第四十六話
場所は栄凌学園の校庭。
校庭と言っても各部活は専用のグラウンドを持っているので、昼休みなどの休憩時間で遊ぶぐらいしか使われない。
それでも十分な広さがあり、サッカーコートが四面以上貼れそうである。
どれだけ暴れても周囲に迷惑はかからないだろう。
そんな場所も深夜となっては人の気配は全くもって感じられない。
だがその空間に一人、忽然と立っている少年がいた。
手に持っているのは袋に入っている麦チョコ。
それを次々と口に運んで行っては食している。
まるで飢えた猛獣化の様にその食いっぷりは豪快だった。
そして袋を傾け、最後の一粒まで残さず喰い尽した。
袋を投げ捨て、少年――紀来圭は一つ息をついた。
ここ最近の度重なる能力の酷使。それは圭の脳に多大なるダメージを与えていた。
イメージを元に行う能力は脳に少なからず負荷がかかる。
思いの強さが能力の強弱を決定する世界である。
強いイメージは強い力に還元されるが、その分リスクも大きくなる。
その中で琥々、バーサーカーソウルとの二連戦。
そして能力の中でも圭の持つ物質創造は脳にかかる負担が大きい。
だからこそエネルギー摂取としてのチョコレートだった。
板ではないのは只の圭の趣味である。
十分なエネルギー補給、圭は自身の体調を確認する。
バーサーカーソウルとの戦闘はかなりの大規模なものになる。
万全の体調で挑まなければならない。
そのため絢に時間を稼いでもらっているのだ。
「全力を出せるようにするために琥々に結界を頼んだんだからない」
圭は上空を見上げる。
変わりない夜空が広がっている。しかし、圭は感じ取っていた。
今この栄凌学園の内部は外部とのかかわりを完全に断っている状態にある。
琥々の結界が作用しているためだ。
内部でどれだけ暴れようが、琥々の力を大幅に超えない限り外部は一切影響を受けない。
さらに今の琥々の力はそれをはるかに凌ぐ絢によって増幅されている。
信用に足る、完璧な出来だ。
「これならいけるだろ」
首を捻って骨を鳴らした。絢には暴魂をおびき出すことを頼んだ。
だが圭自身、順調に暴魂がその頼みを聞いてくれるわけがないと分かっていた。
そして何より、絢がその頼みを遂行できるとは思っていなかった。
校庭に何とか逃げる絢を暴魂が追ってくれば上出来という所だ。
だがそこに行きつくまでの過程で絢が沙耶を説得する、圭は予測していた。
感じ取れる霊力の弱さからして、今の意識は宿主である沙耶のものだと判断できる。
そうと分かれば絢は説得をする。
沙耶の意識が表に出ている内に問題を解決しようとするはず。
絢の頭の中ではまだ話し合えば分かり合えるという気持ちが残っている。
だが絢と沙耶が分かり合えないことは分かっている。
沙耶が持つ負の感情の正体を圭は知っていた。
それを考えれば絢と沙耶、二人の関係とても奇妙なものに感じ取れた。
僅かに笑う圭、だが直ぐにその顔は怪訝なものに変わった。
「ん?」
圭は霊力を感じ取った。一つは暴魂のもの。
やはり分かり合えなかったのか、力の波動が強くなっている。
そこまでは圭の予想通りだった。
だがもう一つ、巨大な力を感じ取った。紛れもない、絢の霊力だった。
何故だ、圭の顔に焦りの色が見えた。
暴魂の波動が強くなるのは分かる。
それは避けようのないことだからだ。
しかし、絢までそれに呼応するかのように力を強める理由が分からなかった。
それもまるで暴魂に敵対するように敵意むき出しの波動だ。
絢の戦闘態勢、それは圭の予測に入っていないものだった。
「待て、そもそもなんであいつ力が使え……琥々か!」
圭は一つの答えに行き着く。何時の間に、圭は唇をかみしめると同時に走り出した。
いくらなんでも早すぎる。
「この力の波動……あいつ、戦う気か」
圭は直ぐに絢の許を目指し駆けて行った。




