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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
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第四十四話

 絢は開いた穴から校舎に侵入した。そこは二年生の教室であり、吹き飛ばされた机や椅子が衝撃の激しさを物語っていた。


 車が突っ込んだかのような有様に絢は息を飲んだ。人間が耐えられるはずもない衝撃。


 絢は顔を振った。感傷に浸っている暇はない、絢は廊下に出た。


 昼間は多くの生徒で賑わっている廊下は、一転して静寂している。


 暗闇に包まれた校舎内は底知れぬ怖さを放っている。


 それだけで怖じ気づきそうにもかかわらず、絢を更に不安にさせるものがこの闇には潜んでいる。


 バーサーカーソウル、沙耶がいる。


 あれほどの狂暴な行動とは打って変わって、この静けさ。


 お化け屋敷の何倍もの恐怖が絢を襲っている。


 どこにいるのか、絢は霊力を探ろうとする。


 自分を中心に波紋を広げるイメージ。


 校舎の構図を頭に入れながら、慎重に索敵を開始する。徐々に範囲を広げて行く。


 そして絢は微かな霊力を感じ取った。


「でも、ここって……」


 絢は顔をしかめた。


 もう一度霊力を探ってみるが結果は同じだった。


 何故そこに? そう疑問がわいたが絢に妙に納得が出来る様な気がしていた。


 意を決し真っ直ぐにその場所を目指して闇の中を走り出した。


 絢は教室の前で歩みを止めた。この学校で最も使用回数の多い教室。


 扉を一つ挟んだその先には沙耶がいる。


 先程から霊力の動きは感じられない。


 その場所で驚くほど弱弱しく霊気を放っている。


 あれほどの暴走を見た後では疑問がわいてしまう。


 深呼吸の後、扉に手をかける。若干扉が重く感じた気がした。


「沙耶ちゃん……」


 沙耶は自分の席に座っていた。窓側の一番後ろ、先生に最も見られにくい角度でありながら、先生が最も気にする場所。


 沙耶は授業中でも携帯を触ったりしているのでよく注意されていることがある。


 沙耶は絢とは反対の向き、つまり窓の外を見ていた。右肘を机につき、その上に顎を乗せている。


 何時も見ている沙耶の恰好、だが今はそれがとても悲しそうに見える。若干の寂しさを感じさせた。


 その姿を見ると、絢は教室に入るのを躊躇ってしまった。


「あたしさぁ……」


 まるで絢の逃亡を阻止するかのように声をかけてきた。


 しかし沙耶はまだ外を見ている。偶然だとしても嫌な気しかしない。


「一体……何したいんだろうね?」


 呟きと言ってもいい。


 確かに発したのは沙耶だ、しかし絢はそれが本当に沙耶の言葉か疑ってしまった。


「なんで、そんなに悲しそうに言うの?」


 沙耶なら、絢の知っている沙耶なら軽く言ってのける言葉。


 それをなんでそんなに重く、悲しく言うのだろうか?


「沙耶ちゃんらしくないよ」


 今の沙耶はとてもいつもの沙耶とはけか離れている。こんなの沙耶じゃない。


「あたしらしくないか。じゃあ聞くけど、あたしらしさって何?」


 抑揚のない声と共に沙耶はやっと体を動かした。椅子の上で体を反転させ、絢を正面に見据える。


「――っ!」


 絢は目を疑った。見た目に違いはない、だが纏っている雰囲気が普段のものとは全く異なるものだった。


 表情のない顔、目からは生気が感じられない。


 人形と言っても差支えない。振り向いただけでこの異質な変化。


 絢は思わず後ずさってしまった。


「ねぇ絢」


 絢は跳び跳ねそうなところをなんとか耐えた。


「あたしらしさって何?」


 声が喉で詰まった。何かを言おうにも、それは言葉にならずに嗚咽の様に漏れるだけ。言おうとしている言葉はある。


 沙耶ちゃんは元気な子だ。


 そういったことを言えばいいだけ、それだけなのに絢の思考は背反してその意見を口にすることを許さなかった。


「言えないよね。だって絢は本当のあたしを知らないもの。あたしね、絢が思っているほど強くないの。誰もそう、あたしを見ても本当のあたしに気付かない。誰もあたしを分かってくれない」


 だんだんと声が小さくなっていく。まるで泣きそうな子供を見ている様な、ハラハラした感覚に似たものを感じた。


 存在が危うい、今にも壊れてしまいそうな繊細さ。見た事もない沙耶がそこにはいた。


 似ても似つかない彼女、しかし確かにその人は沙耶だ。


 絢の目の前にいるのは沙耶のはずだ。


 いつも明るく、元気で走り回っているお転婆という言葉が似合う女の子のはずだ。


 それは変わらない、変わるはずがない。


 なのに絢は今、目の前の女の子を全く知らない錯覚に陥った。


 沙耶という基準が絢の中で崩れ去って行く。


「あたしはね、弱いんだよ。それこそ少しの重圧で潰れてしまいそうなほどに」


 弱弱しい声、しかししっかりと聞きとれるものだった。


「なんで誰も分かってくれないの? なんで誰も気付いてくれないの?なんで、なんでなんでなんでぇ!!!」

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