第十二話
「ご、ごめんなさい」
今度会ったらお礼を言わなくちゃ。
絢の思考は直ぐ様そちらに向いてしまったのだ。
何とも面倒な性格なのだろうか。
沙耶の時でさえ思っていることをそのまま言葉に出してしまった。絢は自分を制御するということが出来ない。
そのうち沙耶に「妄走機関車」とでも言われそうで内心怖がっている。
「いきなり物凄い勢いでぶつかってきやがって。リアル猪かよ。走り込みならよそでやれよそで。他人の迷惑も考えられないうりぼうか」
「うりっ!!そんな訳ないじゃないですか。私は」
誰が猪だ、と思ったがそこまで言って絢は今まで自分が置かれていた状況を思い出した。
絢は自分が何で走っていたのか、人に助けを求めていたのではないのかという事を思い出した。
そして今、目の前には人がいる。
「た、た、た、助けて下さい。ストーカーに追われるんです!!」
身を乗り出して訴えた。
顔の距離が数十センチ、勢いでそうなったのだが物凄く恥ずかしい。
圭は目を見開いている、当然の反応だろう。
いきなりストーカーに追われている少女などに遭遇するなど一生のうちにあるかないかだ。
助けて欲しい、今朝形はどうであれ声を掛けてくれた人ならばある程度の信用は出来る。
沙耶の情報はこんなところで役に立っている。
「ひぎゃ!」
そんな絢に再び鉄槌が振り下ろされた。
予想外の対応に、絢はチョップをまともに食らってしまう。
しかも今度は左の側頭部に。
それがあなたの得意技ですか!
と言いたくなる。
「何するんですか!!」
まさかの2回の攻撃で額がジンジンする。
「良いから落ち着け。あんた、ストーカーに追われてるのか?」
「は、はい。と言うか今チョップする意味ありましたか?」
「細かい事を気にすんな」
物凄い重要だと思うんですが。
暴力ですよ暴力、チョップは立派な暴力です。被害者側からの意見を聞いてください。
「んで?あんたはそのストーカーから逃げていたと」
「はい」
「妄想……じゃないよな?」
「なんでそうなるんですか!!」
「誰もあんたの後ろにはいなかった」
「え?」
「言葉の通りだ。俺はあんたの正面から歩いてきたが、そっちにいたのはあんただけ。あんたの後ろには誰もいなかった」
嘘……。
後ろから追ってくる足音は確かに聞こえていた。
隠れながら追える速さではないし、相手も走って追ってきたはずだ。
「そんな……」
振り返った先には街頭に照らされた道路が見えるだけだった。
まるで真夜中の様な静寂を保っている。
今振り返ってもいないのは当然なのだが、その静寂が私の全てを否定しているようだった。
「まぁ俺が嘘言ってるかどうか疑うかは自由だ。勝手に疑え」
彼の声はもう耳に入ってこなかった。
体からは力が抜け、今にも糸が切れた人形のように倒れてしまいそうだった。
何に追われてたのか。
何故後ろには誰もいないのか。
どうして人が消えたりしたのか。
果たして、本当に誰かに追われていたのか?




