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神隠しの庭  作者: シルフェまたさぶろう
第二章 予見者と勇者様
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その五


 神話的生物の一種であるエルフは、人に近い形をしながらも、耳が長く、長命で美しい容姿という特徴を持っている。

 知力にも長けているとされ、早い話が人間の上位互換とも言うべき存在だ。プライドの高い性格という説もあるが、それもある意味では人間の上位種と言える。

 美しい容姿を持つ少女セナリアラ・イアラは、そのエルフをベースに生み出された獣人エルヴィンであるという。彼女の優れた外見もこのエルフの特性を受け継いだエルヴィン特有のものであり、幼く見える外見もエルフの長命という特性が反映された結果だそうだ。獣人の仕様上、受け継ぐ特性は必ずしも完全ではなく、長寿という性質は"常人の成長の3分の2の速度で老いる"という形でエルヴィンに備わった。

 つまり、18歳であるセナの外見年齢は12歳前後ということになり、実際そのとおりになっていた。

 以上が徳郎の説明であり、仁太と共にセナの食卓に呼ばれることになった彼は、セナ宅でくつろぎながらこの話を仁太に語ってくれた。

「その神話的な生物の獣人って珍しいのか?」

「もち。美男美女を約束されたエルヴィン、その女性ってのはもうそれだけで宝石の塊よりも価値がある。彼女が狙われるのはそのせいってわけだ」

 セナが囚われていた理由・・・仁太の中にあった疑問の一つは解消された。

 つまり、

「セナが予見者だからっていうのは、この件には全く関係ない、と」

「その通り。それに・・・」

 そこで徳郎は言葉を詰まらせた。

「それに?」

「ああ、いや、やっぱなんでもない」

「なんだそれ」

 もったいぶっているのか、それとも何かまずいことでも言いかけたのか。

 続きを気にする仁太を、徳郎は「大したことじゃない」と言って遮った。

「とにかく。セナちゃんを助けてくれたことに多くの島民が感謝しているはずだ。なにせ、うちの島のアイドルみたいな存在だから。魔術師のじーさんなんか孫みたいに可愛がってるし、娘同然に可愛がってくれてる人は大勢いる」

 そう語る徳郎の表情は自慢の友人の話をするようであったが、しかし異世界でも平然と美少女Tシャツを着こなす彼の趣味を考えるとそれはどことなく危ない表情に見えなくもない。

 彼がどういう人物であるかはさておき、会ったばかりの仁太に色々と話してくれるところをみると、先ほど仁太を気に入ったと言っていたのは本心のようである。

 着いて早々に知人が出来たというのは大きい。青の層について、セナを質問攻めにすることもなくなった。何より年の近い同性ということもあり、徳郎はセナよりも話しやすい。趣味が合うかどうかは別として。

 色々と聞きたいことはあったが、まずは衣食住の確保を優先するべきだと仁太は判断し、そのことに付いて尋ねることにした。緑の層の時は替えの服は支給されたが、青の層は金が存在する以上、買うことになりそうだ。

「明日から住むところを確保したいんだけど、まず何をすればいいか教えてもらえないか」

「何言ってんだジンタン。ここに住むんじゃないのかよ?」

「その呼び方やめろ。それにここには住まない」

 それを聞いた徳郎は信じられない言葉を聞いたという顔をし、拳を握りしめると勢い良く立ち上がって仁太を睨みつけた。

「お前は馬鹿か!合法美少女ロリと同棲できる機会を棒に振る気か?ふざけるのも大概にしろ!お前自分が何言ってるのかわかってるのか!?」

「同棲言うな!合法ロリとか言うな!ふざけてんのはお前の方だ!合法だろうが違法だろうが、女の子と一つ屋根の下なんぞで暮らせるか!」

「何だ何だ、気にしちゃってんのかぁ?意識しちゃってるんじゃねーか、このロリコン野郎!相手をいやらし~い目で見てるから、邪な感情があるから、一緒に暮らせないなどと思うんだ!」

「ろっ・・・!?言うにことかいて、この・・・!見た目がどうだろうと18歳だろうが!歳が近いんだ、意識もするだろ!じゃあなんだ、お前は女の子と二人きりで暮らせって言われてできるのか!」

「できるとも!」

「いやらしい目で見ないと?」

 フンと鼻で笑う徳郎。胸を張り、自信に満ちた表情で彼は言い放つ。

「見るさ!見ないでどうする!」

「馬鹿野郎だお前!」

 最低の発言を最高の笑顔でする徳郎こそ、セナにとっての最大の危険ではないか。

「さっき、じーさんがセナのことを孫みたいに見てるとか言ってたな。あんた、どういう目でセナを見てるんだ」

「漫画から飛び出してきた美少女」

 サラリと、こともなげに言う徳郎。

「なんて奴だ・・・」

「なんとでも言えよ。罵詈雑言なんて聞き飽きたから、何を言われたって俺は考えを曲げたりはしない」

「開き直りやがった・・・」

 それを聞いた徳郎は真面目な顔つきになった。先程までのふざけた印象は、ない。

「開き直りもするだろ。いいや、開き直らなくてどうする」

 徳郎は静かな声で語る。

「こんなごった煮の世界に放り込まれて、もう帰れないって言われて。それでもまだ前の世界のことを引きずって自分の殻に篭るような生き方、馬鹿馬鹿しいと思わないのか?俺は思うぞ、最高に馬鹿馬鹿しい話だ。俺たちは異世界に来たんだよ。例え、平行世界の地球出身者で構成されているとしても、何千年何万年も前に分岐した平行世界なんて異世界も同然だ。文化が違う、技術が違う、法律が違う、常識なんて当然違う。俺たちの世界の金なんて、ここで何の役に立つ?ケツ拭く紙にもなりゃしないってやつだ。金だけじゃない、常識だって同様だ」

 ふざけた演説と一蹴することもできるだろう。だが、徳郎は至極真面目にそれを話し、そしてそれを聞く仁太にも、彼の言葉は一つの意見として聞くに値する、いや、それ以上の価値を持った言葉として響いた。

「赤の層に住み着いた連中は平気で人を殺す。それを聞いた他の層の連中の中には、赤の層の連中を殺そうと言い出す奴もいる。殺すって、簡単に言うんだぜ?どっちの連中も、俺たちからすれば非常識だってのに。ズレがある。溝がある。わかるだろ?違うんだよ、考え方が、発想が、世界が」

 だから、と徳郎は言葉を一旦切った。

「開き直っていいんだよ、ここではな。人を殺せるようになりましょうって言ってるんじゃない。人殺しさえ正当化されるほどにズレた世界で、好きなモノを好きっていうことくらいで物怖じするなんて、そんな小さい生き方じゃつまらないだろ」

 そう徳郎締めくくった。

 常識のズレを理由に、自分を正当化した滅茶苦茶な言い分だったが、一理ある。前の世界には帰れないと言われた以上、元居た世界のことを引きずる必要など無い。郷に入れば郷に従えとはよく言ったものだ。

「お前、すごいな・・・」

 素直な感想だった。嫌味でもなんでもない、ただ本当に、目の前の男が凄いと思えた。

「別に大したことじゃない。俺がいた世界って、俺みたいな趣味の奴は迫害されててさ。だから、この世界に来た時、しがらみから解放されたって大はしゃぎして、今こうして好き放題生きてるってわけ。ここに転移してきたことで、元居た世界での生活を失った人がいるのも知ってる。同情はするけど、気を遣ってやる気はない。条件は皆同じなんだからな」

 言い切って、少し照れくさそうに笑う徳郎。

 仁太は理解した。彼は、自分と同じなのだと。自分と同じく、世界に嫌気がさし、そこから神隠しの庭へと脱出することができた。

 そして同時に、自分とは違うことも理解した。他人の目ばかり気にして自己を責める自分と、お構いなしに自分の気持ちに素直な徳郎。

 正直なところ、仁太は徳郎の趣味に若干引いていた。それは同時に、徳郎自身にも引いていたことになる。変態的な趣味をもつ、変な奴。

 しかし、蓋を開けてみればどうだ。

 神隠しの庭への転移という事態を受け止め、強く生きている徳郎を、どうして笑うことができるだろうか。うじうじと自分をいじめ続けて、その結果としてランジャにも迷惑を掛けた自分に、徳郎の何が責められよう。

「難しい顔してんな」

 徳郎が言った。苦笑いを浮かべた彼は、仁太の肩をポンと叩く。

「その様子だと、お前、まだ迷ってるみたいだな。いきなり色々悪かった。俺みたいに吹っ切れちまえとは言わない。前の世界を引きずるなとも。ただ、いつかはっきりと決めるんだな。吹っ切れて自分に素直になるか、前の世界の常識を貫き通すか。どっちに転ぶのも自由だが、どっちかには転んどけ。どっちつかずのまま生きて苦労するのは自分だぞ」

 そう言って彼は笑った。

 どっちかに転べ。苦労するのは、自分。まさにその通りだろう。事実、自分はこんなにも悩んで、辛い思いをしている。その結果が、ランジャだ。

 だけど。

(そんな簡単に、吹っ切れるもんじゃないって・・・)

 言葉にはしない。これを徳郎に聞かれるのは、きっと、ものすごくみっともないから。

 と、ドアが開き、セナが部屋に入ってきた。何故か割烹着を着ているエルヴィンの少女を見て、仁太が徳郎のほうへ目配せすると、彼はグッと親指を立てて応えた。この男がセナとどういう関係にあるのかわからないが、とにかく自分の趣味を押し付けることに成功しているようだ。

「出会ったばかりだというのにもう仲良くなったみたいですね」

 にっこり笑ってセナは言った。

「夕飯の支度ができました。冷めないうちに、是非」

「待ってました!」

 早く行こうぜ、とせっつかれ、仁太は立ち上がる。

 セナがドアの向こうに消えたのを確認した徳郎が、仁太を小突いてきた。

「セナちゃんが他人を食事に誘うなんて、多分初めてのことだ。嬉しそうな顔してたろ?」

「そうか?会った時からずっとあんな調子だけど」

「それだけ喜んでるってことだよ、お前のこと。一緒に暮らしてやれよ。さっき言ったとおり、ここは色々と非常識な奴らが多いんだ。女の子の一人暮らしは不安だろ?」

「非常識になれよって言っといて、それを言うか?」

「ああ、そりゃ大丈夫だ。お前に、そんな度胸があるとは思えない」

 肯定するのは癪だが、否定するのはすなわち「私は見た目12歳を襲えます」と変態宣言しているようなものだ。

 反論できずに黙りこむ仁太を、満足気に眺めながら徳郎は笑った。

「やっぱお前、いじりがいあるわ」


徳郎は当初、通常時は「でちゅ」口調、真面目なときだけ普通の口調にする予定でしたけど、崩壊しかかってる作風にトドメをさす気がしたので自重しました

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