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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
32/52

第三十一話

 終わったの?


 絢は今目の前で起きていた光景に思わず目を奪われていた。空間に突如現れる巨大な岩、そしてそれを破壊していく目に見えない衝撃波。その衝撃波は突風のように周囲の物をなぎ倒し、崩壊させていった。


 絢はその光景を茫然と眺めていた。不思議な事に、周りがどれだけ荒れ果てようと、絢は影響を全く受けなかった。人の肉体より何倍も強固なものが崩れていく中、絢は悠々とその場に立ち尽くしていた。


 絢は目の前に横たわっている化け狐を見た。これほどの被害を出した原因、だが今は様子が違っている。先程までの迫力がまるで嘘だったかのように化け狐は弱弱しく見える。最後の圭の斬撃が致命傷になったのだろうか。

 

 とても絢に迫った時の恐怖は微塵も感じない。今にも死にそうだった。


 そして、圭が化け狐の首に刀を添えた。


「待って!!!」


 絢は叫んだ。絢の声を聞いて圭が手を止め、絢を見る。鋭い目つき、とても冷たい表情をしていた。そうだ、圭はあの化け狐を殺す気だ。絢にはそう思えてならなかった。


 だが、絢には聞きたいことがあった。どうしても聞きたいこと、絢の頭にずっと引っ掛かっていること。


「何か用か?」


「聞きたいことがあるんです。あなたじゃなくて、この」


 絢は何て呼んでいいか分からず、目線を化け狐に向けた。

 

「天狐にか」


 圭の表情が元に戻った。圭の返答に絢は頷く。絢はこの天狐に聞きたいことがある。それは絢の今後にも関係するとても大きなものだ。


「良いだろう。と言っても、こいつが答えてくれるかどうかは知らないがな」


 圭はそう言いながら天狐に目配せした。


「俺もちょうどこいつに聞きたいことがあったんだけど、まぁいい。先にどうぞ」


 にこやかにそう言うと、圭は天狐の横に移動した。だが刀は添えたままだった。もう天狐は虫の息にしか見えないのに。だが絢も天狐の力を見ていたので仕方がないことだと思った。身の安全を保証するということだ。


 絢は天狐に近づいた。さっきまで遠くからしか見ていなかったが、やっぱりこの狐の体は巨大だ。こんな生き物が今自分の目の前にあることが信じられない。天狐は目を瞑ってじっとしている。全く動く素振りを見せない。


「あの……」


 絢の声に天狐は反応した。ゆっくりと目を開け、両目でしっかりと絢を見ている。その目は真っ赤に光り、まるで宝石のガーネットの様な輝きを放っている。深い赤、まるで吸い込まれそうな感覚に陥った。とても、綺麗だった。


 絢はその目に一瞬目を奪われた、しかし直ぐに気を取り直して大きく深呼吸をする。焦る必要なんかない、落ち着いて話すんだ。


「聞いても良いですか」


 沈黙、しかし絢は許可を取っておきながらも返事を待たずに先を言った。


「何であの時、私を狙ったんですか?」


 天狐は静かに目を閉じた。構わず、絢は言葉を続ける。


「あの時、絢は確かにあなたの声が聞こえました。だからですか? だから私なんですか?」


 あの時周りには友達がいた。でも、その中でも何で絢なのか。何故絢でなくてはならなかったのか。絢は明確な理由が欲しかった。


 だが天狐は答えようとはしない。じっとしているだけで、動く意思が見られない。


「なんで、何で答えてくれないんですか!?」


 絢は声を張り上げた、そうせざるを得なかった。今まで我慢していた気持ちが一気に込み上げてきた。だがそれは一貫したものではなかった。


 絢の中で多くの感情が入り乱れ、混ざり合っていく。


「なんで……なんで」


 絢はその場で泣き崩れた。腹が立った。ここで答えず沈黙を通す天狐に。そしてそれに対してただ泣くことしかできない自分自身の弱さに。嗚咽が漏れる、涙が止まらなかった。


 そんな時、頭に何かが触れた。優しく置く様な感触、覚えがある。


「お前本当に泣いてばっかりだな」


 うるさい、私だって分からないんだ。


 だが声に出せなかった。絢はただ泣くしかできなかった。顔を上げなくても分かる、圭が絢の頭に触れている、それもチョップで。どこまでそれが好きなんだ。でも、それが温かくも感じていた。


「しょうがないな。本当はこいつ自身が言った方が良いんだけど。こいつはな、あんたの力が欲しかったんだ」


「ちか……ら……?」


「あんたは本来人間が持つであろう霊力の何倍もの霊力を持ってるんだ。こいつはその力が必要だったんだ。本来こいつの力はこんなもんじゃない。理由は知らないが何かによって力の大半を失っている。そうじゃなきゃ俺が神とタイマン張れるはずがない」


 圭は最後に絢の頭をポンっと叩いた。だが絢にはそんなことどうでもよかった。絢の力、他の人よりも強い力。


「そんなものが私の中にあったから、何ですか?」


「そうだ、はっきり言ってお前のその力は数倍なんて」


「いらない!!!!」


「あ?」


「そんな力私要らない! こんな目に遭うんだったらそんな力要らない!」


「おい、ちょっと待て!」


「そんな力で私はこんなのに襲われたの? 嫌! 嫌! 嫌! そんな力要らない! もしかして私が金縛りに遭っていたのだってこの力のせいなの!? どうにかして、どうにかしてよ! そうだ、あなたなら何とか出来るでしょ? 今みたいにねぇ、ねぇ!!!」


「落ち着け」


 圭が絢の肩をがっちりと掴んだ。そこで絢は気づいた。いつの間にかに絢は圭の胸倉を掴んでいる。無意識とは思えないほど力いっぱい引っ張っていた。


 正気に戻り、直ぐに手を離した。圭のワイシャツはボタンが外れ、かなり乱れていた。


「大丈夫か?」


「す、すみません。取り乱して」


 沸騰していた頭が急に冷えた。私は一体何をしているんだ。自分がいつ圭に掴みかかったのか記憶にない。我を忘れていたということだろうか。取り乱した自分が心なしか恐ろしかった。


「でも確かにお前の言い分も正しい。これの原因はお前じゃない。その大きすぎる力にある。でもな」


 服の乱れを直しながら圭は絢に背を向けた。


「こいつがいなかったらあんたはとっくの昔に死んでいるはずなんだ」


「どういう、意味ですか?」


 この天狐がいなかったら絢はもう死んでいる?


「お前みたいに強い力を持った人間は妖魔に狙われやすい。それこそ大金ぶら下げて街中をうろつく様なもんだ。妖魔全部がってわけではないが、少なくとも何も知らない人間がこれほど強い力を持ちながら妖魔に襲われたことがないなんて聞いたことがない」


 今生きてること自体が奇跡、圭はそう付け加えた。


「そ、それが今とどんな関係があるんです?」


「まだ分かんないのか? 今まで妖魔に襲われなかったのはこいつがお前を守っていたんだよ。神獣と言われるこいつが、常にお前の傍にいたから妖魔は近づけなかった」


「嘘……」


 助けて、くれてたの?


「嘘じゃない。お前が今生きているのが何よりの証拠だ。それ以外考えられない。例え将来的にお前を襲うつもりだったとしても、こいつは何年もの間お前を守ってたんだ」


 絢は天狐を見た。変わらず目を瞑り、その場でぐったりとしている。もう生きる力がないのかもしれない。


 守ってくれたの? 私を?


 問いかけようとした時、天狐に異変が起きた。体が突然発光した。するとあれほど巨大だった天狐の体が、ほんの子猫ほどの大きさになってしまった。もう両手で抱けるくらいの大きさだ。


「この子、どうなるんですか!」


 絢は天狐に駆け寄った。聞きはしたが予想は出来る、とても苦しそうに見える。もうすぐ死んじゃうんだ。


「もうじき消滅するだろうな。霊力を出し過ぎている。人間で言えば出血多量ってやつだ」


「何とかならないんですか!」


 何でこの人はそんなに冷静でいられるんだ。


 絢は天狐に両手を伸ばし、胸に抱いた。


「契約の偽装、人魔間の相互不干渉の規則違反。助ける理由が見当たらない。それよりも、こいつが消滅する前に聞きたいことがあるんだ。渡してくれないか」


「嫌です」


 譲るもんか。何でかは分からないが渡してはいけない。この子が妖魔とかいう生き物でも、目の前で死にそうになっているのを見過ごせない。確かにこの子は私を殺そうとした。でも今は苦しんでるじゃないですか。


「ここでお前が意地を張ってもそいつを助けられる可能性は0だ。そいつにはもう力が残っていない」


 それは分かっている、絢ではこの子を助けられない。多分それが出来るのはこの場で紀来圭、圭だけだ。圭もそう思っている。でも、絢には圭が想像していないだろう方法があった。


「あなたはこの子を助けられるんですか?」


「だからそいつにはもう力が」


「じゃあ力があれば良いんですか?」


 圭の表情が険しいものに変わった。。圭も気づいたんだと思う。絢の突拍子もない考えに。


「おい! お前、まさか」


「力があれば良いんですよね!」


 「止めろ!!」


 止めようとする圭、でも絢はそれに逆らい抱いている天狐に向かって念じた。


 私の力をあげる、だから生きて。


「あやぁぁぁ!!!!」


 意識が遠くなる寸前、圭の声が聞こえた。名前、覚えてたんだ。絢は深く、深く落ちていく感覚に襲われた。

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