第2話の3
一応念のために振り返って後ろを確認するが、当然ながら誰もいない。……とすると、この少女の眼差しの先にいるのは……やっぱり俺か。
まあ納得いかないがな。
もしかしてもしかしてこの少女は俺のことをおじさんなどと呼んだか? まだ二十歳にも満たない若人つかまえてなんちゅう言いぐさだろうか。
こいつの言うおじさんと俺を勘違いしているのだろうか。それともこんなチビッコからしたら、俺くらいでももう立派な中年男という認識になってしまうのか?……どちらも遠慮願いたい。
「……あ~そのだな、おじさんとは誰のことだ?」
そう尋ねるとまぁ案の定少女は、何言ってんだこいつはとでもいいたげなキョトンとした顔でこう答えた。
「……? おじさんはおじさんでしょ?」
「…………」
オーケイオーケイ。まぁ今はそんなことは些細な問題に過ぎないのだ。とりあえず話を進めよう。
「まぁいいか。で、だ。お前は一体どうして俺の部屋にいるんだ? 誰かに連れて来られたのか?」
「……何を言っているの? ずっと一緒にいたよ?」
「…………」
恐ろしいことをサラッと言いやがった。
ああダメだ。わからなければ本人に直接聞いてみればいいのではないかと思ったが、余計に混乱してきた。
「おじさーん。どうしてむずかしい顔してるのー?」
こっちの気も知らずに能天気な子だな。つーかそのおじさんっての止めれ。まだ名前も知らないその子は、もうすっかり目も覚めてしまったのか、退屈そうに部屋をウロウロし始めた。
……はぁ。どうしたらいいんだろう。そう途方に暮れかけた時、不意にあるものが目に留まった。
カーペットの少女が寝っ転がっていた辺りに、何やら封筒と思われる薄茶色の物体が落ちていた。……もちろん俺の部屋にかつてあったという記憶はない。……とするとやはりこの少女に何か関係しているものだろうか。
まぁなんにせよ、今の俺にはもはや頼るものはそれしかないのだ。確認しない手はないだろう。そう思い俺はそれを拾い上げた。
「どれどれ……」
それは思った通り封筒であり、寝ていた少女の下敷きになっていたのか、多少シワになっていた。簡素に折り曲げられただけの口を開けば、中にはこれまたこじんまりとしたメモ紙のようなものが一枚入れられているだけだった。それには何やら文章が走り書きされていた。以下その内容。
『突然のことですまないとは思う。その子はとある事情により私が預かっていた子だ。その子に身寄りはいない。ところが、私は今後しばらくその子のそばにはいれなくなってしまったのだ。頼れるのは君しかいない。大丈夫、賢い子だ。君にとってマイナスにはなり得ない。……頼む。』
…………。そこで文章は終わっていた。と、とりあえず読んだ上でもまだまだ疑問はいくつもあるのだが、ここで感想を一つ述べさせていただきたい。
「あの男は真性のアホだな……」
俺はそうつぶやかずにはいられなかった。
一体どんなのっぴきならない事情があったのかは知らないが、道端でいきなり人を気絶させた挙句、部屋に不法侵入して俺を運び、おまけに子供まで置いて行きやがった。しかも初対面の相手に対して君しかいない、なんてぬかしているのだから手におえない。
あの男に対する耐え難い苦悶は当分消えそうになかったのだが、ひとまずそれは置いといて、まずは別にしなければならないことがある。
俺は少女の方に目を向けた。