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第2話の5

俺の頭がスリープモードから復帰し、正常に機能し始めたのはそれから数分経っての事だ。頭が冷静さを取り戻していくにつれてだんだんと自分が実はとんでもない体験をしてしまったのではないか、という気がしてくる。

少女が放ったまま壁(表面コーティング済み)に突き刺さっていたナイフを抜いて確認してみた。……はい、完全に本物ですね。あの少女どうやらガッチガチだったらしい。きっと本当にあのまま余計なことを話そうものなら、俺も壁同様に素敵な銀色の装飾品で飾られていたことだろう。

 くっそ……。すべては昨日の夜からのことだ。あの男、何がけしてマイナスにはなり得ないって? マイナスどころか命の危機にまで瀕するはめになったんだが。

 そんな文句の一つや二つ今すぐにでもぶつけてやりたいのだが、少女もいなくなった今、すべてが夢だったと言われても本当に信じてしまえそうだ。きっとそれだけ今までの一連の出来事が非現実的だったということなのかもしれない。しかし、残されたあの男の書置きが、それが夢などではないことを告げている。

 それにしても……


「あの男、一体俺にどうさせたかったんだ……?」


 そうつぶやかずにはいられない。あの男、あの少女がおとなしく俺のもとに留まることを望むとでも考えていたのだろうか。……いやいや、それはないだろう。あの少女の様子からも感じられたようにずいぶんと二人は親しい仲だったようだし。その辺の事くらいはわかることだろう。だとすれば…………いや、もうどうでもいいか。

 俺はそこで考えるのをやめた。そう、もうどうでもいいことなんだ。あの少女も今はもうここにいない。つまりあの男との関わりももはや断たれてしまったのだ。今更あれこれしようとしてもどうしようもない。……別にいいじゃないか、もともとあるはずのない出来事だったんだ。そんな風に無理やり自分を納得させた。

 これからまたきっと今までとなんら変わることのない平穏な毎日が始まっていく。それが一番いいことなんだ。もう忘れてしまおう。今日はせっかく大学も休みな訳だし、久しぶりにゆっくりと過ごせばいいさ。そうすればきっとさっきまでのこともすぐに忘れることだろう。そう思い、俺は腕を後頭部で組んでカーペットの上に寝っ転がった。…………まぁでも、


(名前くらい聞いておいてもよかったかもな……)


 ぼんやりと、天井の光のない蛍光パネルを見ながらそんなことを俺は考えた。


 ×   ×   ×


「…………ダー‼」


 時刻は午後四時を回ったくらいだろうか。俺はそんな叫び声とともに、テーブルに両手をついてイスから立ち上がり、パソコンの前から離れた。勘違いしないでもらいたいので一応弁解しておくが、別に気でもふれた訳ではない。……まぁそれに近い状態ではあるのかもしれないが。俺はそのままハンガーからジャケットだけを引っ掴むと、携帯も持たずにマンションを飛び出した。

 結論から言ってしまうと、今朝のあの出来事から三分の一日程も経ったころになっても俺はあの少女の事を忘れることができなかった。仕留められそうにさえなったというのに。上手く表現はできないのだが、全身の細胞がこのまま何もしないでただ停滞していることを全力で拒否している、そんな感じなのだ。


 (くそう。俺は一体どうしちまったんだ……? まさか本当にロリコンに目覚めてしまったとでもいうのか……? そればっかしは笑えない冗談だな……)


 必死に走りながら俺はそんなことを考えていた。……まぁ今はそんなことはどうでもいい。俺の目指す先は言うまでもなくあの少女。これだけ時間が経ってしまってはもはや見つけるのなんてほぼ絶望的といっても過言ではないだろうが、そんなことも些細な問題に過ぎない。

……どんなに困難であっても、あの少女を見つけられさえすれば、今はそれだけでいい。


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