第四十一話
絢は持てる限りの力を解き放った。体が熱い、奥から何かが溢れてくる感覚。
言葉に出来ない感情が渦巻き、抑えきれない。周囲の物体が浮遊し始めた。
簡単に動かすことのできない重量級の機器がカタカタと動き始める。
私は、ここを破壊する!!
「なら」
その時、体に負荷がかかる。何かが絢の体に纏わりついてた。
「あんたがそんなに苦しんでるなら、嫌になってるなら」
それが何なのか判断するより早く急激な虚脱感が襲ってきた。
体の力が全て吸い取られている様な感覚。
「あたしが代わりに背負って、ア……ゲ……ル」
沙耶は絢を更に抱きしめた。動けるはずがないのに、沙耶は絢に確かに抱きついている。
やがて虚脱感は解放感へと姿を変えた。
心地いい、大きな何かに包まれる感覚となる。
「させるか!!」
怒声、同時に絢は後ろに引っ張られた。更に沙耶と絢を引き裂く様に間に何かが目の前に振って来た。
それが当たる寸前、沙耶は絢から離れる。
目の前にいるのは日本刀を床に突き刺している圭。
その後ろ、今まで絢に抱きついていた沙耶がいる。
だがその様子はいつもの陽気な沙耶とは完全に違っていた。
「邪魔……スルナ」
沙耶のものでない。
それ以前に本当に人間が発しているのかと疑いたくなるほどの濁声だった。
「沙耶ちゃんじゃ……ない?」
今なら分かる。力を理解した今だからこそ、沙耶でない何かが放つ禍々しい霊力がヒシヒシと感じられる。
全てを否定するようなどす黒い感情の結晶。
これが、いや、まさか、そんな!
絢は脳裏を駆け巡った言葉を否定した、信じたくなかった。絢はこれこそ拒絶したかった。
しかし、絢のそんな幻想に、現実は重い鉄槌を振り下ろした。
そして、絢が否定した言葉を圭が代弁した。
「数時間ぶりだな。暴魂」
圭の言葉と同時に周囲を闇が覆った。
「何……これ?」
絢は目を疑った。いや、視界には何も映らなかった。
目を瞑っているのかと疑った。真っ暗闇と言っていい。しかし目の前に微かな明かりが見えた。
ほんの小さな光が2つ、横に短い間隔で並んでいる。そして徐々にその赤い光の周りがぼやけ始める。
やがてそれは鮮明に目に映し出された。光っていたのは沙耶の目だった。
そして理解する、一瞬光を失っていたのは瞳孔の働きが間に合わなかったからだ。一瞬にして周囲が暗くなり、不気味な静けさが広がった。
何が起きた、その問いに対する明確な答えを絢は持っていない。だが、絢でも似た様な答えを出すことはできる。
夜になったのだ。
そうとしか言えない状況だった。
夜が降って来たのだ。




