第十三話
俯いている絢の旋毛あたりに何かが当たった。
「なん……ですか」
3回目のチョップ、今度は優しく触れる様な感触だった。
だがそれが絢には痛かった。肉体的ではない、精神的に辛かった。
「まぁ別に俺はあんたの言葉を疑っているわけじゃないってことを言っておく」
「嘘です……あなたは私の事信じていません」
「信じているとは言ってない。疑ってないだけだ」
「言い方を変えただけです」
「おいおい、じゃあどう言えば納得すんだよ」
「分かりません」
「お前、自分が言ってる事分かってんのか?」
「分かりません」
「……」
理不尽な物言いだとは分かっている。
今ここでこの人に信じてもらったとしても何も変わらないことも知っている。でも引きたくなかった、安易に同情されてそれでお仕舞いなんてしたくなかった。
多分日頃からからかわれていることも理由にあっただろう。
何とか信じてもらいたい、今は頭にはその言葉しかなかった。
なんという仕方がない意地なのかと思う。でもどうすれば信じてもらえるかなんて分からなかった……。
しばしの沈黙が流れる。
「協力してやるよ」
ため息交じりの言葉が聞こえてきた。
「そのストーカーを捕まえるのに協力してやるよ。これでいいか?」
沙耶、また紀来圭の欄に加える事項が増えたみたい。
ため息をつくほど嫌ならば、この場から立ち去ってしまえば良いはずなのに紀来圭はそれをしない。
それ以上に信じる証拠としてストーカーを捕まえてくれるらしい。
自分もそうだが彼も相当の意地の張りようだ。
「何笑ってんだよ?」
「いえ、だって、いきなりそんな事言うものだからつい」
紀来圭の顔が一気に怒りの表情に変わる。
「お前が信じないせいだろうが!!あ~やる気なくした。やっぱやめだ。やっぱあんた、勝手に襲われてろ」
酷い、本当に酷い。
被害者に対して言っていい言葉ではない。確かに笑ったのは酷いかもしれないが、その言い方も酷い。
絢は対抗意識を持った。
すっと立ち上がり汚れた上着を脱いで、その場から去ろうとする紀来圭。
引き留めて何か声(挑発でも文句でもなんでもいい)をかけねば。




