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神隠しの庭  作者: シルフェまたさぶろう
第二章 予見者と勇者様
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その八



「勇者様来島記念だ」

 とのことで徳郎が三人分の料金を支払い、それぞれ男湯と女湯へ分かれた。

 建物内部は特に和風を意識した様子もなく、だったら外見もああする必要はなかったのではないかと提案者の不徹底さに対し、仁太は提案者本人に届くことのないツッコミを心のなかで入れる。

 山道でも何人かとすれ違い、銭湯にもそこそこの利用者の姿見て取れる。山の上という立地にも関わらず、利用者は少なくないようだ。

 脱衣所の腰掛けで談笑している人間の男性二人組のほか、鳥型の獣人バディアや猫型の獣人キャトルの姿も見受けられる。

「そういやドーナんとこで新しく売り始めた食器買ったらしいな。安いらしいけど、使い心地はどんなもんだ?」

「なかなか良いもんだ。さすがドワフル、鉄の扱いなら慣れたもんだな。これでレッツェのところのぼったくり品を買う必要がなくなったってわけだ」

 服を脱ぎながら男たちの会話に興味本位で聞き耳を立ててみるが、他愛もなく世間話のようである。

 青の層にきて半日経過したが、勇者勇者とどこかズレた見た目少女の18歳と、突発的にテンションが上がる恥も外聞もかなぐり捨てたオタク男の二人としか話していなかったため、心の中で青の層の住民は変人が多いのではと疑っていた仁太だったが、普通の会話が聞けたことで少し安心した。

「よぉ、徳郎じゃねーか」

 と、仁太の横で「まだ混浴にしてないのかよ・・・」とブツブツ呟きながら服を脱ぐ徳郎に声を掛ける男が現れた。

 声をかけてきたのは白い羽と黄色いくちばしを持つバディアだ。割れた腹筋、太く硬そうな腕を持つ、いわゆるマッチョマンという体型をしている。身体から上がる湯気は、彼が風呂上りだということを示している。

 低く、渋めの声から察するに仁太よりもずっと年上だろう。

「おっ、親分じゃん、久しぶりー。いつ帰ってきたんだ?」

「さっき港に着いたところだ。ミアとタルラも来てるぜ」

「ほほっ、ミアたん来てるの!?」

 不気味な笑い声を上げてガッツポーズを取る徳郎の姿を見て若干顔を引きつらせている仁太に気づいた筋肉バディアは、しげしげと仁太を眺め、

「なあ徳郎、こっちの坊主は誰だ・・・ってダメか、聞いちゃいない」

 バディアはため息を付いた。

「こいつの連れか?」

「ええ、まあ」

「そうか。面倒くさい奴だろ、こいつ」

「はは・・・」

「俺はドウヴィー。ドウヴィー・ジルベンだ」

「楠木仁太です。青の層には今日来たばかりで、徳郎には世話になりました」

「お節介だからな、そいつ。ただ、男に優しくしたのは初めてだ。そっちの気に目覚めたか」

 不穏なことを言って横目で徳郎を見るドウヴィーは、「まあ、こいつに襲われても俺なら軽く跳ね除けられるがな」と一人で納得し、視線を仁太に戻した。

「こっちに来たばかりなら仕事もまだ決まってないんだろう?困ったらうちに来な。見た感じ、あまり身体は丈夫そうじゃないが・・・、それでもできる仕事はある。徳郎に気に入られた男ってのも、気になるし」

「お、俺にそっちの気はないですからね・・・!」

 身の危険を感じ、守りの態勢を取る仁太を、ドウヴィーは笑った。

「そうじゃねえって。徳郎は俺のダチだから、単純に興味があるってだけだ」

「ならいいんですけど・・・。そうだ、ドウヴィーさんの仕事って?親分って言われてましたけど」

「船乗りだ。人や物を運ぶのがメインだが、機海賊との戦闘のさいには武器も運んだりしてる。最近は戦闘がなくて本業ばかりだから、安心してくれ」

「親分ってことは、船長なんですね」

「まあな。あまり大きくはないが、苦労して買ったんだぜ。働くかどうかは別にして、今度見に来てくれよ。俺の数少ない自慢の種なんでね」

「名付けの親は導師なんだぜ」

 と、話に割り込んでくる声があった。見れば、黒いキャトルの少年が居た。こちらも風呂上りのようだ。

「おう。途中から姿が見えなかったが、どこ行ってたんだ」

「ちょっと野暮用がありましてね。で、そっちの兄ちゃんは?」

「こいつの連だそうだ」

「導師のお友達でしたか!こいつは失礼。おいらはタルラ・マータってんです」

「俺は楠木仁太。導師って、徳郎が?」

 仁太に尋ねられたタルラは誇らしげに胸を張って、誇るに価するとは思えない怪しい巨人を指した。

「この方こそ我らの指導者、愛すべき伝道師!導師の語るお言葉は盲目な我らに目を与え、生まれ来る感情を表現することのできる口を授けてくださるんです!」

「は、はあ・・・」

 怪しげな宗教の勧誘にも似た必要以上にわざとらしい振る舞いで徳郎を称えるタルラ。

 その声に我を取り戻したのだろう、「セナちゃんとミアたんが裸で・・・」と犯罪的な言葉を漏らしていた徳郎が急に立ち上がった。

「タルラァ!」

「はいっ、導師!」

 ビクッと肩を震わせ驚く仁太とは対照的に、タルラは一切動じた様子もなく、敬礼を返す。

「その様子では、俺の言いつけを守っていたようだな」

「はっ、導師より命じられた任務、きちんと遂行いたしました」

「よろしい。早速話を聞かせてもらおうではないか」

「了解いたしました」

「仁太、悪いがちょぉーっとだけ用事ができた。まあなんだ、俺みたいな五月蝿いのがいないほうがゆっくりできるだろうし、そういうことで、じゃっ」

 そう言うと、徳郎は素早く着衣するとタルラと共に脱衣所を出て行った。

 その様子をドウヴィーと仁太は覚めた目で眺めていた。

「覗くつもりだな」

「みたいですね」

「俺も混ぜてもらうわ」

「はい。・・・は?」

「じゃあな仁太!また会うこともあるだろう!」

 既にズボンを履き終えていたドウヴィーはかごの中の荷物をとると、さっさと脱衣所の外へと走っていった。

 一人になった仁太は残る衣服を脱ぎ始めた。騒々しい三人がいなくなったことで、先程から腰掛けにいる二人の会話が再び耳に入ってきた。

「ところで先日、ニッククへ旅行へ行った時にテラキル様の娘さんを見かけてな。確か三女だったかな」

「あのエルヴィン夫婦か。よく相方のエルヴィンを見つけたもんだ。その娘とあれば、相当可愛いんだろうな」

「おうよ。見た目は14,5の娘で、気品漂う娘だった。両親は随分お盛んらしいし、このまま青の層のエルヴィンが増えてくれれば万々歳だな」

「まったくだ。うちの息子もエルヴィンを嫁さんに貰ってくれれば・・・ふふふ」

「おいおい、顔がにやけてるぜ」

 下心丸出しの、下品な内容の会話を展開する中年二人。聞くに耐えない会話だ。

(やっぱこの島駄目かもしれない・・・)

 獣人、異世界といえどやはり人間は人間だということだ。とはいえ、少々オープンすぎる気もする。

 呆れ返りつつ、服を脱ぎ終えた仁太はさっさと浴場に向かうことにした。


各章二十回で統一するため、一回あたりの文量を増やそうと思ってましたが更新速度が落ちすぎたので諦めました。

そもそも読者の方がいるのかどうか不安でなりませんが、まあ更新は遅いより早いほうがいいでしょうからね

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