第三十九話
「我、夕飯を作ってみんとす!」
絢はフライパンを片手に意気込んだ。最近やることなすこと裏目に出ていたり、家庭的な所をどこぞの男子に奪われたりと何かと不甲斐ない。
何故か圭は夕方になっても帰ってくる素振りを見せない。だからこそ、ここで出来る女だと証明せねば。
今日の数学のテスト?
そんなもの知らない、無かったんだ。
「やるぞぉーーー!」
「そこまで気合を入れなくても大丈夫だろう」
視界の片隅丸くなりながら文句を言っている輩がいるが気にしない。
何事にもやる気は大事。そうだ、気合いだ気合。
そして料理の基本は、
「火力!!」
絢は油を敷いたフライパンを熱しようとする。
のだが、そこでふと思い出すことがあった。
「そう言えば琥々って火出せたよね?」
「ん? あぁ、おそらくそこから出るやつより高火力の火を出せるぞ」
絢は琥々と初めて会った時の事を思い出した。人に化けていた時、確かに炎を操っていた。
「今の絢ならあの時と同じことが出来る筈だ」
「絢?」
「妖魔使いは使い魔の能力を使用できるようになる。まぁ霊力は本人次第だがな。そうだな、ちょうど良いだろう。力の使い方の練習をしようか」
琥々は起き上り、フライパンの真横まで移動する。
「良く見ていろ」
琥々はフライパンに前足をかけると、中を覗き込んだ。
そして口からチャッカマンほどの火力の炎を吐きだした。
「きゃっ!」
当然火は敷いた油に引火して巨大な炎となった。たまらず顔を背ける。
「安心するんだ。この炎は絢が生み出したものであり、絢の力を使ったものだ。絢に危害はない」
「危害はないって、凄い燃えてるじゃない!」
「これぐらいの火力に怯えてたら到底火など扱えんぞ。料理は火力なのだろう?」
うぐっ、それを言われるとは思わなかった。
自分で言いだした半面、ダメージは大きい。
絢は改めて燃え盛る炎を見た。危害はないと言われても、見ているだけで怖い。
「大丈夫か?」
絢は恐る恐る頷いた。するとフライパンの上の炎が一瞬で消え去った。
「今度は自分で出してみるんだ。出したい場所にさっきの炎をイメージしてみろ。能力の基本はイメージだ」
ほら、といった風に琥々はフライパンに手を載せる。
いやいや、そんな簡単にやってみろって言ったって出来るわけがない。
試しに軽くイメージしてみるが。
ゴォォォーーーーーー。
「なん……で?」
何これ、何この赤いの? あら不思議、燃え盛る炎が目の前に。
「ほう、始めてにも関わらず一発で出せるとはな。イメージが良かったということか。良い傾向だ。ん、どうした?」
「……何でもない」
それって褒めてるの、貶してるのどっち?
それって想像力の話、妄想力の話どっち?
いや、どっちにしろダメージを与えるものに他ならなかった。
悲しくなってくる、泣きたくなってくる。
「そうか、じゃあ次だ。炎に手を入れてみろ」
「えっ、何? もう一回言って?」
多分聞こえてたけど、うまく理解できなかった。
「だから手を火の中に」
「無理無理無理!!!」
何言ってるのこの狐は!手の中に火、じゃなくて火の中に手を入れるなんて常識に無理だよ。
「さっきも言ったが自分の炎に恐怖してどうする」
何だこの狐、火の中に突っ込ませてやろうか? 絢は琥々をじっと見つめた。
実はこんがりと美味しく焼けたりしないかな?
「何でも良いが、さっきから思っていることが念話で筒抜けだぞ。あと、霊体の絢は何の霊力の籠っていない炎では焼けないぞ。この炎も元は絢の能力だからな、絢には効かん」
心なしか冷たい言葉を返された気が。確かに念話は気を付けなければならない。
このままでは絢の心の中が全部琥々にばれてしまう。
プライバシーも何もあったものじゃない。呟くのもひと苦労だ。
「しかし、炎を出せただけでも上出来だ。今日はこれぐらいで良いだろう。徐々に慣れて行けばいい」
慣れる自分が全く想像できないんですが。とはいえ、これが力の使い方というものか。絢は炎をまじまじと見つめる。
それは紛れもない炎。今でさえ、絢が出したとは思えない。
あの時琥々が出した炎をもう一度思い出した。空中が発火したかと思うと、瞬く間に津波のように押し寄せた炎。
今でも身震いしそうになってしまう。
あの炎を、絢が操ることが出来るのか。こんなどこにでもいそうな女子高生である絢が。
圭の力もこうなっているのかとふと思った。絢が炎を見つめていると、横にいた琥々は台所から飛び降り、リビングの方へと進んでいってしまう。
「どこかに行くの?」
「そこに居たら腹いせにフライパンに放り投げられかねないからな。効かないとはいえ、遠慮させてもらう」
どうやら根に持たれてしまったようだ。ふんっ、と鼻を鳴らしながら琥々はテーブルの上で丸くなった。
拗ねた琥々がなんだか可愛く見えてしまった。
「きゃっ!」
何故か一瞬フライパンの火が強くなった。
「集中しろ」
厳しい一言と共にその犯人はフサフサの尻尾を左右に振っていた。下手したら炎よりも扱いに困る。




