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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
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第四十七話

 百聞は一見に如かず、経験に勝る才能なしとよく言われる。


 実際体で味わったものは何倍もの成長を促進させる。


 絢は今それを文字通り身をもって体験していた。


 沙耶の意識がある時はまだマシだった。


 人間らしい思考を持った動きをしていたため、絢も何とか対応が出来た。


 力の使い方も実践を通じて何とかまともになって来た。


 力には力を使って相殺してく事で五分に持ちこめた。


 だが、表の人格が沙耶から暴魂に変わったことを境目にそれは一変した。


 場所は校舎と校舎の間の中庭。


 室内は既に崩壊し、原型を留めていない。


 自然と外に出ていた。絢は圭との約束を忘れたわけではない。


 ただこれは自分で決着を付けなければならないと感じていた。


 だから絢は校庭には向かわず、この中庭で暴魂を待ちうけていた。


 中庭の中央で周囲を警戒をする絢。力の波動で暴魂の位置はおおよそ把握している。


 しかし、それに頼ってしまっては駄目だ。暴魂は恐ろしい速度で移動している。


 点での位置など最早気休めにもならない。


 逆にそれで慢心してしまう恐れがある。


 今暴魂は絢から見て右側の校舎の壁を通過した。


 しかし、突如黒い刃が正面から絢に襲いかかる。何とか反応は出来た。


 サイコウェーブを発動、吹き飛ばそうとする。


「消エロ」


 刃が消滅した瞬間、目の前に暴魂が姿を現した。


 四つん這いになり、暴魂は大きく口を開く。


 レーザーが来る。


 しかし、避けようにもサイコウェーブ発動直後の絢は硬直して体が動かない。


 目の前がフラッシュし、轟音が響き渡る。


 目を瞑ると同時に腹部を何かが貫いた。


「くっ……」


 そのまま後方に吹き飛ばされる。


 数回転がり、絢は校舎傍の木に激突した。


「カハッ!」


 吐血、全身に痛みが走る。中でも腹部の痛みは常軌を逸していた。


 恐る恐る触れるとねっとりとした感覚が手に付着した。


 見ると赤い液体がジャージに沁み渡っている。


 直ぐ様そこを手で抑える。


 更なる激痛が走り、また出血はとどまることを知らない。


 レーザーは完全に腹部を貫通している。


 もしかしたら内臓を痛めたかもしれない。厳しいダメージだ。


 しかし、これは絢にある種の確信を植え付けた。


「何でよ……何でこんなに小さいの……」


 絢は木を頼りにして立ち上がった。


「本当なら今ので私を殺せたはずでしょ? 琥々に撃った時はすごく大きかったのに……何で?」


 呟く様な言葉。暴魂に動きはなかった。


 まだ四つん這いになり、小刻みに体を動かしながら絢を凝視している。


 その姿は猛獣と言っていい程荒々しく見える。


 背中に生えた二つの翼は悪魔を連想させ、むき出しの歯は狂暴さを露にしていた。


 最早沙耶の面影は微塵も感じられない。


 そのはずなのに。


「何で手を抜いたの?」


 暴魂の動きがピタッと止まった。硬直と言ってもいい。


 やっぱり、絢は一息ついて呼吸を整えた。腹部の痛みは激しい。


 でも、これくらいの体の損傷、慣れている。


 喋れる元気があるだけマシな事を絢は分かっていた。


「まだ迷ってるの?」


 絢の言葉に一瞬だけ暴魂は後ずさった。


 だが直ぐに体勢を立て直し、その場から姿を消してしまった。


 暗闇と同化するようにして見えなくなった。


 絢は波動を感じ取った。先程までの刺々しいものではない。


 波動の強さは変わっていないものも、何か怯える様なものを感じ取れた。


 動揺している、そう絢は結論付けた。


 今の沙耶は完全に負の感情に飲み込まれているわけではない。


 まだ感情が揺らいでいる。あれほどの罵声を発してもなお、沙耶の心は迷っている。


 絢に勝機があるとすればそこしかなかった。


 肉体的にダメージを与えるのではない。心に響かせなければならない。


「まだ……大丈夫」


 体に鞭を打って動かす。ただいくら慣れていると言っても痛みはある、機動力は格段に低下した。


 それに長時間は持たなだろう。


 血の流し過ぎは慣れではどうしようもない。


 ふと、絢は我に返って思ったことがあった。


 冷静に分析できる時点で自分が只の人間でないことを確認してしまった。


 これもお母さんのおかげか、幸か不幸か昔から鍛えてくれたことで今行動出来ている。


 絢は中庭の中央にまで体を持っていった。


 沙耶に迷いがあるなら致命傷を与える攻撃はしてこない。


 だからこそ、狙いやすい位置に陣取った。


 今にも倒れそうなバランスで絢は立っている。


「確かにね。私も沙耶ちゃんに相談しなかったよ。これは自分の問題だ、他人を巻き込んじゃいけないんだって思ってね。その時私はそれが一番良いんだって思ってやってたよ。誰にも迷惑をかけないで自分で解決しなくちゃいけないんだって。でもね」


 絢はそこで咳き込んだ。口を抑えた手が紅く染まる。


「でもね……今なら分かるよ。それはきっと一番ダメな事なんだって。やっちゃいけないことなんだって。自分一人で抱え込んじゃいけないんだって。だからね、もう沙耶ちゃんに全部話すことにするよ。もしかしたらもう届かないかもしれないけど、私、話すよ」


 絢は立つことを止め、その場に座り込んだ。


 そして自分が体験したことを話し始めた。


 小さいころから金縛りにあっていたこと。


 聖域に近付いてしまったこと。


 ストーカーに追い回されていたこと。


 妖魔である琥々に命を狙われたこと。


 時々咳き込み、吐血しながらも絢は最後まで話し続けた。


 聞き手の姿が見えていないにもかかわらず、ただひたすら言葉を紡ぐ。


「それでね、圭君に助けてもらったんだ。私ってばドジだよね。助けてくれた圭君を犯人だって思ってたんだから」


 ははは、と笑う。陽気に振舞ってはいるがその額には汗がうっすらと滲んでいた。


 意識も徐々に薄れていた。


「圭君ね、ちょっと目つき悪いけどとってもいい人でね。料理がとっても上手いんだよ。食後に飲む烏龍茶が美味しくってね、私何回も……何回もおかわり……したんだ……よ」


 絢は体を前に折りたたむように倒れた。そして横に転がって仰向けになる。


「あぁ……もう……ダメかも。目の前がよく見えないよ。まだ……話したいこといっぱい……あったのに」


 既に全身は血で真っ赤に染まっていた。流れ続ける血は絢の意識を奪って行く。


「じゃあ最後に……一番の絢の秘密……教えるね」


 絢はおぼつかない右手を自分の胸の上に置いた。


「わた……し……ね、本当……は…………」


 絢は言葉を続けた。


 誰もいない空間にその声だけが響く。


 もう絢には動く力が残っていない。

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