第2話の2
「……自首しますか……」
そうつぶやき、再び少女の方に目を向けたときに、俺はようやくそれに気が付いた。
ジー。
二つの丸く、髪同様にほのかに黄色がかった瞳がこちらを見据えていた。
……ああ、起きていらっしゃったんですね……。
気づかなかったのは今目覚めたばかりだからであろうか。まだ眠たさの残る表情を見ていると、なんとも言えないいたたまれなさに苛まれる。
叫ばれたりしたらどうしようと、ビクついて動けないでいる俺をよそに、少女が不意に口を開いた。
「おじさん……どこ……?」
少女は不安げにそうつぶやくとキョロキョロと辺りを見回す。
その時になってようやく俺は事のてん末を思い出した。
深夜の帰り道。突然であった見知らぬ男。謎の閃光。
忘れていた記憶が急速に再構築され、俺はようやくすべてを思い出した。
(あ、あいつの仕業か……‼)
今度こそこれがファイナルアンサーで間違いないだろう。
昨夜までいつもと変わらぬ行程をなぞるだけにすぎなかった俺の毎日に書き足された予期せぬ変化。誰がどう考えたところで、原因は十中八九これだと答えるに決まっている。
だが腑に落ちない。
仮にそうであったとして、あの男は一体何者で何がしたかったのだろうか。この目の前の少女がおじさんとか言っているのは、まぁあの男で間違いないだろう。
(こんなしがない一学生のところに子供なんか残して一体どういうつもりだぁぁぁ‼)
……はぁ。思わず心の中で絶叫してしまった訳だが、まぁとりあえず落ち着こう。問題はひとまずこの現状だ。
目の前には依然として眠たそ~かつ不安げにオタオタと挙動不審な小さな生き物がいる。……気まずい空間の中、嫌~な汗が頬を伝うのを俺は感じた。
はてさてどうしたものか。できれば小一時間くらい一人で考える時間をもらいたいところではあるが、この状況でそんなことは言ってられない。
(……あ~とりあえず名前とか聞いてみるか?)
そう無難に考えて少女の方に歩み始めようとしたところで、再び少女と目があった。
「…………」
「………………」
いや、もうそういう沈黙はお腹いっぱいな訳で。
そう再び億劫になりかけたのだが、次の瞬間、少女の口からは、予想だにしなかった言葉が飛び出した。
「……おじさん‼」
……なん……ですと?