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創生のオラクル  作者: ハルサメ
本編1
29/52

第二十八話

「えっ?」


 絢は視線を目の前に戻した。また圭がいる。座れと言ったのに、指示に従わずに悠然と腕を組んで立っている。


「あっち偽物、俺本物。OK?」


 多分NO。偽物って何?


「おっと、危ないぞ!」


 状況を整理しようとしていた絢の体を圭が引っ張った。すると今まで絢が立っていた場所に火柱が走った。

 

 一直線にガソリンをまいたように火がすぐ横を通過していく。


「やっとお出ましか」


 圭は絢を腕に抱きながら、偽物だという圭を見た。


「本当の姿でやったらどうだ? 人型は辛いだろ?」


「……ふざけるな小僧」


 偽物と言われた圭が腕を横に振った。すると空中が発火し、絢たちに炎が迫って来た。


 火が自分に向かって飛んでくる経験――花火は別として――なんてあるはずがない。当然挙動不審になってしまう。


 どうするんですかこれ!?


 一先ず逃げようとした絢だったが、圭がそれを許さなかった。腰に回された手で絢は動こうにも動けない。


「えっ嘘!」


 死んじゃいますよ! 逃げよう抵抗する絢を完全に無視して圭は炎をじっと見つめていた。そして炎が寸前に来た瞬間、力強く地面を踏みつけた。


「きゃ!」


 視界の下から何かがせりあがった。それは絢たちの前方を遮るように立ちふさがった壁だった。絢たちと炎を完全に遮断している。


「離れろ!」


 声と同時に絢は圭に放り投げられる。あれ、なんか前にもこんなこと無かった? そう思っている間にも絢の体は空しく宙に浮いていた。


「えっ! ちょっと!?」


 こういう時はどうすれば?


 そう思ったが、体が勝手に反応した。自然に体勢を整え、柔道の前回り受け身で着地する。


 危なかった、高跳びの感覚と少しかじった柔道が功を奏した。そう言えば圭はどうしたのだろう。絢は顔を上げて正面を見た。


「何、あれ……?」


 絢の目の前に圭の背中が見えた。だが絢が自分の目を疑ったのは圭の目の前にいる生き物について。あれは紛れもなく、


「狐?」


 どこからどう見ても狐だ。だが絢の思考が疑問という形で言葉を発したのはその狐の体格にである。


 体長は圭の約十倍ほど。昔動物園で見た象を越えるほどの大きさの狐だった。化け狐、そうとしか表現できない。


 だが不思議な事にその狐には尻尾が存在しなかった。


「こいつがお前を追っかけてたストーカーだ」


 巨大な狐を見上げて圭は言う。


「え、ちょっと待ってください。どういうことですか?」


 理解が追いつかない。まず絢にはストーカーとこの化け狐がイコールで繋がる意味が分からなかった。


「こいつが変化して、ここ数日追い回してたんだよ。あんたの魂を戴くためにな」


「魂を……いただく?」


「人間の魂を得て生き続ける異形の存在、それがこいつら妖魔だ。もっとも、こいつはそこらにいる様な低級な妖魔じゃないがな」


 だめだ、何を聞いても質問しか浮かんでこない。


「低級じゃないってどういうことですか?」


「低級の反対は高級だろ。だけどこいつは高級なんてもんじゃない。レベル九、神獣クラスの妖魔だ」


「なるほど。我々の存在を認識し、そして今の力。小僧、信託者(メシア)か?」


信託者(メシア)?」


 聞きなれない言葉、ここまで来たら喋る狐に突っ込む気は無い。というかこの化け狐の迫力がありすぎてまともに対応が出来ない。


「そうだって言ったらどうするんだ?」


 この化けもの相手でも圭は臆することなく会話を続ける。絢には無理だ。


「何故我の邪魔をする。我は貴様らが仕える存在である神なのだぞ」


 神様、確かに今この狐の化け物はそう言った。それに仕えるって何?


「だったらその神様が、なんでこんな小娘相手にムキになってんだ?」


 小娘って私?


「契約をしたからだ。それ以外で私たちが人間と関わるなどあるはずがないだろう」


「契約だと? 神楽坂、お前なんかやったのか?」


 いきなり話を振られても。滅相もない、契約という言葉が絢の知っている様な意味なのであれば絢は何もやっていない。必死に首を横に振る。


「ってことは強制契約か」


「強制契約?」


 また知らない言葉が出てきた、意味は何となく分かるけど。


「主に神域に許可なく入った人間に対して行われる契約だ。お前、そこに近づいたのか?」


「神域なんてそんな、私何も知ら――」


 そこで絢は言葉を止めた。頭に何かが引っ掛かったのだ。


「神域なんてそんな大層なもんじゃない。多くは小さな洞窟みたいになっていて言われなくちゃ分からない様なものばかりだ。でも神域がある地域には伝承が伝えられている筈だ」


「それって」


「裏山の神社の奥にある洞窟に近寄らないこと。近寄ったら妖怪に魂を食べられてしまう」


 絢じゃない、圭でもない。今の言葉はこの狐の化け物のものだった。もう何度聞いたか分からない言葉。


「お前まさか?」


 恐る恐る圭の声が聞こえる。絢はまともに圭の顔を見ることが出来ず、顔をそむける。


 責めているわけではない圭の言葉が絢には痛かった。


 絢は思い出した、この化け狐の声、それに気配には覚えがある。洞窟を去る時に感じたものに他ならなかった。


 体が震え始めた。次にこの言葉を言ったら自分がどうなるかおよその見当がついていたからだ。


「……はい」


 ゆっくりと頷いた。圭からの返事は無かった、圭にも予想外だったんだろう。


 契約という言葉が出てから圭は少し焦っているように見えた。


「無駄だ、契約は絶対。逆らうことなどできない」


 やっぱりそうなのか、その契約というのが圭にもどうすることもできないということなんだ。


 まさか絢がその契約を結んでいるとは思っていなかったんだ。


「契約成立だな。これより執行に入る」

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