ロックスの火
緑の層、クーゼ村。村長邸に自室で頭を抱えるホルドラントは、これから来るであろう来訪者の対処を考えるために年老いた脳細胞に鞭を入れていた。
ほどなくしてドアが勢い良く開け放たれ、鉄砲玉のような一人の少女が入ってきた。人の形をしていながら、しかしその体は無数の深い緑の鱗に覆われた、只の人間とは似て非なる者。彼女は、そしてホルドラントは、人と竜の特性を持つ人造獣人ドラグラだ。
「おはようパパ!」
愛娘ロックスは視線を父ホルドラントへと向ける。
目を輝かせた彼女はホルドラントの返答を待たずに次の言葉を放つ。
「十歳よ。私、十歳になったのよ」
その言葉はホルドラントの予想通りのものだった。予測可能、但し回避は不可能な状況が開始される。
最愛の娘ロックスが言わんとしていることはわかっていた。わかっているからこそ、この状況をどのような言い訳で切り抜けるべきかを考えなくてはならなかった。
逃げの一手を模索するこちらの考えに気づいたのだろう、ロックスは下から覗き込むような体勢で視界に割り込むと、いつになく可愛げのある声音で急かしに掛かる。
「ね~えパパ。じゅっ・さ・い!」
「ああ、そうだな」
わかっておるよ、とホルドラントは頷いてみせる。
「今日の夕食は奮発してやろう。エーテリアとの合同誕生パーティといこう。希望の料理はあるか?」
「パパ……、わかってて言ってるでしょ?」
「ああ。わかってるとも。ジルベ村から特別に良い肉を仕入れてやるからな」
「怒るよ?」
「……むぅ」
話題逸らしの努力も虚しく、娘の剣幕に押されたホルドラントは思わず怯んでしまう。愛娘の押しの強さは別居する妻譲りのものだ。
観念せざるを得ない現状を認め、ホルドラントはため息混じりに口を開く。
「魔術のことだな」
「それよ! 10歳になったら魔術を覚えることを許可する、パパが決めた決まりよね」
「うむ……それはそうだが……」
クーゼ村にも当然ながら決まり事が存在する。村民提案のもののほか、村長であるホルドラント自身が定めたものも少なくないが、中でも村長権限で無理やり制定し決まり事律の一つが、ロックスの言う「10歳になるまで魔術の伝授を禁ず」というものだ。
これはロックスが生まれるのに合わせて作ったものだった。当然、理由がある。
「いいか、何度も言ってきたことだが、我々ドラグラは他のどの獣人よりも魔術の扱いに慎重でなくてはならない存在で──」
「はいはい。もう何度聞いたかもわからないわ、それ。私たちドラグラは一度に放出できる魔力量が他の獣人よりも圧倒的に多くて、ってやつでしょ」
「うむ、そのとおりだ」
魔術を成すエネルギー・魔力は、体内で"練る"ことで術式へと変換して効果を発揮する。変換の効率には限度があり、一般的な人間が保有する全魔力を一瞬で変換できるような術式はほとんど開発されていない。
一方で、その効率の制限が極端に緩いのがドラゴンの獣人であるドラグラだ。
例えば通常の魔術師が5メートル先まで飛ばせる衝撃波を放てる術式があったとすると、ドラグラならば相応の魔力を消費するものの数十メートル先まで飛ぶ強力な衝撃波を放つことができる。
問題は、この下限が困難だという点にある。
「ロックス、愛娘よ。お前のことが心配だからこそ言うのだとわかってくれ。制御を誤った術式は周囲に被害をもたらすだけでなく、魔力を使い果たした自身の身にも危険を及ぼすのだ。お前が無事育つことを願えばこそ──」
「ああもうっ!しーつーこーいー!」
ホルドラントの言葉を遮ってロックスが大声をあげる。
「いい? 物心ついた時からその話はずっと、ずっと、ずーっと聞かされてきたのよ? 忘れたくても忘れられないほど聞いたわ。暗唱だってできるんだから」
言って、ロックスが上目遣いにじろりと睨んでくる。膨れた頬を見ていると、このまま口から火を吹くのではないかと思えてくる。
(親の心子知らずか…)
などと心のなかで涙を流しながら、ホルドラントは娘の眼光から目を逸らす。
ロックスには小さい頃からドラグラが魔術を使うことの危険性を少々脚色しつつ言って聞かせていた。
魔力を使い果たして死んだ者、恋人を死なせてしまった者、大事な家屋を破壊して破産した者などなど。いずれもホルドラントの記憶に刻まれた悲しい事件の数々だ。
もっとも、そんな悲劇たちも、言葉で聞かせただけでは幼い少女には事の重大さは伝わらなかったようで、
──忠告ありがとう。とても参考になったわ。ええ本当よ。その話を聞いた以上、私は同じ失敗を犯さないように気をつけることができるもの。
という具合にこちらの話を逆手に取ることまでしてきた。
そういったわけでホルドラントにはもう打つ手が残っていなかった。思いつく限りのどの手段を行使しても、ロックスが止まるとは思えない。
(これ以上の説得は無理、か……)
今が引き際だと、ホルドラントは理解していた。これ以上の説得は、ロックスの不満を爆発させる起爆剤にしかならず、その結果どのような事態になるかは想像に難くない。
ロックスはワガママな少女であったが、他者に直接危害を与えるような行為を良しとする粗暴な思考は持ち合わせていない。自身の訴えが通らないからと言って、彼女は力に訴えたりはしないのだ。…とホルドランとは信じている。
そのためロックスに出来る交渉手段はほぼないに等しい。こうした状況から活路を見出すような賢さは、残念ながら彼女には備わっていない。彼女の幼馴染・エーテリアは幼くして村一番の悪知恵の持ち主として有名だが、その知恵に頼ることをロックスは嫌がるだろう。
そういった事情から、ロックスが取り得る手段は家出に絞られてくるとホルドラントは予想していた。ホルドラントの権限の及ばない場所で魔術の教えを乞うのが最善の手段だと彼女は判断するに違いない。
が、これはホルドラントが最も恐れる事態であった。行き先は十村同盟の外に限られる。完全な安全地帯など存在しない神隠しの庭といえども、緑の層、特に十村同盟ほど安全な場所はない。その外へ年端も行かない娘が出て行くことはなんとしても防がなくてはいけなかった。
(ならば私にできる最善の回答はこれだ)
ホルドラントが肩をすくめて観念した様子を見せると、ロックスはパッと顔を明るくした。
「わかった、わかったよロックス。私の負けだ」
「パパ!わかってくれたのね!じゃあ……」
「うむ。魔術を学ぶことを認めよう」
期待に満ちた愛娘の表情に、少しばかり心が痛むのを感じながらも、ホルドラントはその一言を告げた。
「ただし私は教えない」
「で、そのまま引き下がったの?」
「……そうよ」
「へえ」
ロックスの語る意外な結末にアルミラは少々驚いた。
(強情なこの子がこうもあっさり引き下がるとはねぇ……)
自宅で二度寝をしていたアルミラは、突如半泣きで押しかけてきたロックスを宥め、何があったのかと尋ねた。するとムスッとした様子で涙を堪えながら、ロックスはこれまでの経緯を説明してくれた。
魔術に年齢制限を設けたホルドラントの考えと魔術に憧れるロックスの気持ちの両方を知っている村の住民たちは、今日は一悶着あるだろうと誰もが覚悟していた。アルミラもその一人で、ロックスの語る内容は大方予想通りのものであったが、ロックスが負けるなどとは誰も予想できなかった事態であろう。
「あんたらしくないわねぇ。普段なら駄々をこね……もとい、交渉を続ける場面でしょ、そこ」
「そうでもないわ。私はパパに一本取られたのよ? 魔術は覚えていい、でも教えるとは言ってない……確かに約束通りだわ。こんな抜け道があるなんて……見抜けなかった私の負けよ」
「だから引き下がった、と」
ロックスなりのプライドの問題なのだろう。彼女にとってこれは紛れもなく敗北であり、父の知略に屈した以上は引き下がるしかない、ということらしい。苦し紛れの屁理屈がこれほどの効果を生むことに、アルミラは素直に感心した。
それと同時に、
(この子、変なところで潔いのね)
とも思う。屁理屈と言えども負けは負け、負けたならば引き下がる、というのはこの歳の子供にはなかなかできないことである。そんな男らしさすら感じさせる少女の姿を見ていると、アルミラとしては協力してやりたいという気持ちにもなる。
目の端にうっすらと雫を浮かべて強がる少女に、アルミラは胸を張って見せ、
「まあ、相手は大人だもの。負けることもあるわよ。で、私に何かして欲しいことがあって来たんでしょ? 言ってみなさい。お姉さんが力になってあげるから」
するとロックスの表情に少しばかりの明るさが戻り、彼女は期待に満ちた視線をアルミラへと向けてきた。
「本当?」
「ええ。可能な範囲で、だけどね」
「じゃあ、魔術を教えて!」
「ごめん、無理」
即答するとロックスは今にも泣き出しそうな顔に変わり、
「そんなぁ……」
と弱々しい声をあげる。そんな様子にアルミラは困り果ててしまう。
「そう言われてもねえ……。私、魔術師じゃないし」
「で、でも……魔法も魔術も、同じ術法文明だって聞いたもん。何か共通してることとか……ない?」
「同じ術式という呼び名こそついてるけど、魔術と魔法とじゃ仕組みが全然違うわ」
「じゃ……じゃあ、他の人から聞いたことでもいいの。ほら、アルミラってダムダと仲良──」
「それ以上言ったら燃やすわよ?」
アルミラが術式発動用の札を取り出して微笑んで見せるとロックスの口は半開きのまま動きを止めた。
冗談よ、とアルミラは札をしまう。魔法の特性上、目の前にいる対象のみを都合よく燃やすような小回りは効かないため、実際にやればアルミラ自身も巻き込んでしまう。よってこの脅しは現実的には不可能なのだが、幼いロックスは真に受けて怯えるため、アルミラはしばしばこの脅しをして遊んでいた。ちなみにロックスと同い年のエーテリアにはこれが全く通じない。
怖がっているのを必死に隠そうとするロックスの姿を楽しんだ後、アルミラは会話を再開する。
「大体、なんで私に魔術を訊くのよ? そういうのは魔術師やってる奴に頼めばいいじゃない」
「無駄よ。パパのことだから、村の魔術師には私に魔術を教えないように言ってあると思う。村長の頼みなら、皆も断らないでしょうし。だからパパが口止めしてないはずの、魔術師以外の人に聞くしかないの」
「まあ……確かに私は口止めされてないわね」
何だかんだ言ってもこのドラグラ親子は仲が良い。ホルドラントのほうが上手だが、ロックスもまた、父の考えそうなことをある程度予測できるのだ。今回のロックスの読みも恐らく当たっている。
となれば、ロックスが魔術を得られるか否かはアルミラたち非魔術師な住民に掛かっている。責任は重大だ。
ロックスは相変わらず健気な目でこちらを見つめてくる。竜どころか捨てられた小動物のような様子だ。それだけに視線が痛い。
その視線に堪えられなくなって顔を背けつつ、アルミラはしばしの間思案する。
(あんまり適当なこと言うのも可哀想だけど、かと言って何も言わないのも可哀想なのよね…)
思考が同情主導になっていることに気づくが、構いはしない。
ロックスに相手の同情を誘ってい利用するような狡猾さがないことは村の誰もが承知していることだった。ゆえにこうして同情の念を抱くことは別に彼女の術中にハマっているというわけではない。
これはアルミラ自身が勝手に抱いた同情。こういう時、アルミラは自身の感情に従うように心がけている。それが立場上不適なものであっても、助けたいと思えば助けるし、その逆もしかりだ。今回はロックスを助けることに心が傾いている。
ならば今回もそれに従うべきだ、とアルミラは決断を下す。…と自分に言い聞かせて思考を放棄した。
「……あまり過度の期待はしないようにね。話半分で聞いて」
「じゃ、じゃあ!」
あまり気乗りはしない、と仕草に出してみるが、ロックスは気にした様子もなく食いついてくる。この分かりやすさと切り替えの速さは嫌いじゃない。
「教えてくれるの!?」
「ええ。といっても、何度も言うけど私は魔法使い。専門家じゃないわ。だからあなたに術式を教えることは出来ない」
「え?」
「私が教えるのは術式を生み出す方法よ」
「自分で作れってこと? 私にできるの……?」
「それはあんた次第よ」
でもね、とアルミラは言葉を区切り、
「魔術文明って、術式さえ選ばなければほぼ誰でも魔術が使える世界だって聞くわ。世の中そんなに賢い人間ばかりじゃないのに、それでも皆が使えるってことはそれだけ簡単な術式も多くあるってことなんでしょうね」
「つまり簡単な術式なら私でも……?」
「作れるでしょうね」
「ほんと!? すごい!」
上機嫌になって声の音量を上げるロックスを、アルミラは必死に制した。
「ちょっと……! 騒ぐのは無しにしてよ? 村長に見つかったら私が怒られるんだから」
「えへへ、ごめん」
反省しているのかいないのか、ロックスは満面の笑顔を崩さない。
「それで、どうするの?」
「想像するのよ。まず、自分がどんな魔術を使いたいかを考える。次に、身体の中に流れてる魔力が形を変える様子を思い浮かべて、変質した魔力が世界にどんな変化を与えるかを鮮明に想像する。これが基本」
「想像……よくわかんない。想像するって、頭のなかで思い描くってことよね? それだけでいいの?」
「もちろん、想像しただけで上手くいくわけではないわ。これを繰り返すことで、自分の中の魔力の流れやその変換の仕方を発見して、やがて正解に行き着くことができる、という仕組みよ」
「なんか地味ぃ……思ってたのと違う」
笑顔から一転して、ロックスの表情は不満一色に変わる。彼女の表情の変化は実に忙しい。
ロックスの気持ちもわからないでもない。なにしろ彼女は魔術という便利な道具に憧れているだけで、優秀な魔術師になりたいわけではない。アルミラの教えた術式を生み出す方法などは遠回りでしかないのだから、難色を示すのも無理はないのだ。
ゆえにアルミラは苦笑する。
「魔術に限ったことじゃないわ。0から始める時って、大体こんな感じで試行錯誤するものよ」
「むー……」
「それに魔力のコントロールも自然と身につくはずよ。ドラグラが抱えてる過剰な魔力放出という問題も防ぎやすくなるのは間違いないわね」
「……わかったわ」
ロックスはため息をつく。表情から不満そうな雰囲気は消え、意を決したようにアルミラへと向き直る。
「ありがとアルミラ。面倒だけど、収穫が多いならやってみる価値はあるわね」
「どういたしまして。あ、私が教えたってことはくれぐれも内緒にね」
「わかってる。普段魔術のこと悪く言ってるのに、やけに詳しいから驚いたわ。こんなこと皆に知られたら、色々邪推されちゃうも──」
「次言ったら体の半分だけ別の次元に飛ばすわよ」
「ヒッ!? じょ、冗談よ! しまってよ、シャレにならないわそれ!」
袖の中に仕込んだ"紙"を取り出すアルミラを見て、ロックスは血相を変えた。
アルミラにからかわれているとも知らず、ロックスは「えっと、あー……そ、そうだわ!」などと必死で話題をそらそうとする。
「最初に生み出す術式について、もう少し詳しく教えて欲しいの。いきなり難しいことをやって挫折するのは嫌だもの、まずは手軽なところからいきたいんだけど……」
「それもそうだけど、あんたとしてはどんな術式が使いたいの?」
「え、私? ……考えたことなかったわ。ずっと禁止されてたから、ただ魔術が使いたいってことしか考えたことなかったの」
「そんなことだろうと思った」
呆れ顔のアルミラに、ロックスは気まずそうに視線を逸らした。
「何がしたいかは後々考えるわ。とにかく、簡単なところからやってみる」
「簡単って言ったら、やっぱ単純な変換かしらね。水を出すとか、風を生むとか。肉体強化と違って、変換が単純なのよ」
「ふむふむ。何に変換するのがいいのかな」
「基本は想像することだから、自分の想像しやすいものに絞るのがいいでしょうね。あんたなら火が妥当かしらね」
「火? どうして?」
「どうしてって、それはドラゴンと言えば火を──」
と、不意に扉を叩く音が聞こえた。
「アルミラ、いるかね? 私だ、頼みたい仕事があるのだが」
玄関のほうから聞こえるそれは、ホルドラントの声だった。
口振りから考えて、ロックスのことに気づいてはいない様子だ。いきなり扉を開けて入ってこられたら為す術はなかったが、この状況ならばロックスを逃がすことも難しくはない。
「もう、タイミング悪すぎよパパ」
「話すべきことは大方済んだから、むしろ良いタイミングよ」
「え、でも──」
これ以上ホルドラントを待たせるわけにもいかず、アルミラは片手でロックスの言葉を制する。そのまま裏口を指さしてやるとロックスはこちらの意図を理解したようで、少々不満そうながらも小さく会釈をしてから出て行った。
「はいはーい、今開けますよーっと」
裏口の閉まるのを確認して、アルミラは村長に返答した。
アルミラの家を後にして、ロックスが向かった先は村から少し離れた場所に位置する湖だった。ひと気がなく、仮に火が出たとしてもすぐに消化できるため、練習に最適な場所である。
道中、ロックスの頭のなかにはある疑問がぐるぐると回っていた。
("ドラゴンと言えば火を"……火を何なのよ!?)
あの時、ホルドラントの登場で聞けなかった言葉の続きが気になって仕方がない。
神隠しの庭で生を受け、クーゼ村で育ったロックスには、ドラグラの元となったドラゴンという生物の知識がなかった。それゆえに、アルミラの言葉の続きは皆目検討がつかない。
(ドラゴンは火を生むみたいだけど……一体どこから出るのかしらね)
考えてみるが、答えは出ない。ほとぼりが冷めた頃にそれとなくホルドラントに尋ねるのが良いのかもしれないが、できることなら今すぐに知りたい。
そんなことを考えてる内に湖目前のところまで来たところで突然、何かが見ずに落ちた音がした。
「?」
魚が跳ねたにして音が大きすぎる。不思議に思ったロックスが急ぎ足で岸辺に向かうと、そこにはずぶ濡れで咳き込むザッタンがいた。服装は普段の彼のものとは異なる、不可思議な黒い衣装で、今はとっているが頭も布で覆っていたようだ。
「ザッタン? 何やってるの、そんな格好して」
「げほっ…ぐふっ……やあ、ロックス。見ての通りさ」
「見てもさっぱりなんだけど……」
「ははは、それもそうか。いやね、ちょっとばかし練習していたんだ。水の上を歩く、ね」
「水の上を? ザッタンって魔力ないんじゃなかったの?」
「ないよ」
だけど、とザッタンは自身の衣装を指さして、
「魔術ではないんだ。ニン・ポーというやつさ」
「にんぽー……前にもそんなこと言ってたわね」
「うん。ただ、結果はこのザマでね……いやはや、恥ずかしくって顔から火が出そうだ」
「顔……火って、顔から出るの?」
驚き、尋ねるロックスに、ザッタンは不思議そうな顔をして答えた。
「もちろん、そうだけど?」
「あらロックス。どう、できた?」
「ばっちりよ。アルミラのおかげね。あと、ザッタンの」
「ザッタンが? まあいいわ。ちょっと見せてみなさいよ」
「ええ、いいわ。ほら」
「……ッ!?」
「ねっ、ねっ! どう、これ? ……って、アルミラ? どうしたのよ急に、口元なんて抑えて」
「な、なんでもない……」
「顔、赤いよ?」
「なんでも、ない、って……ごめん、ちょっと私用事思い出したから!」
「そんな、なんか肩、震えて……あっ、なんで逃げるの!? ねえ、待ってよアルミラ!」
ついに隔月更新と化してしまった…