかる。
それに対し、気配の主――圭が行ったのは一つ、刃に対して手に持つ刀を振っただけ。
たったそれだけで黒い刃はいとも簡単に消え去った。
続いて圭は刀を横に軽く振った。何の事もない、只の動作。
だが暴魂は何かに引っ張られるように圭とは反対方向に吹き飛ばされた。
そのまま暴魂は校舎に激突、遅れて校舎に横一線の抉った様な跡が生まれた。
暴魂は倒れそうになる寸前で何とか踏ん張った。
四つん這いになり、鋭い目つきで圭を睨みつける。
圭が地面に刀を突き刺した。絢と暴魂を結ぶ直線を遮る様な位置だ。
その瞬間、暴魂の体がブルッと震えた。
そして焦りの表情を見せながらも圭に対して臨戦態勢を取った。
そのまま圭は絢の傍に寄った。
「大丈夫……そうには見えないな」
絢は圭の言葉に僅かに反応する。
だが声を出す力も残っていないのか行動までには至らなかった。
圭は出血の具合を見る。圭は絢のジャージをめくり、傷口を確認した。
絢は目を見開きうめき声をあげたが、それに構っている暇はない。傷口は焼き切れていて、奥からの出血がなおも続いていた。
止血、その結論に至った圭は躊躇せず傷口に指を突っこんだ。絢のうめき声が激しくなる。
圭の能力は触れているものならイメージを必要とせずに創造できる。だからこそ、絢の内部に直接手を入れたのだ。
それでも所詮応急処置、流した血を取り戻したわけでない。
命の危険があることに変わりない。時間との勝負だった。
「待ってろ、直ぐに病院に送ってやる」
荒い息の絢に反応はなかったが、ジャージを直して圭は立ち上がった。
そして地面に突き刺さっている刀を引き抜く。
そして今まで一歩も動いていなかった暴魂に切っ先を向ける。
「見ての通りだ、時間がない。決着を付けるぞ」
静かに言い放つ圭。有無を言わせない威圧感を暴魂に浴びせる。
とうとう痺れを切らしたのか、暴魂が圭に向かって動き出した。進みながら背中に黒い翼が生える。
絢の力を吸った負のエネルギーはまだ豊富にあるようだ。
機動力は圭の予測より格段に増している。
それでも圭にとっては十分対応できる速度だった。
不規則に動く暴魂の動きに惑わされることなく、圭は暴魂が攻撃して来る瞬間を見切った。
右手を振り下ろした暴魂。生じた黒い刃を圭はすれすれで避ける。カウンターの一撃を叩き込むための回避だ。
一回転、体を捻り、圭は無防備な暴魂の右側を攻める。暴魂は背に生えている翼を使い、その斬撃を防ごうとする。
だが、刀は容易くその翼を引き裂いた。
まるでプリンなどの極めて柔らかい物をナイフで切り裂く様に、何の抵抗もなくその動作を行う。
そして翼の向こう側にある暴魂自体に斬撃が届いた。
「ガアアァァァ!!」
悲痛な叫び声をあげた暴魂は翼を勢いよく翻し、圭から距離を取った。
大きく跳躍すると、校舎の三階部分の壁にへばり付く。
そして四肢を固定、顔を圭に向ける。
大きく開いた口の前に黒い鉄球の様なものが現れ、それを見た圭はすかさず動きだす。
それに応じて暴魂の顔も動く。
程なくして鉄球が発射され、黒い電撃を纏い圭に向かって行く。
狙いを付けられた圭は、間一髪鉄球の軌道上を逃れたが、それは着弾した瞬間、轟音を響かせその地面を抉り、小型のクレーターが形成する。
それから暴魂はその鉄球を連射し始めた。一秒に満たない間隔で次弾が発射される。
少しでも遅れれば致命傷となる鉄球を圭は避け続ける。
鉄球は圭が通過した瞬間に着弾している。
数発の後、発射のタイミングを把握した圭は、発射の瞬間、ある一点で停止した。暴魂は慌てて口を閉じる。
生み出された鉄球は空気中に拡散した。
その隙を圭は見逃さない。そして圭はある直線状を跳躍する。
それに対して暴魂は対抗行動を取らなかった。
あまつさえ回避行動すら行わない。
目を見開き、ただ茫然と圭に顔を向けている。
「分かるか、俺の後ろにいる奴が?」
圭は刀を頭上に放り投げた。
「友達のために自分の死すら厭わない」
そして圭の左右に複数の剣や刀が扇状に出現する。翼を模した配置だ。
「大馬鹿野郎だ!!!」
圭はそれらを上から順に掴んでいき、暴魂に対して振っていく。
右の初撃、校舎もろとも見えない斬撃が暴魂を吹き飛ばす。
左の二撃目、追いうちの斬撃が暴魂を襲う。
そして三撃、四撃と左右からの連続の斬撃を暴魂に浴びせる。
最後の一撃は校舎が衝撃に耐えきれず、暴魂は校舎を突きぬけ宙に投げ出される。
ボロボロになりながらも、暴魂は何とか体勢を立て直そうと背中の翼を展開する。
だが展開した翼は直ぐに背中から切断された。
そして圭は翼を切り裂いた物体、最初に放り投げた刀を暴魂の真下で掴みとった。




