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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
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第四十三話

「手段を選ばない行動は、宿主の体すら顧みない。今は奴が力でコーティングしているが、衝撃そのものを消しているわけじゃない。既に彼女の体はボロボロのはずだ」


「そんな……」


「それが暴魂であり、圭女が負の感情が呼び寄せた正真正銘の悪魔だ」


 沙耶が絢を視界に捉えた。


 そして大きく口を開いた瞬間、そこから黒いレーザーが放たれる。


 空気を振動させる程の轟音を響かせ、黒いレーザーは真っ直ぐ琥々へと向かって行く。

 

 琥々はそれをサイコウェーブで食い止める。


 拮抗した力は乾いた破裂音と共に相殺される。


 するとバーサーカーソウルは琥々を一瞥し、校舎内に消えて行った。


 そこには破壊された跡の穴だけが残った。


「守勢に回ればなんとかなるが、これでは打つ手がない。何とか奴を機能停止にまで追い込めれば」


「それは駄目っ!」


 絢は声を荒げる。それは懇願に近かった。機能停止ということが肉体的に損傷を与えることだということは絢にも理解できた。


 だが、それで傷つくのは沙耶の肉体だ。


 親友、それも高校に来てやっと一緒になることが出来た友達。


 それが嬉しく、毎日が楽しさの連続だった。


 その親友をそんな風に扱うことはできない。出来る筈がなかった。


 それでは沙耶すら危険な状況に追い込んでしまう。


 だが、絢は自分が悩んでいることも分かっていた。


 いつも一緒にいた親友、それが何故こんなことになってしまったのか分からなかったからだ。


 こうなる前まで、宿主はとても悲しい人なんだと思っていた。


 日常を過ごす学校を嫌い、だけど嫌いきれない葛藤。


 それを胸に抱いて生活することはとても苦しいことだと思っていた。


 宿主が学校関係者だと分かってから、絢は見の周りの人間全員を注意深く観察していた。


 少しでも辛そうな素振りを見せたら直ぐに声をかける準備をしていた。


 絢が助けてあげようと思っていた。


 そのはずなのに……。


 毎日が楽しかったはずなのに。


「なんで、なんで沙耶なの?」


 楽しかった日々、あれは一体何だったのか? 


 何が沙耶を追い込んだのか、絢には分からなかった。


 そんな素振り、一切見せなかったからだ。


 私に何で言ってくれなかったのか。


 絢は胸の奥が締め付けられる感覚に襲われた。


「それ以外に助ける方法は二つ。一つは宿主の願いを成就させること。そうすればバーサーカーソウルは役目を終えて消える筈だ」


 絢の気持ちを汲んでか、琥々が妥協案を出す。願いの成就とは沙耶を放置させることに他ならない。


 このまま放っておけばバーサーカーソウルは沙耶の願いを成就させるだろう。


 確かにそれも一つの手だった。


 だが、絢はそれを良しと出来なかった。


「それも駄目! もう一つは?」


 それは今のまま沙耶を見捨てることだと思った。


 このままじゃ明日からどう沙耶と接すればいいのか、絢には見当がつかなかったのだ。


 バーサーカーソウルを呼び寄せるほどの負の感情、それを押し殺している昼間の沙耶。


 そんなものを抱えながら自分にほほ笑みかける沙耶を、絢は見たくなかった。


 それに、バーサーカーソウルは再来するかもしれない。


 その度にこの様な事件が起きるのを黙って見ているわけにはいかない。


 「もう一つは宿主に願いの成就を諦めさせること。だがこれは望みが薄い。不可能と言ってもいい。諦めさせることが出来る程度の願いならまず暴魂を呼び寄せる筈がない」


 話の途中で、絢は琥々が言おうとしていることが理解できた。


 後者は現実というより妄想に近いことなのだと。


 叶うはずのない、幻なのだと。


 そう、言おうとした。


「そうでもないぜ」


 そこに絢の声をかき消すものがあった。絢は全く気が付いていなかったが、声の主である圭は絢の後ろに立っていた。


 若干の服の汚れが残っているが、こちらの目に見える怪我はない。


 圭はあの刃の衝撃を防ぎきっていた。黒い刃が衝突する直前、圭は自分がイメージできる限りの最硬の盾を創造した。


 守勢に百パーセントの力を使い、あの一撃を耐えた。


 とはいえ最硬の盾という無理難題をイメージしたため、力を大幅に使ってしまった。今圭の激しい頭痛に襲われている。


「まさかあれをやるのか?」


 琥々の問いに圭は頷いた。勿体ぶった言い方をしないで欲しいと絢は思った。


「契約の強制破棄、それしかない。そもそもそれをするために俺は奴に接触したんだからな」


「それってあの……」


 絢の頭に一つの光景が思い出された。一枚の紙が塵と化す瞬間。


「絢の契約を無効にしたものか。確かにあれならやれるかもしれん。だが」


 琥々はそこで言葉を切った。良い情報を聞いた後の逆説。


 出来れば聞きたくない内容の話を言う時に使う話し方だ。


 それはその話し方をした琥々も同じ心境だった。


「はたして奴に効くのか? 絢の力を吸収した、今の奴に」


「はっきり言えば五分五分ってところだ。何分、さっきの防御で」


「ちょっと待ってください!」


 圭の話の途中、絢は割り込んだ。絢自身この割り込みが何回目だか分からない。そう思えるほど、絢は質問を繰り返していた。


「私の力を吸収したって、どういうことですか?」


 どういうことか、この言葉を一体絢はここ数日で何回使ったのだろうか。しつこすぎるくらいだということは分かっていた。


「言葉通りだ」


 そんな質問にも圭は答えて行く。圭には想像できた、絢が置かれている状況が。


 絢はここ数日、非日常と言える体験を日常的にしている。


 自身の金縛りからストーカーまで発展した琥々の件、そして今回は親友を失う葛藤に襲われる状況。


 しかもそれが自分の知らない自分が起こしたものであったこと。


 他人事ではあるが、

理解が追いつかない、整理がつかないのも無理がないと理解していた。


「今の奴はお前の力を吸収して力を増している。さっき接触しただろ、あの時にお前の負の感情から出た力を吸収したんだ」


 だから包み隠さず話した。先程真実を言うと決めていたから。


 圭の予想通り、絢は俯いて何かを考えていた。肩がふるえ、今にも泣きそうに見えた。


 脆く、儚く、今にも崩れてしまいそうな存在に思える。


 今の絢の心情なら、全てマイナスの方向に考えてしまうかもしれない。


 そう判断した圭は絢の頭を右手で軽く叩いた。どう接すればいいか分からない時に取る行動だった。


「何めそめそしてんだよ。それで何か変わるのか?」


 絢は答えなかった。圭の声が届いているのか分からない。


 だが圭は言葉を続けた。


「確かにお前はその場の感情で行動し過ぎだし、その結果自分では取り返しのつかない事態まで発展させやがる。周りからしたら迷惑な事この上ない限りだ」


 だけどな。


「それがお前なんだよ。目の前で困ってるやつがいたら自分を顧みないで助けて、それで満足してるやつなんだよ。なんだよ、全然いい奴じゃねぇか!」


 若干絢の体が動いた。もう一息、圭は更に言葉を続ける。


「お前は確かにそんな性格してるよ。だけどな、その性格のおかげで助かってる奴がいるんだよ。だよな、琥々!」


 圭の言葉に絢が反応する。顔を少し上げて琥々を見つめる。その表情は悲観に満ちていた。


 琥々は鼻を鳴らす。


「同感だな。絢があの時私に力を与えようとしなければ絢は塵と化していた。絢、お前は私を救ってくれたのだ。感謝している」


「本……当?」


「嘘をついてどうするんだ。私は絢の使い魔なのだ。お前がこれからどんな困難に首を突っ込もうが、私は絢の傍にいる。あと、そいつもな」


「人をおまけの玩具みたいに言うな」


 圭は直ぐ様不満を訴える。だがその顔はにこやかに笑っていた。そして圭は絢に手を差し伸べる。


「だからよ、お前はやりたいようにやればいい。それがお前なんだから、お前の生き方なんだから。後始末は俺たちに任せればいい言さ」


「圭……君」


 鼻をすする音、絢の瞳から涙が頬を伝って落ちた。絢は涙を指で拭い、圭の手を取った。絢の表情は明るくなった。


 完全に立ち直った様だった。


「大丈夫か?」


「うん」


「そうか。んじゃさっそくで悪いがやって貰いたいことがある」


「私にできることなら」


 絢は力強く答えた。今はやせ我慢でも気持ちを強く持たないといけない、そう感じた結果だ。


「お前だけであいつを校庭まで誘導してくれ」


「私だけ?」


「そうだ。琥々、お前は全力で結界の生成を頼む」


「何をするつもりか分からんが、良いだろう」


 少しの疑問が籠った声で琥々は同意した。何をするのか分からないのは絢も同じだった。しかし、絢の心は穏やかだった。


 圭君なら、きっと何とかしてくれる。きっと沙耶を助けてくれる。


 確信を持って絢は頷いた。

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