第三十四話
「今のが能力だ」
「はぁ……」
悪戯っぽく笑う圭に、絢はどことなく曖昧に頷いた。
なんとなく、といった印象だ。うまく飲み込めてはいないだろう。
「まぁ能力なんてこれからいくらでも見れるだろうからな。その内、嫌でも分かってくる」
「えっ、これからってどうして?」
絢の頭にクェッションマークが浮かぶ。
「そりゃ、お前も能力者になっちまったかだろう。それも滅多にお目にかかれない神獣を使役する妖魔使いにな」
「えーと、それは……私もこんな力使ってあんな戦いをしろってこと?」
「分かってんじゃないか。そういうことだ。まぁその、なんだ。諦めろ」
圭はうっすらと笑顔を浮かべ、絢の肩を叩いた。同情の顔だった。
いや、諦めきれるわけがないでしょ。
絢は心の中で強く訴えた。いきなりあなたは能力者になりましたって言われて信じる人間がいるだろうか。おそらく皆無だ。
いたとしても、面白半分に付き合うだけで、内心は誰も信じないだろう。
でもここで絢が声に出さなかったのは本心では圭の話を信じていたからに他ならなかった。
信じる理由は二つあった。
一つは能力を見知ってしまったこと。それは今目の前で起こったことだけではない。
圭と琥々の戦いをこの目で見てしまったからだ。あれを見た後ならば、能力者という言葉を信じてしまう。それほど衝撃的な出来事だった。
もう一つは今絢の目の前で丸くなっている子狐の存在だった。
妖魔である琥々の存在は日常の言葉で表せるわけがないにもかかわらず、絢は琥々の存在を認識してしまっている。否定する所は、何もなかった。
「一先ずはこれぐらいだろうな。それじゃ改めて本題に入らせてもらっていいか?」
絢は戸惑いながらもしっかりと頷いた。
「暴魂か。確かに奴はここ最近目立った行動が多いから、当然絢も警戒はしていた」
姿勢を整えて琥々はテーブルの上にきちんと座った。若干まだブラシを警戒している。
「そもそも暴魂は妖魔といっても絢の様なものとは全く異なり、負の感情を餌とする寄生虫の様な妖魔だ。人間の負の感情に霊力を付加することで無理やり力を引き出させ、それを拠り所として成長していく。宿主には相当の負担がかかっているはずだ」
「そうだ、だから宿主が壊れる前にどうにかしたい。今現在暴魂の宿主は特定できてない。何か心当たりはないか?」
「済まないが私もそこまでは分からない。だが、絢の周りでそれらしき霊力を感じた事ならあった」
「私の周り?」
なんでまた私に? そう言いたげな絢。
「前にも言ったが、お前の周りにはそう言った不可解な出来事が起きやすいんだ。それで、具体的にどんな時だ?」
簡単な説明をして圭は話を戻す。
「だが絢の言葉を信じられるかは分からんぞ。絢ですらこれには疑問を持っているのだ」
琥々の言葉に自信の無さが窺えた。
「どういうことだ? 神獣ともあろうお前が確信を持てないなんて」
その対応に圭も顔をしかめる。
「暴魂の行動時間は何時だ?」
「夜だ。そうでもない限り、霊力を保つことが出来ない。霊力を感じられないこともないが相当接近してもない限り、昼間は宿主の意識に隠れ……」
圭はそこで言葉を止めた。頭に何かが引っ掛かったのだ。
「そう。絢が奴の霊力を感じたのは夜ではない、昼間なのだ」
圭が理解したと察した琥々は確認するように言う。圭は深くため息をついた。
だが絢は話の展開について行けず、圭と琥々の顔を交互に見ていた。
「ねぇどういうこと?」
教えてくれないので質問してみる。
「お前、昼間はいつもどこにいる?」
「どこって、それは学校……あっ!」
少し頭をひねってから絢は答えた。そして口にしてから事態の深刻さに気がついたようで、目を丸くする。
「お前が今思ったので正解だ。暴魂、厄介なことにその宿主は、栄凌学園の関係者、それもお前に近い人間ってことになる」




