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神隠しの庭  作者: シルフェまたさぶろう
第二章 予見者と勇者様
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その三十三



 パステパス湯屋前広場、ベンチに腰掛けた五人の男女が眺めていたのは遠く離れた島の風景。

 徳郎、ミア、三人の来訪者。来訪者の一人、魔法使いアルミラは、仁太がこの層にいると知るやいなや、一つの術式を発動させた。他人の視覚情報をコピーして指定した空間に幻影のように映しだす、視覚情報盗用術式とでも呼ぶべき術式。どこかのゲームで見たことのある能力だ、と徳郎は思ったが、この場にその話が通じる人間はいないので発言はしなかった。

 アルミラ曰く、人間が見聞きした情報というものは魔法によって呼び出し可能であるという。人間に限らず、正しい指定さえできていれば動物のものでも盗み見たり、盗聴できたりするらしい。魔術の精神操作と合わせれば、いわゆる使い魔も実現可能だが、今回は観察対象が遠く離れた地にいるためできない。

 視界を奪い取る相手を指定する必要があり、指定に必要な情報とやらを引き出すのが厄介らしく、見ず知らずの敵を利用するようなことはできないが、一度味方ないし仲間として過ごした期間のある人間から情報を入手しておくことで、今回のようなことが可能となる。魔法らしい、なんとも卑怯くさい性能の術式だ。

 そんなこんなで、徳郎は思いがけず仁太の行動を見守ることとなった。本人は気づかぬままの、仁太の行動鑑賞会。酷いプライバシーの侵害だったが、あいにくパステパスにはプライバシーを保護するルールはない。あったところで徳郎は気にしないし、アルミラもおそらく気にしない人物である。

 かくして、本人には無断の視界鑑賞会が開催されることとなった。ちなみに音声出力は術式の性質上、何かしらの音を発生させるモノを使わなければ発動できないらしく、今回はなしということになった。

 各々、仁太の行動に好き勝手なツッコミを入れながら、鑑賞会は続く。そして、その時が来た。

 敵に操られていると思わしきセナと仁太の一騎打ちに、仁太が勝利。そこへ襲いかかる、装甲人間。

 装甲人間は上位の機械人間であり、上位の実力を持つ魔術師と同等かそれ以上の戦闘力は有しているというのが通説だ。さらに、大半の機械人間は戦闘行為に慣れていないという事実もある。戦闘に不慣れな装甲人間の実力で、上位の魔術師と互角ということだ。

 見たところ、仁太の対峙している装甲人間は科学者のようで、歳も幼い。平均的な装甲人間よりも戦闘力は低いかもしれないが、それでも生身かつ特殊な力を持たない仁太には勝ち目のない相手だった。

 ──仁太は死ぬ。あるいは、セナ共々洗脳されるかもしれない。

 後悔という感情を抱くのは久しぶりのことだった。この世界に来て、開き直って、心の中から消したと思っていた感情。過去の自分の行いを悔やんでいても前には進めないと、意識して捨てたはずのそれを、徳郎は確かに感じていた。

 もっとも、そんなものはこの直後にどこかへと吹き飛ぶことになる。

 空中に映し出された仁太の危機に、最初に動いたのはアルミラだ。彼女は手から三枚の紙を取り出すと、それを組み合わせ、前方へと放り投げた。

 ただ重ねただけの三枚の紙は、不自然にくっついて離れず、しばしの間飛び続けた後、突如消滅した。正確に言えば、紙のあった場所を中心に、空間が変化した。

 半径1メートル程度の円形状にぶち抜かれたその空間は、別の空間とつながっていた。

 徳郎たちのすぐ目の前に仁太が、そして装甲人間がいる、遠く離れた島の牢獄が現れたのだ。

 それと同時にダムダもまた一つの作業を終えていた。淡く発光するアルミラの脚部は、それが魔術を施されていることを示している。

 次の瞬間、空間の境目越しに放たれた彼女のミドルキックが、装甲人間をいともたやすく吹き飛ばした。お世辞にも綺麗なフォームで放たれたわけでもなく、またアルミラの脚部は別段筋肉質というわけでもない。彼女の蹴りの威力は魔術による肉体強化のおかげだ。

 アルミラが次元の境目を超えると、ダムダもそれに続き、しばらくして境目は消滅した。移動する際にアルミラが魔方陣を形成する紙を回収したため、視覚情報盗用術式も終了。

 一瞬にして、いつも通りの風景が戻ってきた。

 ぽかんとして口を半開きのまま静止するミア。驚いた様子の全くない来訪者ザッタン。そして徳郎はと言うと、

「……すっげぇ! やっぱ俺の見立て通り、アルミラさんはすげえ!」

 一人、興奮のあまり大声を出していた。

 その様子に、ミアは我に返ったようで、呆れ顔で徳郎が騒ぎ立てる様を眺めた。

「決断力もさることながら、ワープから蹴りの奇襲までの手馴れた動作! まさしく一級戦闘魔法使い! 是が非でも弟子入りするっきゃねえ!」

「アンタはブレないわね……」

「ま、空間連結術式くらいは予想の範疇だったからな。なにせ熱湯生成術式なんていうしょーもないモン作るくらい余裕ある人だぜ? ワープくらいできるっしょ」

「屁理屈ですらないわよそれ。まったく……アルミラさんたちはアンタの尻拭いに行ってくれてるのよ」

「3割くらいは確かに俺のせいかもしれないが、残りは仁太の責任じゃんか。このちょ~っぴり無謀な計画に乗ったのはあいつ自身だし、まさか装甲人間が出てくるなんて誰に想像し得ただろうか、いやできない」

「10割アンタに決まってるでしょ、この馬鹿郎! ちょっとは責任感じて、反省しながら帰りを待ったらどうなの。いくら魔法使いと魔術師のコンビだからって、装甲人間に勝てるかどうかはわからないのよ?」

「いやー、多分あの二人なら大丈夫だよ」

 口を挟んだのはザッタンだ。かつて湯屋を提案したアメリカ人。徳郎と近しい世界から来た彼は、徳郎同様に何の力も持たない男だ。三人の来訪者のなかで彼だけ留守番なのもそのせいだ。

「で、でも、あんな狭い場所じゃ魔法もろくに使えないじゃない。実質、ダムダさんの魔術だけが武器の状況よ?」

「そうでもないんだよね。それに責任を感じる必要もないよ。あの二人が好きでやってることだから。まあ、のんびり待ってればいいさ」

 のほほんとした様子でザッタンが笑う。彼は心の底から微塵も心配などしていないようだ。それはアルミラたちへの信頼の証であり、そのことは徳郎もミアも理解できた。それでもなおミアは不服そうではあったが、これ以上の抗議はしなかった。

「ところで」

 ザッタンが徳郎のほうへと顔を向けてきた。

「君は行かなくてよかったの?」

「俺?」

 予想外の質問に、徳郎は思わず聞き返した。

「おかしなことを聞くんだな。この体型、どう考えても戦闘には向いてないだろ」

「まったまたー、そんな風に謙遜するのも奥ゆかしさってやつかな? 隠したって無駄さ。僕にはわかる。君は戦い慣れている!」

「……」

 この時、ミアが不満気にそっぽを向いていてくれたことは幸運だった。加えて、ザッタンも大仰な仕草で天を仰いでいることも、徳郎にとって好都合だった。

 およそ人に見せられない程、その顔は彼のキャラにそぐわぬモノだった。ゆえに、これを人に見られる前に押さえ込めたことは幸運だったという他無い。

 徳郎の表情になど気づかず、ザッタンは得意げに、そしてもったいぶる様に次の言葉を語らずにいた。その間に徳郎はなんとか真顔まで顔の筋肉を戻すことに成功したが、続くザッタンの言葉は、徳郎にその努力が徒労であると理解させるのに十分なものだった。

「君は日本人だ!」

「……はぁ?」

 必死の思いで作り上げた真顔も、知らず知らずのうちに感じていた緊張も、全てが吹き飛ぶ一言だった。

「見たところ、君はリキシ・ファイターというやつだね。短期決戦向きの重機動戦士で、近接での肉弾戦において比類なき力を発揮する、これぞまさしく肉の巨人!」

「やかましい!誰が肉の巨人だ!」

「アンタよ、アンタ」

 不服顔から一転、呆れ顔のミアがツッコミを入れる。

「大体、俺は相撲なんかやったこともねえし、興味もねえ! JKが主役の相撲アニメでも出ない限りはな!」

「となると……そうか、ジュウドウ・レス──」

「それも違う! 言っとくが空手家でもなければ侍でも忍者でもないからな!」

「なんだと。ということは……君は日本人じゃなかったの?」

「なんでそうなるんだよ!? お前、日本人なんだと思ってやがる!」

「国民総戦士。神の名のもとに、島国のため君主のため、その身を剣に変え盾に変え、絶えず戦火に身を投じる──」

「わかった、もういいやめろ」

 はぁ、と馬鹿でかいため息をつく徳郎。これほど大きなため息をつくのは何年ぶりだろう。

 その横ではミアが、今度は感心したように、

「あの徳郎をここまで追い詰められるネタがあるなんて……」

 とブツブツ呟いている。その呟きが耳に入らないよう、徳郎は精神を集中させたが無駄だった。

 反対側ではザッタンが、

「身体的特徴はどう見ても日本人のそれだから……そうか、意図的に情報を隠している可能性を忘れていた。さっき僕の言葉を遮ったのも自分がボロを出す前に会話を打ち切るのが得策だと考えたのだとすれば納得もいく。つまりあえて身分を隠す選択をしたというわけだね……これはいわゆる隠密活動の一環であると考えられるから……なるほど、見えてきたぞ、彼の正体は……」

 と勝手に一人の世界に入り込んで、こちらか介入する勇気も、必要性も感じられず、放置が最善手だと徳郎は考えた。

 今までアルミラたちが湯屋に術式の調整に来たときは、アルミラに弟子入りを頼んで断られたところを湯屋で働いているミアに捕らえられ、そのまま強制デートというのがお約束のパターンだったために、徳郎がザッタンと話す機会は今回が初めてだった。そして、できればこれが最後の機会であって欲しい。

(さっさと終わらせて帰ってきてくれ、アルミラさん……!)

 これまでにない居心地の悪い空気の中、徳郎はただひたすらに願い続けた。

前半に小休止、後半に仁太たちの場面の続きを書くつもりでしたが、思ったよりも前半部分で悩んだのでこれを単品で投稿することにします。

なるべくテンポ悪くならないように文章量を少なめにしたつもりなんですが、あんま短くないですね。

とりあえずアルミラがなぜここに?って説明を後回しにしたくなかったのでここで処理しました。


補足と称して後付じゃないよアピール。

以前のシーンでセナが「魔法使いは名乗らずに去っていった」「湯屋の発案者の名前は知らない」と答えてますが、このシーンの時点で徳郎は二人の名前を知ってます。

が、仁太と関係がある名前だなどとは思いもしないので黙ってるだけです。

こんな感じで取って付けたような設定を散りばめたつもりが、期間が空きすぎてどこに何を埋めたのかわからない状態になってきてるという。




以下蛇足のひとりごとです。

キャラの話口調って難しいですね。普段意識せずに本読んでましたが、いざ自分で書くとなると同じような口調のキャラが出てしまって困ります。

この作品を書く上で、今のところは、なるべくアニメや漫画にたまにある「現実的でなく、かつしつこすぎる口癖を使った書き分け」というのは極力避けるように努力しています。避けきれてない感はありますが。

別にそういう口癖が嫌いとか暗に批判しているとかではなく、この作品にはあわないと判断してのことです。


すると私は経験不足が祟って、いまいちキャラごとの書き分けができないのです。

例えばランジャとザッタンは、共に一人称「僕」で、口調も柔らかめのため口というキャラなのですが、これは私の中にある「温厚なキャラ」の喋り方で、ぶっちゃけかなり似たような言葉遣いになってしまってます。

他にも「俺」でタメ口系のキャラも、やっぱり被りがちになってます。

難しいですね、書き分けって。


って前にも書いたっけこれ。今後も定期的に同じようなこと書きますがひとりごとなのでスルーしてください…。

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