第二十一話
という風に、結局絢が根負けして話は終了した。そしてその後、練習と称して家まで送ってもらったわけだ。
「お、やっと来たか」
圭は絢に気付き、持っていた缶をゴミ箱に捨てた。
「んじゃ行くか」
ここから絢の家まで約二十分の道のり、絢は圭と一緒に歩く。誰がどう見たって付き合っている風に見える。分かってはいたが、まだその事実を受け入れていない自分がいる。
「あのさー」
何故か圭の声がずいぶん遠くから聞えた。それもそのはず、圭は既に二十メートルは先に進んでいた。
「お前が歩かないと話にならないんだが!」
距離からして大声を出さなければならないのは仕方がないのだが、頼むからやめてほしかった。絢は小走りに圭の後を追った。
気まずい、と言う表現が正しいのか分からない。ただ分かることは圭と話す話題が今絢の中で思いつかないということだ。ちらちらと横目で見ているが、圭は真っ直ぐに前を向いて淡々と歩いている。
二人で一緒に下校しているのに何も話す話題がない、この息苦しさを感じるのも久しぶりだ。お互い共通している趣味とかが特にあるはずもなく(知り合ったのは昨日だし)、かといって絢自身今の流行には疎い。話されたとしても相槌を打つしかなくなる。
でも、それでも話が始まれば話題が出るので助かるのだが、圭は一向に話す素振りを見せない。果たしてこの人は今何を考えているのだろうか。
「今日の晩飯何にすっかなあ」
危なかった、もう少しで悲鳴を上げるところだった。全然話さないと思ったらどうしてこのタイミングで口を開くのか。
「昨日のとか、朝の残りとかないんですか?」
絢は昨夜の豪華すぎる料理を思い出す。とても一日で食べきれる量ではなかったはず。
「いや、あれはもうなくなった」
「え!? あの量を?」
質量的に無理がある。
「あの後知り合いが家に来て全部食って行ったんだ。全く、只飯喰らいもいいところだ」
圭は迷惑そうにため息をついた。確かに災難だと思う。あの時間に知り合い、それもあの量を平らげたということは元々食事をするつもりで来たのだろう。
「ほんと作っといてよかった」
「あの量を作りすぎじゃないんですか?」
あれはどう見ても一人で食べる量ではなかった。コースで考えても軽く五人前はある。
「あんたと俺、あとは何かあった時のために」
「何かって?」
「突然の来客用」
「突然って、そんなに頻繁に人が来るんですか?」
来客用に料理を余分に作るなんて聞いたことがない。そもそも来客が運よくご飯を食べていない時にしか出せないので、既に済ませていたら用意も何もあったものではない。
「うん、まぁそうだな」
圭はそこで言葉を濁した。曖昧な返事だったので受け流されてしまったがきっと言いたくないことだのだと思った。流石にそれをつつく様な真似はしたくなく、「そうなんだ」と言ってから絢は話題を変えることにした。
今の会話で話す話題が出てきたのだ。
「そういえば妹さんと住んでいるの?」
「あぁ」
圭の返事なのだが、つじつまが合わないことが合った。
「でも昨日いなかったですよね?」
「今は家の事で実家に帰ってる」
家の関係と言われてはそれ以上話を発展出来ない。
「何年生?」
「一つ下の中三。附属だけど、どうせ問題なく高校に上がってくるだろう」
栄凌高校は付属からの進級組と入学試験をパスした入学組に分かれている。私立だからこその付属中であるが、何もせずに進級できるわけではない。進級組には進級組の試験を通る必要があるのだ。噂でしか聞いたことは無いが、かなりの難関らしい。
つまり栄凌高校は入学組はスポーツをメインに、進級組は学業をメインにしている。当然クラスも分かれており、八つあるクラスの奇数は入学組、偶数は進級組となっている。二年までそれが続き、三年でようやく混ざることになるのだが、それはまだ遠い話だった。
「それじゃ頭が良いんだね」
進級の試験を問題無く通る位だ、絢とは比べものにならない。
「どうだろうな。俺ですらあいつの考えていることはよく分からん。そもそもあいつは一般常識を知らないところがある」
「例えば?」
「この前は従兄弟が何なのか知らなかった」
従兄弟と言えば平たく言えば自分を基準に考えて、親の兄弟の子供である。
「それを指摘したら一週間もふてくされて大変だったんだ」
「ははは。きっと恥ずかしかったんですよ。可愛いじゃないですか」
思わず笑ってしまった。会ったことは無いがとても親しくなれそうな感じがした。
「兄弟はいないのか?」
「小学生の弟がいるんですが、やんちゃの盛りで。遊び始めたら大変なんですよ」
それから絢たちは兄弟の話で盛り上がった。最近反抗期の妹にどう対応するのか、駄々をこねる弟をどうやってなだめるかなど、お互い性別が違う兄弟を持つ身だったので、様々な意見を言い合った。
他にも陸上部に所属していることや勉強のことなど。まさかここまで話が盛り上がるとは思っていなかった絢は驚きつつもこの時間を心の底から楽しいと感じることが出来た。




