退魔士とシャーロックホームズ2
~昼休み~
正と詩織と昼御飯を食べていた俺だが、ちょいとした用事で二人より一足先に食べ終わり、図書室に来ていた。
私語厳禁の図書館なのでひっそりと入り、本棚に近づくこともなく奥の司書室に入る。
「邪魔するよ灯」
「そろそろ来る頃だと思っていたわ天久君」
司書室の机に座って本を読んでいたのが神明高校図書委員長、巣童 灯である。
最高学年で先輩だ。
「これでしょ」
灯は携帯を俺に渡した。
「さっすが灯、話が早くて助かるぜ」
灯が渡してきた携帯には、詩織が朝に見せてきた事件の記事だった。
「んで、どんな感じのラインナップだい?」
「残念ながら一つだけね、でもそのかわり信用度は高いわよーどうする?」
「答えは聞かずともだと思うがな?いくらだ?」
俺が言うと灯はニヤニヤしながら俺に顔に両手を添え、色気付いた声で囁く。
「キス一回でどう?」
甘い甘い囁きだが、俺は表情を揺らがせない。
汗一つ流さずに、灯の瞳から視線を外さない。
灯は学校きっての美人だ。
不確かだがファンクラブがあるとかないとか……
灯目当てで図書委員に立候補した人なら数多く知っているし、玉砕したのもよく知っている。
灯は子悪魔なのだ。
だから俺はこれが灯の遊びだと知っている。
「それじゃあお釣りが出ちまうから遠慮しとくよ」
「あら?私はそのお釣りにさらに期待しているんだけど?」
「冗談はよしてくれ、また適当に謝礼は出すから情報をくれ」
「しょうがないわね、天久君だから特別に教えてあげるわ」
子悪魔な笑顔を浮かべた灯は特有の間を開けてから口を開いたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
放課後、クラブ活動が盛んな神明高校は放課後になれば多くの生徒が部活動に勤しむ。
もちろんそれは俺も一緒で生徒会室に足を運ぶ。
「こんちゃーっす」
生徒会室に入ると、椅子に座りながら寝ていた女の子が目を覚ました。
「うーん……あ、おはよう真ちゃん……」
まだ起きたばかりか、目を擦りながら挨拶をかわした小動物のような女の子は、風紀委員長の笹枝 愛
小学校からの長い付き合いである。
「起こして悪かったな、疲れてるのか?」
リュックを机の上に置いて愛の横に座る。
「昨日から風紀活動の企画書を徹夜で仕上げててさ、あまり寝てないんだ」
そう言ってあくびをする愛は、まだまだ眠いようでうとうとした感じでいる。
その様子を見るだけで愛がかなり疲れていることが伺え、俺はブレザーを脱いで椅子に掛けた。
「そうか、それはご苦労様だな、ご褒美にマッサージしてやるよ」
立ち上がり、愛の後ろに立つと肩を優しく揉み始める。
「あぁ~真ちゃん、良い感じだよ~」
適度な力量なのか、俺のマッサージに愛はとろけるような声を出す。
肩だけではなく、首もとや頭など色んな箇所をマッサージしていると、部屋の扉が開いた。
「あら、お邪魔だったかしら?」
マッサージをしているとこを見た灯が眉間にシワを寄せながら言う。
「おお灯、気にするこたぁねぇよ」
ぐぐっとまた力を入れる。
「んん~~あっ……真ちゃん……気持ち良い///」
いきなり甘い声を出し、上目遣いで見つめてくる愛にかなりドキドキしてしまう俺は、顔を赤らめて愛をみる。
まるでこの世界(教室)が二人だけの……
「ウオッホン!」
世界をぶち壊すようなわざとらしい咳払いをした灯。
「愛さん、あなたは風紀委員長なのよ、そのような人がそのような声を出してもらっては困りますね」
さっきより眉間にシワを寄せた灯は愛を注意する。
「私はただ真ちゃんにマッサージしてもらってるだけだよ、灯さんは何を想像してるのかな?」
笑顔を浮かべる愛だが、心の底から笑ってないのは長い付き合いからか見るだけでわかる。
両者の間にバッチバチの火花が弾け合い。
一刻も早くこの場から逃げたしたいのだが、まず二人は逃がしてくれないだろうし、二人っきりにしては何が起こるかわかったものではない。
(誰か助けてくれ……)
そう強く心の中で強く願った時
「何をしてるんだよ二人とも?」
願いが通じたのか、救世主が扉を開けて現れた。
「おっ!」
「「柚子さん!」」
柚子と呼ばれたボーイッシュな髪型をした女の子は野中 柚子で、この神明高校三年の生徒会長である。
容姿端麗、才色兼備で誰にでも優しく明るい性格で達振る舞う姿から、神明高校のナイチンゲールという異名を持つ人である。
もちろん会長選挙に立候補した瞬間、対抗馬などいるはずもなく、抜群の支持率で会長の座を物にした。
この生徒会執行部でもとても信頼されていて、主なことを取り決める時や意見をまとめる役が異常に上手い。
だからこそ野中 柚子はこの場などにおいて絶大な力を発揮するのである。
まさに救世主なのだ。
「いつも言ってるでしょ、生徒会同士のケンカはダメだって」
「でも柚子……」
「でももへったくれもない!」
不満をぶつけようとした灯りを静止し、俺の方を向く。
「どうせそこの唐変木小僧が原因だろ」
「俺は小僧じゃないですよ」
「原因は否定しないんだな」
「うっ……俺が愛にマッサージをしたら……それで……」
「なるほどそれが原因ね………よし!」
ポンと何か閃いたような仕草をする柚子、だが何か閃いた仕草をする柚子は大抵めんどくさい。
「天久!巣童の言うことを一回聞く!いいわね」
「よくねぇ!」
「そうだよ柚子さん、なんで真ちゃんがマッサージしただけで灯さんの言うこと聞くんですか?」
「おい、天久……やれ…」
柚子の特技であるドスの効いた顔に俺と愛は反論することなく黙り込んでしまう。
だだ喜んでいたのは、何故持っているのだと突っ込みたくなる旅行雑誌を開いている灯だった。
「この問題は終わり、次の問題にいきたいんだけど……愛、ちょっとあんたは風紀委員の巡回をしてきなさい天久を連れてね」
「え!?真ちゃん連れていっていいんですか!いつもはダメとか言うのに」
「今日は特別だ、ちょいと巣童に話があるからね、それと天久、これを受けとれ」
小さく折った紙切れを柚子から受け取り、ポケットにねじ込み、柚子にありがとうと言った。
待ちきれなさそうな愛は俺の腕を引っ張って生徒会執行部を後にし、いつもなら30分で終わる巡回を一時間半という時間を俺を付き合わした。
まあ愛がご機嫌だからよかったんとしよう。