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神隠しの庭  作者: シルフェまたさぶろう
第三章 十村巡り
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その四


 仁太とセナの不毛な言い争いはシルムーのひと睨みで終結し、経緯の説明を求められた仁太は青の層でのことを掻い摘んで話した。特にセナ救出の一件に関しては大幅に省略しての解説となり、セナから色々と横槍が入ることを危惧していたが、先ほどのシルムーの眼光を受けてからの彼女は赤面して俯きっぱなしになっていたため、仁太はこれ幸いと話を削らせてもらうことにした。

 パステパスを経ち、ニッククまでの船旅の途中、仁太はそれとなくセナから情報を集めていた。その結果、彼女の記憶が一部失われていることが判明した。正確には、機海賊団に捕らえられた辺りからアルミラに介抱されて目を覚ますまでの記憶がないそうだ。

 不幸中の幸いともいうべき記憶障害だと、仁太は内心喜んでいた。セナの性格を考えるに、洗脳中の記憶は彼女にとって非常につらいものとなるはずだ。覚えていないのであれば、このままずっと思い出せないままの方が良いに決まっている。

 ゆえにシルムーに対する説明でも省略することにしたのだった。同時に、仁太自身の行動に関しても適当な嘘をでっちあげて誤魔化すことにした。ダムダから肉体強化術式を受けて装甲人間クラスと戦闘した、などとシルムーに話せば怒られると考えたからだ。

「なるほどねえ。運が良いんだか、悪いんだか……」

 仁太の説明を聞いたシルムーは、溜め息混じりの苦笑を浮かべた。そうした後、彼女はセナへと視線を向ける。

「何にせよ無事に帰ってきてくれて良かったよ。それもこれも、セナリアラ、あんたのおかげのようだね。ありがとう」

「そ、そんな……私は別に、お礼を言われるようなことは……」

 話を振られたセナは驚いたようで、顔をブンブンと横に振って否定した。礼の言葉に対する明確な拒絶の意思を、彼女は示した。

「私はただ──」

 ただ利用したかっただけ、とでも続いたのであろう。自分のために、仁太を勇者として迎え入れるようとして助けた。だからそれは、礼を言われるような行為ではなかった、と。

 しかし、

「別にいいのよ。あんたが何を考えて仁太を助けたのかなんて」

 そんなセナの言葉を遮って、シルムーが口を開く。片目を閉じた笑みを作り、人差し指をセナの口の前に突きつけながら。

「大事なのは結果だよ、セナリアラ。どんな目的があったにせよ、この子を助けてくれたという結果が残ったことには何の代わりもない。だから、あんたは礼を言われる資格がある。それでいいじゃない」

「そう……なんですか。だったら、えーと……どういたしまして?」

「そう!それでいいのよ」

「は、はい!」

 満足気にシルムーが頷き、セナはそれに笑顔で応えた。

 その直後、部屋の奥の扉が開かれ、一人の中年女性が顔を出した。

「おや、いつの間にやら新しいお客さんかい」

「……なんだい白々しい。盗み聞きしてないで入ってくりゃあ良かったのに」

 目を細めて悪態をつくシルムーに、その女性はすっとぼけた表情を見せた。

「さて、何のことやら。私は丁度今しがた荷物の支度が終わったってことを伝えに来ただけだよ」

「ふん。じゃあそういうことにしておくよ」

「荷物は空き地まで若いのに運ばせて置いたから。じゃ、また来月もよろしくね」

「はいよ。じゃあ行くよ、二人共」

 そう言って、シルムーが席を立ち、彼女はそのまま仁太たちが入ってきた入り口へ向かう。

 その背後で椅子がひとりでに戻された。仁太とセナもそれに続くと、セナの椅子だけが戻り、仁太の椅子は引かれたまま残った。

「……ああ、そうかい」

 舌打ちをしつつ、仁太は自分で椅子を戻すと、"それ"がいるであろうシルムーの肩の付近を睨みつけた。

 ワケを知らないセナは、そんな仁太を不思議そうに眺め、シルムーは気苦労を込めた溜め息を漏らし、三人は小屋をあとにした。


かなり短いですが、久々なのでとりあえず掲載。

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