第十七話
「うわぁ」
この声は先程からの感嘆の声ではない、明らかに不快な感情から出た言葉だ。彼が妹の服といった本当にそうなのか怪しい服装を身に纏い、私はリビングに着た。
確かに女性用の服でありサイズもちょうどであった。オレンジのパーカーと黒のホットパンツというかなりラフな格好だ。
妹さんの服があるのは不思議に思ったが、胸の周りが年下の子とほぼ同じと言うショックが上回った。
「見て分からないのか、晩飯だ」
話が戻る、私がリビングに入った時のことだ。何に問題があるのかさっぱり分からないと言った様に彼は目の前の料理に手をつけていた。
「あぁ先に食ってたのが悪かったのか、悪いな」
何も勝手にご飯を食べていたことに腹など立ててはいない。繰り返す、断じて立ててはいない。
お腹が鳴ったが気にはしない。
私が言いたいのはその料理の豪華さと量についてだ。どこのパーティー会場だ、と言う突っ込みが成立してしまう量が目の前に広げられている。
種類も豊富で、特に決まったコンセプトなどは無く、様々な国の料理がテーブルの上に乗っていた。
そしてご丁寧に彼の反対側にあたかも私が座るであろうと予想される位置にしっかりと御箸が置いてあった。ちゃんと箸置きに乗って。
「どうした、食わないのか?」
真顔でそう質問されても。私は目の前の料理の量に目眩がするかと思った。
1人暮らしのスポーツをやっている女、しかも大会まじかにこのカロリー摂取は命取りになる。
更に私が専門にしている走高跳は自分の体重に左右される種目でもあり、そこのところはしっかりと管理しなければならない。
だからこそ、いくら好意と言われてもこのボリュームの料理は出来れば食べたくないのだ。
だがそれを相手に言うのも失礼にあたる。
どうすればいいのだろう。
「ん、あぁそうか。カロリーでも気にしてんのか?その心配は無用だ。ここのは全て低カロリー重視で作った。このボリュームで学食とほぼ変わらない高さだ」
得意げに話す彼は何か誇らしげだった。あれ?ちょっと待って、今気になる発言が。
「え?作った?誰が?」
「俺が」
「頭大丈夫ですか?」
「そう言うなら絶対食うなよ」
「わかりました、分かりましたから落ち着いてください」
なんでこの人は直ぐチョップの構えを取るかな。最早彼の右手が凶器に見えてきた。更に手刀なので予備動作が必要無いのが怖い。
いつ飛んでくるかわかったものではない。私は恐る恐る席に着いた。
改めて目の前に広がる料理を見る。これほどの量だ、いくら私の風呂が長かったからと言ってその時間で作れるわけがない。
何品かは残りのものであろうが、それでもこの量の料理を作るのは骨が折れると思った。
やれと言われても出来る気がしない。これをこの人が作ったのかと思うと敗北感が襲ってきた。
今話題のモテ男の条件、「台所に立つ」が完全に満たされている。
「いただき……ます……」
私は両手を合わせて戸惑いながらも挨拶をする。作ってもらったものだ、1人暮らしをしてから作ってもらうことに感謝することを学んでいる。
「早く食え、そうじゃないと全て処分することになっちまう」
食事のことを処分と言うのはおかしいと思ったが、彼の食べっぷりを見ているとそう思えなくもない。
機械的にどんどん口に運んでいく。このままでは本当に私の食べる分が無くなってしまう。
これほどの料理を前に白米だけの夕飯など許されるわけがない。私は箸を取り、目の前の料理に手を伸ばした。




